008 魔族2
3回目のすごく大きな音。振り返ったお姉ちゃんの顔が、もう見てられないほど苦しそう。
「お姉ちゃん。大丈夫だよ、フェドさんなら、大丈夫」
私の声を聞いたからか、全く関係ないのか分からないけど、お姉ちゃんはしゃがみ込んだ。
「なんで…なの」
「お姉ちゃん?」
「あたし、じゃない。あたしは殺してない! あたしは、魔法がなくて。だから、あれはあたしじゃない!」
「お姉ちゃん!」
頭を抱えていたその両手は地面につく。ついに我慢していたものが漏れ出すように、泣き声と呻き声がこぼれた。
どんな人でも、悩みや苦しさを抱えている。それに寄り添えるのが、大人ということ。
死んでしまったお母さんが、私によく言っていたその言葉を思い出した。
「捕まえた」
魔族の耐久性は知らないが、ロアの魔法と俺の魔法の出力差じゃあ、まともに戦っても分が悪いとは思っていた。
それでも、勝ち筋はあった。ロアの魔法なら、本人の次に詳しい自信がある。
それは、着弾時に炸裂する炎の弾を、火炎によってコーティングしたもの。
要するに、俺の風の炸裂弾の元ネタだ。もちろん、俺のは小手先で作り上げた紛い物だが、あいつのは魔法の性質による本物。魔素効率も、発射までのスピードも、出力も大きく異なる。
だが、共通の弱点を持っている。
魔族が長々と話している間に、魔素は腕に集めていた。
そこまでしてできるのは、二回り強くした程度の空気砲。まともな攻撃にはならない。
それでも、コーティングを破るぐらいなら届く。
炎の弾が撃ち出される、その直前。俺は腕に集めていた風を、炎の殻に叩き込んだ。
火炎の膜が破れる。
次の瞬間、炎の弾は内側から炸裂した。
弱々しい熱風、光、音。
少なくとも、あの日の魔法には全く届かない代物だ。
…ああ、なるほど。俺と会話できるほどの距離だったからか。
どうやら、魔族も自爆は怖かったらしい。
「相打ち上等だったんだがな。まさか無傷で終われるとは思わなかった」
吹き飛んで、焦げて、何を言ってるかも分からないそれに、剣を刺す。脳天と、首、顔。魔族と人間の弱点が共通か知らないが、心臓のあたりも刺しておいた。
「遠距離じゃあじいさんみたいにいかなかっただろうけど、近距離なら練習はしてたんでね」
役目と己の命は最優先に。彼なら、きっとそう考える。
あたしの役割はなんだ。
この子を送り届けて、軍と一緒にフェドと村人たちを助けることじゃないのか。
動け、嘆くのは後だ。時間の無駄だ。だから、顔を上げた。
「ああ良かった。鼓膜壊れたのかと思った。指示の聞けないポンコツと一緒に海を渡るなんて、ゴメンだからね」
知らない顔だ。肌は紫色だろうか。暗闇に目は慣れてきたが色覚はどうしても歪む。
あいつと違って羽は生えてないが、人間とは思えない牙。それ以上に、直感がこいつは魔族だと叫んでいる。
手のひらに、生暖かい液体を感じた。赤々としたそれは、あたしの愚かさを物語っていた。
「ミラ」
無意識に、声をかける。返事が返ってくるはずもないのに。
「今が一番良いかな。頭、ちょっと痛むよ。気をつけてね」
ガリガリと、頭を蝕むような衝撃。直後、悪夢みたいなのが次々と雪崩れ込む。




