076 中級試験4
「よ。トーナ。となり良いか?」
「フェ…ド…。ああ、うん。良いよ」
訓練室は、ほとんど貸切状態だった。放課後すぐの時間だからな。これから少しずつ増えて、いつも通りになっていくのだろう。
「あの、さ。さっきは、ごめん。心配してくれてるのは、分かってるつもり。…でも、どうしても譲れなくて」
「良いさ。少しなら、俺は気持ちを分かってるつもりだ。…置いて行かれるのは、あんまり気分良くないよな」
「…ほんとうに、そうだね」
会話が途切れ、トーナは炎魔術の練習に戻る。しかし、組み上げ途中に霧散して、発射に至らない。
見た感じ、術式の構築がうまくいってない。正直、ここまで苦戦するとは思ってなかった。
多分、パズルで言うと、ピースの形がしっかりと見えてない状態なんだろう。ちゃんとハマってると思い込んで、次に進んで、次に進んで…。
それで、魔術が成立しない。
俺は、ロアは、どうやって魔術を使っている? 正直、あんまり苦戦しなかったから、アドバイスも何もって感じだ。
「…そうだ。フェド、魔術見せて。お手本があった方が、絶対良い」
「ああ、良いぜ」
魔素は目に見えない。それでも、個別に形を持っている。だから、術式というパズルを完成させるためには正しい形のピースが必要。
この形を感じるには、慣れが必要だと思う。実際、俺も手探りで掴んだ。
「…ぶっちゃけさ、どうやってる?」
「どうにも、説明が難しいな。
目を瞑った状態で、特定の形のピースを見つける。そのためには、…そうだな、例えるなら。手のひらに乗せて感触で形を測る。…みたいな感じだ」
じっくりと、丁寧に。口から出そうと思った言葉が詰まって、別の言葉。
「…なぁ。俺のこれって、ロアにも言われたか?」
「正直、おんなじこと結構言われてる」
それなら、ロアが休めって言った理由にも説明がつく。
じっくりと、丁寧に。それをできる余裕が今の彼女にあるだろうか?
ロアめ、自分で言えば良いものを。いや、今のトーナじゃあそれでも聞き入れなかったか。
「やっぱり、トーナ。お前、一旦休むべきだ。落ち着いた精神状態の方が、多分コツを掴みやすい」
「…ロアとおんなじこと言ってる。落ち着けるなら、私だって落ち着きたいよ」
「そうは言ったって…」
…いや、違うな。俺は、トーナを止めたいんじゃない。
「悪い、今のなしだ。そうだな、15…いや20秒。術式を組むのに、それだけ使ってみろ。魔素の消費は多くなるが、これなら可能性はある」
「それじゃあ魔素がもったいない。練習のためには魔素が必要。だから、それはダメ」
「今のままじゃ、時間の方がもったいない。嫌なら、嫌でいい。
他にできることがないか、一緒に考えよう」
苦虫を噛み潰すような顔。でも、それだけじゃないはずだ。お前だって、落ち着ける手段が欲しかったはずだろう?
「…分かった。やってみる」




