064 勉強会1
「あー…フェドくーん? 良かったら、赤点候補者の私めに勉強を教えていただいてもよろしいでしょうかぁ?」
「…へりくだるなよ、気持ち悪いなぁ」
「うるっせぇ! 多少気持ち悪くても! 教えを乞うものとしての礼儀は捨てられない!」
「殊勝なやつ」
「…なんというか。地味な部屋だねぇ」
「開口一番それかい。仕方ないだろ、自習室みたいなのはうちの学校にないんだから」
「どうどう。感想言っただけじゃんかー。…もしかしなくても女の子、というか人間連れ込んだの初めてだな?」
「いや、ロアが入ってきたことはある。
…あー、アルネス家からは馬車で荷物を運んだんだが、中身がごっちゃになってたらしくてな。
それで、中身を持ってきた」
「…机と椅子、鏡と本と棚。ベッドは備え付けかな? 荷物こんだけしかないのによく混ざったねぇ。感心する」
「とんでもなくバカにされてる気がする」
「間違ってはない」
机に彼女の教科書が開かれている。椅子に座った彼女はうんうんと唸っている。俺はベッドに腰掛けたり、机のそばに立ったり座ったり。
まさか、うちの学校の学力テストでここまで苦戦する奴がいるとは。
…ちゃぶ台的なの、買うかなぁ。
「…あのー。ここも、分からないです」
「…最初から、全部分からない。と、言い切らなかったのは褒める。問題と向き合う意思は何より大切だからな」
「えっへへー」
「褒めてない」
「ええ!? 褒めてないの?!」
「結局ほぼ全問こんな感じじゃないか。まぁ、もうちょい賢ければ褒める気にはなれただろうな。
お前、座学の授業中何してたんだ。割とマジで」
「…お昼何食べようかなぁ、とか考えてた」
「食いしん坊キャラはティナで事足りてる」
「ティナ本人は結構隠してるつもりなのに、バレてたんかい」
「いつもお昼ご飯まぁまぁ食べてるでしょあの子。あと、…やっぱなんもない」
「すごい気になる!」
「勉強しろ。分からん部分は教えるから」
「…数学わっかんねぇ」
「授業選択。自分にできないことを学ぼうって思ったタチだな、さては」
「なぜバレた。だってぇ、…あー、まぁ、当時は色々とね」
「……。ああ、元々は、座学を真面目に取り組むつもりだったのか」
「紆余曲折あって、こうなってるけどねぇ」
何か考え込む様子。それが、勉強についてでないことは理解できた。それでも、ちょっとだけ待ってみる。
「フェド、ありがとう。色々とね」
急に、そんなことを言う。勉強を見ていること以外、感謝されるようなことをした覚えがない。
「色々と、まで感謝されるようなことした覚えがない。勉強については貸し一つな」
またこいつは、みたいな顔でこちらを見てきた。そんな分からず屋か、俺は。
「…えっとさ、フェドと、この学校で出会えて良かった。多分、私にとって最後のチャンスだったと思うから」
ついさっき、紆余曲折と言っていた。過去を思い返すには十分なきっかけだったのだろう。
「おいおい、そんなわけあるか。トーナなら、俺がきっかけにならなくても魔法の世界に戻ってきていた」
「…そうは、思えなくてね」
「だが、魔法をしていないトーナは想像できない」
「でも、これ以外に戻ってくる方法が見つからない」
「思いつかないだけで、ないわけじゃないだろう」
「…そう、なのかなぁ」
「ああ、そうだ」
俺の言葉を聞いて、そいつは吹き出すように笑う。勉強のしすぎで、情緒不安定にでもなったのだろうか。
「強情すぎでしょ、フェド! しんみりしてたのがバカらしくなっちゃった! じゃあ、ここからここまで教えて!」
「それは全部って言うんだ」




