006 強襲・再
「あったかい。すごい、お姉ちゃん」
「ふふん。そうでしょうとも」
ミラという少女は、すっかりロアに懐いたようだ。免許なしで使用できる魔術を、彼女はコンプリートしている。彼女の多芸さと、そのあり方は人を惹きつける魅力と言えるだろう。
「冷えた夜にこそわかるありがたみじゃのう。送風魔術と加熱魔術の合わせ技かの?」
この子が噂の師匠かと、小さく小さく呟いた。
「おじさま大正解。冷却魔術と合わせて冷たい風も出せるよ。フェド、ちょっと左によけて」
「俺で実証しようとすんな」
出発は明日の朝。行商人の馬車に乗せてもらい、3人で発つ。
ミラは水魔法の使い手で、水の国に連れていくほうが安全という判断らしい。
彼女の魔法を見せてもらったが、純水を生成する性質を持っていた。
水鉄砲程度の威力しか出せないため、全くもって戦闘向けではない。しかし、それを忘れさせる特徴がある。
魔素効率が純水魔術と比べてかなり良い。これは、とんでもなくレアな性質だ。
基本的に、魔法や魔術の成果は使った魔素の量に比例する。それが常識だ。…その例外が、身近に二人もいるとは。
ともかく、ミラはきっと水の国でもよく扱われるだろう。
窓の外で、強烈な光。地響きのような振動。どがっ、という音と、キーンと耳鳴り。
建物の残骸か、風か。何かに吹き飛ばされた俺は、いつの間にか地に倒れ伏していた。
夜空が、立ち上りゆく黒い煙で覆われている。この黒い煙は吸わないほうがいいんだっけな、人体に悪影響と聞いた。
自分の脇のすぐ隣、割れた木の扉が、鋭利な刃物と同じようになって地面に突き刺さっている。
今、俺が五体満足なのは幸運以外の何物でもない。
「ロア! …ミラ。じいさん」
魔族、そうでなくとも何者かの強襲。大声を出すなんて愚策でしかない。
「フェド。お主は二人を国まで、頼んだぞ」
「おい、じいさん。…いや、頼む。じいさん」
じいさんは返事なく、森の方へと向かっていった。…二人は、見当たらない。瓦礫の下、だろうか。
まずいな、俺の治療魔術じゃあちょっとした怪我しか治せないぞ。
ブモ、という特徴的な鳴き声が背後から聞こえた。…一体、はぐれものがいたらしい。
背中に大きなツノの生えた、猪の魔物。頭からの突進が主体なのに、背中に生えるらしい。魔物学は詳しくないが、奴らの戦い方はちゃんと知ってる。
まず、魔猪と目を合わせながらゆっくりと建物があった場所から出る。誰かを巻き込む戦いはできない。
痺れを切らしたのか、それとも待っていてくれたのか。土の道に出た瞬間の突撃。
こいつらの攻撃方法は突撃のみ。ただし、寸前で左右に避けてもちゃんとその動きに合わせてくる。
なので、風魔法込みでの大きな跳躍。地面と平行に、寝転がるような姿勢で下からの風を受けやすくする。
空中で、炸裂の風を作成。
地に着く寸前に軽いコーティング。
完成と同時に地に足がつく。その頃にはすでに、やつはUターンを決めてこちらに突撃していた。
近距離なので投擲の要領で射出。近距離戦では発射台よりもこっちの方が色々と楽。速度や射程などを体感で知っているのが特に大きい。
魔猪の通り道、地面で炸裂。自身の体が宙に舞うことを想定していなかっただろうやつは、勢いをそのままに建物だったものをも追い越して飛んでいく。
村の門番が丹念に育ててたらしい木に衝突。
打ちどころが悪かったのか、そのまま意識を失ったようだ。
「…結構派手に戦って、それでも増援はなしか。とりあえず、二人見つける。そんで、村の人も…」
「フェ…ド…」
瓦礫の中から、声が聞こえた。無事だったか。
「ロア。よく起きた。おかげで探す手間が省けた。体は大丈夫か?」
「体、体は大丈夫。ちょっと、クラクラしてて」
頭を強く打ったのだろう。しばらく安静の方がいいだろうな。ただ、瓦礫からはさっさと出してやらないと。




