005 風魔法
体内の魔素を腕に集約させるイメージ。着弾地点に向かって腕を伸ばし、手を広げる。
その少し先、そこを座標に風魔法を発動。
まず、炸裂の風の生成。それが途中で霧散してしまわないように、包み込むように風で何層ものコーティング。
これで、3秒。
射出。狙いの木へ一直線。
着弾。そして炸裂。
すらっと細っこい木ではあったが、ちゃんと折れてくれた。ギリギリ格好がついた。
薪にするために、倒れた木に斧を振る。カンッカンっという木の音色が、村での日々を思い出させた。
教会のすぐとなり。ちょっと日陰になっているそこで、一人っきりか二人っきりで過ごしたあの日々を。
「その歳にして、中々洗練されとる」
「ありがとう、村長」
「良い師匠かライバル、そのどちらかがお前さんの力を引き出したというところかの」
「両方、だな。良い師匠も、ライバルも、いる」
「そうか。…大切にするんじゃぞ。
…風で何層にもコーティングした、衝撃で炸裂する風の弾を作り、それを崩さぬように風で押し出す。あっとるか?」
「ああ、そうだ。ほとんど受け売りだがな」
「…それでも、弱点は威力じゃな。かなり工夫したようじゃが、まだ足りない。魔物を吹き飛ばすのがお主の限界。決定打にはなり得ない」
「だが、これ以上工夫の余地が見つからない。超至近距離なら風の刃が使えるが…。村長、あんたはどう思う?」
手刀の構え、五指の先から風を強く噴射させる。指先から30センチ、有効射程で木に斬りかかる。
こういうのは、実際に見せた方が早い。
石の斧より、ほんのちょっとだけ切れ味がいい。もちろん、叩き切るというコンセプトの斧とは比較にならない。
それでも、二つの斬り込みを見た感想は、その程度のものだろう。
村長の大きな笑い声。ただ、嘲笑によるものには見えなかった。
「まだ青いな、フェド。鍛錬に励め。3秒での撃ち出しを…そうだな。10秒で撃ってみなさい」
「それじゃあ実戦で役に立たない、そんな時間がどこにある。3秒でさえ長い方だろうに」
少しばかり不貞腐れた感情が表に出てしまった。笑われるってのは、いつでも良い気分はしない。
「実戦で使えるわけないじゃろう。
お主の真の問題は、威力不足を工夫で補ってきた、その弊害。3秒で撃つ、そのための工程を出力と共に固定化しておる。だから、10秒じゃ。
風の刃で切り裂ける。それだけのことができるなら、本来もう少し威力を出せるはずじゃ」
飲み込めない様子の俺を見てか、うんうんと頷く。どこか嬉しそうな、懐かしそうな顔。
「炎や水、土と違って、成長そのものが遅く、実感しづらいのが風の特徴じゃ。じゃが、お主は間違いなく成長はしておる。どれ、早く撃ってみんか」
「制御ミスで被害が出るかもしれない。また旅の途中で、機会がある時に試すよ、村長」
「ほう。殊勝な。お主の風魔法程度で出せる被害なんて、たかがしれとる」
言ったな、じいさん。安い挑発に乗るようだが、それは撃ってもいいぞと村長が言ったことに他ならない。
「真上に撃つぜ、これならちょっと制御ミスっても問題ねぇ」
手のひらの面と地面が平行になるように真上に構える。撃つぞ撃つぞと言わんばかりに、風魔法を吹かす。
「かまわん」
「…ほんとにやるぞ」
「かまわんと言っておる」
マジで知らないからな。心の中でそう叫んだ。
二秒。炸裂させる風を作る。
四秒。いつもより厚く、それを風で包み込む。普段なら、とっくに撃ち出している。
七秒。発射台になる風を作る。
これで、制御下に置かなければならない魔法は完成。
…それにしても、重い。質量は存在しない。何なら重力の干渉も受けづらいはずなのに。
八秒。キュルキュルと手のひら先の風同士が擦れる音のようなものが響く。
今は撃ち出し用の風を作るため、魔素を腕に溜め込んでいるだけ。
…制御が崩れ始めてる、10秒って何が基準なんだよ。どうする、撃つか。
「撃て」
その声とほぼ同時。だが、合図に合わせたものじゃない。暴発だ。
風のコーティングが甘い。発射威力が低い。時間をかけた分いつも以上に距離は出せるだろうが、せいぜい150メートル。
魔素効率が悪すぎる。
「…曲がった!」
それは、致命的な制御ミス。コーティングの形が歪なせいか、空気から受ける力によって軌道に変化が生じた。
上空約15メートル。大きく曲がった弾は、村の方への軌道。
「射つ!」
指先からの遠距離射撃。威力のことばっかりで、そんなの碌に練習してこなかった。コーティングを破るためには鋭く硬い弾が必要。風魔法でなければ、単純な話なんだろうが。
じいさんが、俺の腕を上から押さえ込んだ。
そして、じいさんは空いている方の腕を動かし、指先の照準を弾へ合わせる。
風の弾。じいさんから出たのはまさしくそれだった。
溜め弾は、風の弾の着弾によって音もなく破裂した。遅れて、ブワっと短い風が来る。突風というにはお粗末な、服が靡く程度の風。ともかく、村の危機は去ったようだ。
「様になっとるじゃろう」
「ああ、じいさん」




