056 歪み
「小さな帆船、というかイカダを作って、無理やり海を渡って来たと?」
「それ以外に、思いつかなかったので」
「…まぁ、荒れた海ではないが。1週間はかかるだろう、風魔法を駆使しても。
…あっちには、魔物がいないとさっき言ってたね。食料はどうしたんだ?」
「…えっと、殺した魔族を、食いました。美味しくなかったです」
「……そう、か…」
「…あー、…えっと、こっちの大陸についてからは、開拓者さんに拾ってもらって、美味しいもの食べれました。…だから、まぁ、はい」
「…よく、帰ってきたな。左腕は…。いや、もう、大丈夫だ。しばらく、休んでくれ」
「お、ロアぁ。暇人かよぉー。全く、毎日来てくれるなんて、トーナ感激だぁ」
「魔術が行き詰まっているから、ちょっとした暇つぶし」
「照れ屋さんめぇ。いや、ティナレベルと比べると個性として弱いな。うーん、何かおすすめない?」
「ない」
「ちょっとは考えようとはしてくれよー。会話にならないじゃんかー、もう。…あー、ティナとちゃんと仲直りできた? ギクシャクしてたでしょ?」
「うん。…トーナが帰ってきたあと、改めてちゃんと謝った。お互いに」
「…それなら、良かった! …ああ、えっとさ、学院はどうかな!? 座学ちょっとやばいかもなんだよねぇ…。治療院暇だけど、勉強したくなーい!」
ロアのその言葉は、かなり遅れてのものだった。
「…2人とも、無理してるのを見るのが辛いって、言ってた」
「え。…何の話かなぁ? いつも通り、元気な私! いつもこんなもんじゃん」
「苦しい時は、そう言える子だと思ってた」
嫌な感覚。あの静かな洞穴での一瞬がよぎってしまった。
「やだなぁ、もう。わざわざ隠す理由って何さ、結構な長旅だったし…。いや、そもそも人と会ってない時間なんて1週間とちょっとで、だから、ちょっとした旅をしたような気分かな」
「…ちゃんと、言って。そうじゃないと、お互い苦しいんじゃない?」
いつもと変わらない顔、いつもと変わらない目。それなのに、心のうちを透かして見られているような気分になった。
…いや、そもそも苦しさなんてみんなと一緒にいれば問題ない。
「苦しいって、そう思うなんておかしいよ。だって、ちょっとした旅の話で、ちゃんと帰ってこれて。ここにはみんながいて。だから、うん。私は大丈夫だって!」
「そう、見えない。あたし達で苦しさを和らげることはできてるんだろうけど、根本的には治ってない」
嫌に、心に刺さる言葉だった。
「やっぱり、今日は帰って。…あはは、ちょっと眠くて、だからさ、続きは明日にしよう!」
「帰れない。まだ暇つぶしは終わってない」




