049 騎士
「どうする? 2人とも」
「あたしはちょっと難しい。魔術だと威力が足りない。それに、魔法使いが足りないとはいえ、兵士は足りてるし無理に参加しなくても。…と、思う」
「私は行くよ! 門が突破されたら魔物戦が難しくなる!」
「…私も、行ってくる。ロアちゃんは、避難して」
「そうする。2人とも、どうか無事で」
…おいおい、兵士はどこ行ったんだよ。まさか、他のどこかに戦力が偏ってるのか?
…まずい。門は既に突破されてる。俺はなんとか逃げられたが、全員が逃げ切れたとは到底思えない。
「…学徒動員ってやつか」
安心した。どうやら、ふざけたことを言う余裕はあるらしい。
「お前は、ただ暴れ回るだけで良い。ヤバくなったら撤退しろ」
なんて、俺向きの仕事なんだ。俺の肉体も、魔法も、すげぇ喜んでる。
それにしても、兵士どもの甲冑は酷かった。機動力が落ちるのに、俺の大剣は受けられない。カカシを壊してるような気分だったぜ。
逃げ遅れた子供が目についた。あまり気は進まないが、これは戦争なんでな。
「…ん?」
風の流れが、こちらに向かってくる。そちらを確認し、一歩後ろに飛び退く。風魔法か、あまり戦った記憶が無い。
それは、こちらを追うように軌道を曲げた。
「大丈夫か? 怪我がないなら、早く逃げろ」
「あ、ありがとう。お兄さん」
罪滅ぼしに死ねるのは、俺にとって本望だろうか。
あの日逃げたことは、まったく後悔していないはずだった。多分、正しい判断だから。
それでも、俺は今日戦うことを選んだ。間違った判断なのは重々承知だが、少なくとも1人助けられただけで良かったと思えた。
「ここで満足して、死にたくはないがな」
「そりゃあ良い、死にたがりを相手にすることほどつまらんことは無い」
「…おいおい、ノーダメージってのは反則だろ」
青白い肌と、鋭い牙。ほんの少し長い腕と、背丈とほぼ同じ長さの大剣。そいつが、東門の方からゆっくりと歩いてくる。
もろに喰らったように見えたのに、纏う服以外はまったく傷ついてないように見えた。
炸裂弾だぞ、曲がるやつ。
…こりゃあ、戦える魔族だ。素直に逃げとけば良かったかな。
「悪いね、お前さんたちとは身体の出来が違う」
大剣を、片手で構える。そこは、両手であってくれよ。
睨み合ったのは一瞬。魔族が突っ込んでくる。
思考より先に、後ろへ飛び退く。
リーチ差を考えると、レイピアは懐に潜るのが大前提。ただ、片手空いてるのがあまりにもしんどい。多分殴られただけであの世行きだ。
…さっきの炸裂弾。効いてなかったとはいえ、子供を逃がせるだけの時間は作れたよな。
突っ込んでくるタイミングより、少し早いか。炸裂の風を生成。魔法を警戒したのか、突進が止まる。
そのまま打ち出す。丁寧にコーティングしている暇はない。
「がッ!いってぇ!」
俺と炸裂の風の間に軽い風のカーテンは作ったが、それでも風圧と衝撃は来る。
「意外と威力出るじゃねぇか。工夫か? 嫌いじゃあねぇ」
後ろへ弾き飛ばされた俺を、魔族は追いかけてくる。少し焦った。打ち出しの時に魔族との距離が空きすぎた。…いや、完璧だったとして、一体何秒止められる。
…まずい、進行を止められない。せめて、無理やりにでも東門のほうに向かわなければ。何のためにこいつと戦ってるかを思い出せ。
自分の背後に、炸裂の風と風のカーテンを出す。タイミングは、魔族から4メートルぐらい。…生きるか死ぬか、ここは賭けだ。
左手のレイピアを、右脇に抱えるように。突きの構えじゃ、加速に腕が耐えない。
俺は、背後のそれを起爆した。
何かある。そいつの顔を見てそう思った。
どかんと、そいつの背後で爆発音。妙に火力ある風魔法の音だ。…暴発か、いや、違うな。
俺が武器を構えている方、右の脇腹を掠めるように、そいつは吹き飛んできた。なるほど、背後に回るのが目的か。あわよくば、すれ違いざまに一発狙いで。
「…おいおい。ずいぶんと逃げ腰だな。
…まぁ、好きにやって良いと言われてるしな。民間人殺すよりは、気分が良い」




