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人魔の世界  作者: 道草ノ跡
スーベル魔法学院編

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023 博打

 どうやら、一つ目の賭けには勝てたらしい。

 今日の天気は雨。昨日からずっと降り続けている。おかげでかなり空気が冷えている。



 51番は私だ。立場的には挑戦者だが、客観的に見て気楽にやれる状態ではない。

 一年生の私には、これが最初で最後のチャンスだということだ。

 次の入れ替え戦は6月。それでは気温が上がりすぎてる。かといって冷えるまでの間、周りの成長が止まるわけでもない。






 土の魔術と、水の魔術。使うのはこの二つ。

 まず、水の魔術で砲台を作成する。やりたいことのために、威力は何度も試して調整した。


 ただし、問題は二つある。

 一つ目は、木の板の分厚さを正確に測れないこと。試験前に横から見れる瞬間があったので、分厚さはある程度わかった。

 二つ目は、木の個体差。こっちは目で見ただけじゃわからない。硬すぎても、軟すぎてもダメだ。

 ここはもう賭け、二つ目の。


 

 土魔術で、弾の形を作る。初級魔術での限度いっぱいまで、先を尖らせる。

 呼吸を整える、少しでも手間取れば全てパーだ。

 …実践はこれが二度目だ。一度目は失敗だった。残りは模擬練習に全て捧げた。タイミングだけは練習のしようもなかった。

 だが、震えはない、動揺もない。



 勝負は一瞬。ある意味、ズレは命取りだ。



 まず、水の魔術に射出の操作を加える。

 少し遅らせて、土の弾丸に、土魔術による追加操作。

 直後、土の弾丸を管理下から無理やり外す。完璧なタイミングで、水の魔術による射出。



 スッカン。木を加工するような、良い音が響く。

 狙い通り、綺麗に刺さった。


 すぐ、土の弾丸が横へ広がる。

 板の内側へ、鈍い楔を打ち込むように。

 ミシッ。木目に沿って亀裂が走った。からんと、乾いた音が土に落ちた。



 膝が落ちる。遅れて、全身から力が抜けた。この戦いの前に、魔素をギリギリまで体から排出してきたので、当然と言えば当然。

 魔素切れで倒れるとは、これじゃあまるで、魔法使い始めの子供じゃないか。










 三つ目の賭けは、参加者のレベル。4月終わりと同じレベルだと、勝てないことはわかっていた。

 

 入試と、4月試験。その内容が違ったからか、順位の変動がかなり大きかった。実際、私の順位もそれによって急激に上がった。

 それでも、クラス落ちがかかってる人には傾向がある。


 威力が弱点。

 青天井のそれで点を稼げない人が落ちてくる。遠距離射撃や早撃ちで高得点をとって中位入りした連中は、元々威力に難を抱えていた。

 学校に通い始めてから、中位下位は特に魔法の扱いそのものが上手くなっている。それが、遠距離射撃や早撃ちに反映されている。対して、出力はそう簡単には伸びない。


 要するに、威力自慢以外が落ちる方の入れ替え戦に出るということ。

 4月の上位中位戦は、特にその典型例と言える。










「よう。調子はどうだ? ここは医務室な、あんたは魔素切れで倒れて、俺が運んだ。ティナとトーナもいる」


「体に、力が、入らな、い」


「だろうな、ギリギリまで魔素を捨てて、入れ替え戦に出たんだろうし」


 彼女は口を開こうとしなくなった。流石に喋り辛すぎたのだろう。


「中位入り、おめでとう。審議に審議を重ねた結果、発表がかなり遅かった。そもそも、何が起こったのかみんな理解できてなかったみたいだ」


 教師陣含めてな、と付け足す。傍から見ても、何らかの不正行為にしか見えなかった。妙に的を観察してたのも、それを結びつけるのに十分だった。


「魔術ってのは本来、形を完成させてから、射出、あるいは管理を放棄して地面に落とす。あとは、土とかなら素手で持てるか。

 ともかく、あの現象を説明するにはその前提を壊すしかない。

 仮完成した土の弾に追加で操作を加えて、その操作が反映される前に管理を無理矢理切った。

 合ってるか?」


「う、ん」


「…マジか、当たっちゃったよ。言ってみるもんだな。

 えっと…要するにだ。管理が残った状態で水の発射台を使うと、手から弾き落とされたボールのように、どこに飛んでいくか分からない。だから、どうしても管理を切る必要があった」


 軽く、手を動かした。当たっている、らしい。


「…魔素を極限まで削ってから参加したのは、ズレを可能な限り多くするため。魔術のズレの原因は結構個人差あるが、魔素が枯渇寸前ってのは明確にズレの原因になる」


「寒さも、必要、だった」


「…最終確認な。

 目的は、管理下から外した土魔術を的に刺して、そこで楔に変えること。

 それを達成するために、一つ魔術ルールを破壊した。形の完成…、操作の完了後のみ、その処遇を決められる。これだな。

 その上で、ズレは可能な限り多く必要だった。それは、操作の反映を遅らすため。管理下にないと、魔術、というか魔法も操作できない。

 だから、管理を切る前に操作だけ済ませて、反映を遅らせた…。そのために、ズレ…」


 つい、途中で言葉を切ってしまった。あまりに荒唐無稽。

 …確かに、魔術の操作経験において、ロアの右に出るものはいないだろう。いや、しかし。




「ねぇ、なんか、とんでもないこと言ってるんだけど、あの2人」


「こ、怖い」

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