022 ズレ
とても、静かだ。…いや、いつもが賑やかすぎただけだな。
あたしはいつも、トーナとだけ過ごしていた。あたしからクラスメイトに話しかける理由は正直ない。なので、孤立していることは、本当に仕方がない。
だけど、あの賑やかなひと時をついつい欲してしまう。
…満たされているその瞬間以外、ずっと渇いた感覚。どうにかならないものかね、ほんとに。
いや、クラスメイトに話しかけるというのはどうだ? 人と関わることで、この渇きが多少潤うかも知れない。
…いや、感情のあるフリはあまりに難度が高い。情報を受け取って、それと合う感情を、顔、声色、セリフ、身振り手振り。…無理だな、絶対。
ドタドタと足音。声を聞かずとも、その主は想像できた。
「ロアァァ! 私が遊びに来たぜぇぇ!」
教室の出入り口、顔だけをひょっこり出したトーナ。
「よっ、ロア。中位落ちが遊びに来たぜ」
ふつうに出入り口を塞ぎ、冗談を言う余裕を見せるフェド。あんた、友達とか作れたんだ。
「どっ、どうも…」
その後ろ、隠れるようにいたのは、確か上位中位入れ替え戦の時の子。
何にしても、いつも以上に賑やかな昼休みになった。
中位入り。今のあたしにとって、それを口にするのは簡単だ。その重みを感じづらくなっているから。
「…どうするか」
54位、それが4月終了時点の結果だ。実は、順位自体はどうとでもなる。
4月の威力試験。魔術の暴発によって、的はノーダメージだった。おそらく0点。
逆に言えば、そこで点数を出せさえすれば、十分入れ替え戦に参加できる。
「あー。一応、それってどうやるのか聞いて良いか?」
「まず、炎魔術の炸裂弾を作り、土魔術で」
「まて、魔術の炸裂弾も割と待ってほしいが、しれっと土魔術を足すな。
…いや、そこまでなら相当訓練すれば、ギリギリ、本当にギリギリ私でもできるだろう。教師としての強がりとかじゃないぞ?
どうやって、土のコーティングと中身の炎の炸裂弾を、ズレないように射出している? いや、射出方法自体はギリギリわかる。土は水魔術で、炎は魔素による直接発射で。この時点で、脳みそが拒否してるが。
一番は、タイミングだ。魔術を完璧に制御することは、ほぼ不可能だろう。魔素の残量や、気温や湿度などの環境、それで大きくズレが生じる」
「そこは、感覚ですね。何となくで調整してます」
あたしの魔術弾は、青天井の曲芸で評価対象だった。
効率も、魔素が人より多い私なら、ギリギリ満点、20枚抜きを狙える。
問題は、入れ替え戦自体だ。出力は、入試の時のが限度いっぱい。今この瞬間も差をつけられている。
…初級魔術じゃ明らかに限界だ。だが中級は五つの魔法学院、そのいずれかで一年過ごすことが試験参加の必須条件。
すぐには、トーナに追いつけない。
「…ズレの調整か。どうやったら説明できるだろう」
脳が休憩を要求しているのだろう。関係ないことを考え始めた。
…何となく、手元から抜け落ちるような感覚、あとは重さとか、そう言うので判断してたな。
魔素残量が少ないほど、気温が低いほど、ズレが大きくなって、例えば土魔術だと1秒ほどのズレになったりする。
「土…。ズレ…」
勝ち筋を、見つけた。




