017 上位クラス
定員はちょうど100人。上位クラス20人、中位クラス30人、下位クラス50人。学年ごとに三つのクラスへ分けられる。
「さて、上位クラスである君たちの面倒を見る、サテファだ。よろしく」
ポツポツとよろしくお願いしますという声と、それ以上に頭を下げる者。
「うーん、物静か。魔法使いは偏屈なやつが多いというが、これは毎年恒例だなぁ」
だからこそ、ドタドタとこちらの教室に走り近づく音はとても賑やかに聞こえた。
「遅れたぁ! …おっと、賑やかにしちゃいけない空気だった? あー、そこのお美しいお姉さん、良ければ俺の席がどこか教えてもらって良いかな?」
「…先生と呼びな。席は空いてるところを自由…いや、最前列、私の目の前に座れ」
「あははぁ。絶対問題児扱いされたぁ」
「さて、うちの学校、少なくともうちのクラスは割と仲良しこよしでやっていくつもりだ。気楽に構えてくれ」
気楽、という言葉で張り詰めていた数人の緊張が少しだけ解けた。もっとも、ついさっきの一幕みたいな絶大な効果はなかったが。
「知っての通り、水、炎、土の三国に存在する五学院の中で、ここは四番目と言われている。実際その評価は間違っていないし、それに異議を申し立てるつもりも毛頭ない。
…まぁ、上三つはお貴族様の通う学校だからな。生徒を絞って、一人一人に充てられる教員を増やす。そんな英才教育を受ければ、そりゃあ良い魔法使いは育ちやすい」
「せいぜい、お互いがお互いを高め合ってくれ。幸い、この学校はスペースを多めに取ってある。魔法の訓練には割と事欠かない。
正直、一人一人相手していては手が足りんのでな。行き詰まった時は協力してやるが、あんまり教師を期待するな」
まずは、クラスメイト同士で交流してみろ。時間は20分、らしい。
割と放任してくれる校風はとてもありがたいが、こういう場面はどうしても苦手だ。
…それにしても、"学内ランキングによる熾烈な競争"の雰囲気は全く感じないな。
もちろん、そういう校風であるという公式な話ではなく、出所も定かではない噂話に過ぎないものではあった。しかし、いやにリアルな話だったから、全くの出鱈目とは思えない。
「あの…、となり、良いかな?」
「え、はい。もちろん」
急に話しかけられてつい動揺してしまう。…女子か、ロア以外と話すのは本当に久々だな。家の三姉妹とは露骨に距離を取られていたし、司書さんも男。
「…しかし、物好きな人だな。こういうのは、人が集まっているところに行くのが定石だろう?」
「あ、うん…そうなんだけど、どうしても人が怖くて」
「…遠回しに人じゃないって言われた?」
「い、いやそんなつもりはなくて。なんというか、席の選び方だったり、多分、気が合うんじゃないかなぁって」
焦りで口元があわあわとなりながら、そう弁明する。
「怒ってるわけじゃない。…あー、正直、俺も人の集まりに混ざるのが苦手でな、だからすごく助けられてる」
表情がパァッと明るくなる。…流石に単純すぎる、もちろん嘘は言ってないのだが。なんというか、この子も難儀な性分だな。俺が言えたことではないだろうが。
相手によって会話の仕方を変えることの重要性は、敬語を学んだときに理解したはずなのだが…。いまだに、つい思ったことが口から出てしまう。
すぐに、20分に設定していたであろうタイマーが鳴った。
みな各々の席に戻った。…いや、さっきの女子は俺の隣の席に座っている。よくよく見れば、結構な人が誰かの隣に座るような位置取りに変わっている。
「よし、タイマーが鳴ってから20秒。真面目が多くて本当にありがたい」
少し、表情を変える。教師としての顔というより、支配者に近い。淡々と、台本を読み上げるような、容赦のなさでそう言った。
「さて、一つ真面目な話をしようか」
「…さっき仲良しこよしといったな。それに嘘はない。学生生活を楽しんでくれてもちろん構わない。…だが、少しばかり語弊がある。
それ以上に、高め合える目標や関係というのは存在していた方がいいということだ。魔法使いは我の強いやつは結構いるが、その真逆の性質を持つ者も結構いる。
放っておけば勝手に成長するってのは、教育者としてはかなり甘い考えとしかいえない」
「首席、次席は例外的に己の立ち位置を知っている。だが、それ以外の者は上位か、中位か、下位かしか知らない」
「だから、20位。ティナ・レイベル、立て。下から順に、クラスへ自己紹介だ。他の者も心構えはしておくように」
カクカクと、体を震わせて立ったのはとなりの女子だった。自己紹介の内容は、聞かなかったことにした。




