015 実技試験
座学の試験内容は、数学、文学、物理学、歴史学。そのうちの三科目を選び試験に臨む。
風魔法の工夫のためにも、物理学は外せないか。ともかく、座学試験は半年後。
実は、こちらはそこまで焦ることはない。
「391番」
出番が来たようだ。
…まさか、あの日から2週間で実技試験だったとは。特待生を狙う身としては、ここで無様は晒せない。
最初は威力の試験。国の外、門を通って平原へと向かう。
威力といっても、最低限の制御は必須であり、30メートル先にある結構大きめの的を狙う方式。
「風だ、珍しい」
それにしても、このゼッケンはちょっと恥ずかしい。杖の有無と、使用魔法や魔術が大きく書かれている。
13秒で、炸裂弾を完成させる。6秒を炸裂の風に、3秒をコーティングに、3秒を発射台に、残りで射出。
着弾。炸裂。薄い木の的は原形を失い、細かな破片を撒き散らした。
軽く土に刺しただけの支柱がちゃんと立っている。訓練の成果は出たようだ。
一番の難関は、最低限の出来と言っていいだろう。
「392番」
「…魔術使いだ。マジの激レアキャラじゃん」
新しく建てられた的を狙い、彼女は魔術の弾を作る。
炸裂する炎の魔術を、魔術の土で包み込む。次は形の調整。
弾丸のように先をある程度尖らせて、空気の抵抗を受けづらいように。
土の発射は水の魔術で行う。初級魔術の移動だけでは遅いため、水圧で一気に加速させる。
中の炎も同様に速度が足りない。土とは別の魔術だから、こちらは魔素操作で不足分を補い、動きを合わせる。
着弾。炸裂。焦げたあとがど真ん中。俺の炸裂弾より間違いなく威力は低い。
それでも、初級魔術の組み合わせで出せる最高火力と言っても良いだろう。
中級魔術の免許試験を受ける資格は、学院に一年在学して初めて得られる。なので、打てる手は間違いなく、無駄なく打っていた。
「さて。魔法実技試験から2ヶ月が経った」
そこは、学院の会議室。一部受験生の素性調査を済ませた試験官たちが、改めてあの日を振り返る。
「まず、特待生。例年通り上位2名。首席12番、ラヌ。次席391番、フェド・アルネス。
異論はないでしょうか」
8人の試験官と、学長は異論を唱えることはなかった。
「首席、水使い ラヌ。彼はラタタ村の生まれで、8歳の時からこの国の教会で暮らしている。教会の手伝いをほっぽらかして、遊び歩いている。ナンパか日向ぼっこの日々で、訓練の様子はあまり見受けられなかった。
…彼は伸びるでしょうね。早撃ちや、遠距離射撃は並ですが、威力だけは歴代受験生でもトップクラス。それに、威力以外は訓練で割とどうとでもなる」
「次席、風使い フェド・アルネス。彼は……素性を追うのが困難だったため、過去については本人から事情を直接聞きました。
4歳から15歳、カラッタ村の教会で育つ。1年前、魔族による村の強襲の被害にあった。その時に魔族と交戦し、一体を単独で撃破、もう一体を392番、ロア・アルネスと協力し撃破。その戦い…いや、魔猿の攻撃によって右腕を失う。
この国に来てから一年の間は、主に勉学に励んでいます。ただし、2日に一度、3時間だけ設けられる平原での魔法訓練には欠かさず参加している。
魔法使いとしては、素材型の首席と正反対と言っていい。早撃ち、遠距離射撃は理論値に近い。
威力は…上の下。彼の風魔法単体では、これ以上の出力は難しいでしょう」
少し、しんとする。ここにいるのは皆、才による理不尽な差という荒波を乗り越えた者たちではある。
だが、何も思わないほど心を捨て去ってはいない。
「あくまで、現在の実力順だ。威力のみ青天井の試験だから忘れがちになるがな。決して過大評価でも、過小評価でもない。
まぁしかし、フェド・アルネス少年はきっと他生徒の良い刺激になるだろう」
学長の言葉は、重くなった空気をほんの少しだけ軽くした。
「次に、ギリギリ合格圏内の392番 ロア・アルネスについて」
少しだけ、空気の読めない試験官がその空気を早々に断ち切って会議へと戻す。
「風魔法使いが威力試験で魔術を使った例は過去にもありましたが、さすがに魔術のみでの受験は例がない。
一応、免許範囲の魔術かどうかは注視していましたが、問題はないようでした」
「素性は調べてあるのか?」
「生まれはこの国の小貴族、アルネス家。炎の適性だったため、カラッタ村の教会で、当時孤児だったフェド少年と共に育つことになる。8歳の出来事です。
その後のことは、フェド・アルネスと本人に聞きました。どうやら、魔族に魔法を奪われ、炎魔法を出力できなくなったそうです」
「ほう、炎の炸裂弾は元々の適性魔法だったからこその芸当というわけか」
「まぁ、風と比べちゃな。選択肢がそれしかないってのほうが大きいだろう」
「そんなことより、だ。しれっとやっていた、魔術の同時使用。あんな曲芸、どうやって習得したんだ」
「…あー。訓練したらできた。らしいです」
「天才という生き物は、なんと理不尽なことか」




