014 アルネス家
「そういえば、治療院の費用出してくれてたの、昨日初めて聞いたんですけど。その、改めて、あの時は本当に助かりました。ありがとうございます」
「そうだったか? まぁ、相談せずとも感謝を伝えられる、またとない機会だったということでな。それにしても、本人に伝えるのを忘れてしまうとは、私も抜けたものだね」
ここ、アルネス家に来てから、ちょうど一年が経った。ここでの生活は、まぁ悪くない。ご飯は美味しいし、気が向いた時に家事を手伝えば給金ももらえる。
一番気に入っているのはアルネス家の持つ貸本屋だ。
村育ちの自分にとって、馴染みのない話や概念はここで学べる。それに、魔法についての指南書も多い。
もちろん、自由に持ち出しできる。ただし、調子に乗って5冊持ち出した時はちゃんと叱られた。
「貸し出してないはずの本が店にない」と司書さんが困ることが結構あったらしく、実は大迷惑だったという。最近は貸本屋のバックヤードで読むことの方が多い。店番や手伝いをして、感謝されるというのは結構気分が良い。罪滅ぼしの面もある。
…あとは、そうだな。右腕について。傷口を無理やり修復し、落とした腕の回収もしていない。なので、あの日から片腕で生活している。不便に思うことはあるが、絶望的ではない。
魔法にはあんまり影響はない。だから、問題ない。
ただ、水属性の三姉妹とはどうにも馴染めず、結局ロアと過ごすことが多い。両親とも仲良くはできているが、どうにも一歩距離を置いてしまう。
捨てられた。ロアは確かにそう言っていた。
父は、ヴァルさんはどう思っているのだろうか。
母は、ヘレンさんはどう思っているのだろうか。
…きっと、それを聞けない時点で距離があるのだろうな。でも、感謝と挨拶だけは欠かさない。処世術でもあるが、何より恩人への感謝の気持ちは忘れるわけにはいかない。
「そういえば、魔法への造詣が深いと言っていたね」
「そう…ですね。自己鍛錬の結果、他よりちょっと詳しいというだけだったりはしますが」
「謙遜を。フェドさえ良ければ、スーベル魔法学院の試験を受けてみてはどうかね?」
「また随分急な話を。学院というと、座学での試験だって存在するのでは? ここ一年数学や文学など独学で勉強は重ねましたが、流石に通用しないと思います」
「スーベルは実技が主体だ。もちろん座学試験もあるがな。両方で一定以上の点を取った受験生を、実技成績の上から順に合格させるシステムだ」
悪くない話だ。魔法を学ぶ人との出会いが刺激になるかもしれない。しかし…、避けては通れない話がある。
「俺に合った試験方式ですが…。結構、お金かかりますよね?」
父は、大きく笑い飛ばす。
「そうだな。庶民の感覚だとかなり高い。気にするな…というのは、お前にはどうやら難しいらしいな。
ならば、特待生を目指してみろ。入学金や制服代金、その他諸々と初年度学費を学院側が免除してくれる。成績次第ではその後も融通をきかせてくれるらしいぞ」




