124.6 杖
「あ、フェドじゃん! あれ、今日は討伐の日じゃなかったっけ? ロアは?」
「ああ、トーナには言ってなかったか。今日は友達と遊びに行くって、前々から予定があった」
「ちょうどいいや! それなら、ロアに感謝だね! ちょっと見といて!」
腰に携えていた杖を取り出して、勇者の剣でも引き抜いたかのように掲げる。
遠目で見れば、漆を塗ったただの木の枝。光沢が少しあって、先端に青色の魔鉱石。いや、木の枝というにはかなり長い。60センチを少し超えるぐらいだろうか。
…杖とは、過去に存在した高名な魔法使いが、おしゃれアイテムとして使っていた道具だ。
実用性はほとんどない。
「なんで杖? 確か、座標を少し奥にずらせるぐらいだろ? ちょっとした射程伸ばしにしか…」
…ちょっとした、射程伸ばし?
「あちゃあ。勘付いちゃった。…でも、びっくりしてほしいからこのままやっちゃうよ!
では、少しだけ離れていただいて、私と2.5メートル先の的が両方視界に入るように、よろしくお願いします」
「はいはい、ご丁寧にどうも」
そこがベストポジションでっせ! と言いたげに、杖でそちらを指す。だから、素直にそこに立った。
俺の立ち位置を確認したトーナは、的の方へ向く。
「…ふっん!」
青い魔鉱石は、淡く輝いた。遅れて風の音。やはり、鋭い風、風の刃だった。
半年ぐらい前に木の的相手に勝負をした時は、確か俺が0.6メートルで、トーナが1.5メートル。もちろん、薄めのそれを真っ二つにできる有効射程。
…これは、杖の力だけじゃないな。トーナの努力の証だ。そもそも、杖を適合させるのも努力が必要だろうけど。
ぱかりと、真っ二つに割れた木の的を見て、俺はそう思った。
「どう?! どう?!」
「すごい、すごい。間違いなく、すごい。…一応言うが、聞かなくても答えるつもりだったからな」
「そういうのは言わない方がいいと思う…。逆に怪しく聞こえちゃうから」
「どうやって、杖を使えるようになったか? …すごいふわっとした質問だなぁ」
「あー…、今まで生きてきて、杖の使い方や製法を聞いたことがなかったからな。この学院に入ってからも。
そもそも、そういう文献を探してなかったのもあるが。だから、色々と情報不足すぎてな。
大雑把に言うなら、簡単には扱えないことぐらいしか知らない」
「うーん、そうだねぇ。まず、骨董品の杖を見つけた。ほんとうに偶然」
「…その杖が? 結構綺麗に見えるが」
「ううん。骨董品の方を見た感じ、使った感じ、工芸品に近いものだと思った。
だから、お店に作ってもらった。骨董品の方は、これより二回りぐらい短い」
杖を振り回しながらそんなことを言う。
そんな単純で良いのか。てっきり、もっとややこしくて繊細なものなのかと。
「肉体に適合させれば、使えるようになるとは聞いたことがある。
…適合って、具体的にどういうことなんだ?」
「肉体の一部として扱えるようになる、みたいな感じかな? 多分。
えっとね、最初使った時は、魔素が杖に上手く流れてくれなかったんだ。
だけど、何日か抱いて寝てみたら、あらびっくり。なんか魔素の通りが良くなった」
「…なんで、わざわざ杖を抱いて寝たんだ?」
「やめてぇ。異常者を見るような目で見ないでぇ。
えと、真面目に言うと、子どもの頃に無理やり魔法を使おうとした時の感覚を思い出してね。
ちっちゃい子どもって、指先を思い通りに動かせないじゃん? それと同じなんじゃないかと思った。
だから、抱いて寝た!」
「話を聞いても異常者寄りな気がする」
「ひどい!」
「まぁ、バカと天才は一緒って言うからな。流石だよ、トーナ」
「なんかちょっと違うくない!?」




