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人魔の世界  作者: 道草ノ跡
スーベル魔法学院編

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119/132

117 先制

 魔猪を何匹か倒しながら、俺たちは森へ向かって進んでいた。

 ロアたちの炎が届く距離まで近づけば、遠距離から森を燃やせる。

 そうすれば、魔族の潜伏先も、魔物の集め先もなくなる。


 この隊列に会話はなかった。森が近いので、いつ魔族が仕掛けてくるかわからない。そもそも魔物が襲ってくる。だから、緊張感が抜けない。


 草を分けて進む音が、おそらく人数分。嫌な汗が、体から流れている。



『お前は誰だ』



 突如、そんな声がどこからか聞こえてきた。音の発生源が掴めない。最初はそう思ったが、何かがおかしい。


『いったい何をしている』


 左耳だけを塞ぎつつ、他の兵たちを見る。辺りを見回す奴が多い。何かしらの声が全員に聞こえていることは予想がついた。


『お前は誰だ』


 確かに、塞いでいる左耳からもその声が聞こえた。鼓膜に直接音が届いているのか、耳を介さないものなのか。

 いや、それは後回しにするべきだな。


『いったい何をしている』


 セリフはこの2種なのか? どんな効果がある。


 晴天の下、遠くまで通っていた視界が白く霞み始めた。霧が遠くを隠すように発生する。

 作戦では、合図なしで吹き飛ばせ。だから、魔素を腕に溜める。


「待て!」


 なんだ、何かまずいのか?

 少なくとも、隊長の声ではない。だが、音の発生源が後ろなのは分かった。

 反射的に後ろを振り向いたが、視界が通らず誰の声だったかわからない。

 …いや、なんか距離が遠かったような気がする。


『お前は誰だ』


 次は、心音が大きく聞こえてきた。ロアや兵たちのも含めて。

 話し声を少し小さくしたぐらいの音量だろうか。

 これは、魔法の効果か?


 畳み掛けるように、森の方から草をかき分ける音。何かが、この陣形に特攻してきている。

 

「ち、違う! 風! 晴らせ!」


 また、後ろから声が聞こえた。さっきより、かなり近く聞こえた。

 遅れて、風の音。それが霧を晴らした。

 俺の魔法ではなく、ロアの風魔術。


 …ああ、さっきの待ても、魔族の魔法だったのか。


『いったい何をしている』



 そこに立っていたのは、上半身裸の大柄な男。いや、大柄では足りない。二メートルはゆうに超え、身体には分厚い筋肉がついている。

 武器を持たない、魔族だった。


 拳は、隊長の鎧に当たっていた。何かの破裂音が、心音を超えて響く。

 地に倒れた隊長の鎧から、血が流れ出している。


 鎧は、傷1つ付いてないように見えた。

 こいつが、話に出ていた鎧対策の役だな。


『お前は誰だ』


 …地味に鬱陶しいな、こいつ。

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