112 動く世界
「本日14時から、南平原で魔物の討伐をしていた学生が消息を断ちました!
現在、望遠魔術でその学生を捜索中です!」
「まだ日が出ている。ただの遭難や事故なら、望遠魔術で見つかるはずだ。ひとまず、魔族の犯行と仮定する。国から逃げた罪人の犯行も考えられるがな。
討伐依頼は打ち切りだ。明朝までに学院側へ伝わるようにしろ。受付も停止だ。間違っても、犠牲者を増やすなよ」
頭を深く下げて、その兵士は部屋から出て行った。
「…ねぇ、あたし達付き合ってるよね」
「ああ、もちろんだ」
2人での帰り道。唐突に投げかけられたそれに、なんとなく答えた。
…いや、何か伝えたいことをぼかしたんだ。なら、真意を探らないと。
答えを見つける前に、彼女はため息をついた。
「いや、ごめん。ちゃんと言う。ただ、恥ずかしいのでちょっと待て」
「お、おう」
夕暮れ、日に照らされた彼女の顔はほんの少し赤く見えた。そう思った瞬間、顔を隠すように、こちらに手のひらを伸ばしてくる。
…久々というか、あんまり見たことないな、こういうロア。
「あんまり、見ないで」
「…かわ、いいな」
「うっさい。そっちがもっと男らしく…いや、フェドにそういうの期待しすぎるのも、良くなかったな」
「悪態をつくか恥ずかしがるか、どっちかにしてくれ。色々と過剰摂取だ」
「うっさい」
男らしく、か。男子寮と女子寮の分かれ道はすぐそこだ。
今は人通りもない。
「えっと、その…。キスってしていいか?」
「聞き方! ロマンなさすぎでしょ! フェド!」
…やはり、笑われるのは気分が良くない。
「…全く。ほんと、変わらないなぁ。知ってたけど」
「変わったところも、好きだよ、ロア」
「はいはい、あたしもだよ。…その、良いよ」
「…じゃあ、その、遠慮なく?」
「なんで疑問系」
息を呑んで、覚悟を決めようとした。その時、ロアが何かに気づいたように目を見開いた。
「…やっぱり今日はなし! ちょっとあの2人ボコボコに…いや、焼き入れてくる!」
「物騒すぎる。…えっ、見られてたのか?!」
ロアが走り出した先、見慣れた顔が二つ、一瞬だけ見えた。
1人は、背中を向けて全力疾走。もう1人は、遅れてその後を追う。
トーナは、逃げ切れたらしい。
翌日、トーナはロアに向かって「風魔法って良いね」と笑顔で言った。
その直後、教室から引っ張り出されていたので、どうなったかは知らない。




