011 役立たず
二つの…、いや、三つの村が襲われたのも。ミラが死んだのも。全部あたしのせいじゃないか。
魔族は魔素を求めて人間を攫う。狙いがあたしだってことに、もっと早く気づいていれば、こんなことにはならなかった。
あたしの存在が、あたしが、今回の騒動を引き起こした。
ラタタ村を壊滅状態に追い込んだのは、他でもないあたしの魔法だ。それに気づいたフェドの顔は思い出したくもない。
いや、なんでそんな無責任なことが言える、お前の魔法だろうが。あいつの憧れた魔法だろうが。
苦しい、怖い、助けて。
…なんでそんなことを思える。お前のせいで死んだ人が大勢いる、なのにその張本人が助けてなんて、烏滸がましいにも程がある。
「かわいそうに。心優しい騎士様を解放してあげたら? 役立たず」
お願い。フェド。一緒にいて。
「やつの右腕を見ろ。血で汚れた服を見ろ」
ふと、ずっと脳内で叫んでたあたしを壊すあたしが静かになった。
目線の先には知った顔。今一番見たかった顔。
魔族を強く睨んでいた顔が、あたしと目が合った途端和らいだ。
普段はキリッとした顔つきで、割と気難しいやつなのに、あたしと目が合うといつもこうだ。
顔を見ていたはずなのに、急に目玉だけが左下へ動いた。
剣は、左手にあった。
右腕、彼の利き腕はどこにもなかった。
血に染まった服は、事態の深刻さを突きつけてくる。
「心優しい騎士様を、解放してやれ」
「お前さえいなければ、こんなことにはならなかった」
「ずっと、あいつの優しさに甘えてばっかじゃん」
「昨日今日の話じゃないって、今更理解したの?」
「早く消えたら? 役立たず」
誰か、じゃない。全部あたしの声だ。もう、責めてくれる人もいない。そりゃそうだ、あたしを捨てた両親と、フェド以外あたしの知り合いはみんな死んだ。
あいつは多分、こんな目に遭わせてもずっと優しいだろうな。多分、ロアは悪くないって言えてしまうだろうな。
「もう、一緒にはいられないや」
聞いたこともない叫び声が、耳を突き刺す。それが見知った少女のものだと、真に理解するのに数秒はかかった。
「どうやら、賭けには勝ったようだ」
ニヤリと、そいつは笑う。
「そうだな。俺が合図をしたら、それか俺が死んだら。こいつには自害してもらう」
ナイフを、地面に突き刺した。ちゃんと研がれていて、首を刺せば簡単に実行できるだろう。
「持っていかれちゃ困るからな、戦闘には関与させない。
…それにしても、結構派手に殺してくれたな。魔猿、もうそんなにいないじゃないか」
「…随分と、静かだな。このお嬢さんに並々ならぬ想いがあったんだろうが、呪うなら俺じゃなくて自分の弱さにしておくれ」
…拍子抜け。というと、まるで戦い好きみたいか。むちゃくちゃやった以上、激昂して突撃してくるかもなとは思っていた。
人質が完成したとはいえ、俺自体が強くなったわけじゃない。
死にたくないし、ありがたい話ではある。だが、微動だにしないというのは、流石に変だ。




