107 もう1人の
「別れの挨拶もなしかよ。ったく、ひどい話だ」
未完成だったこの歪な空間が、少しずつ崩れていく。
「あんたの想像でできるような、自罰のためだけのあたしが、あんな優しいこと言えるわけないじゃん」
あたしは、あいつが産み出した…いや、産もうとした、あの日のロアっぽい何かだ。
扉を叩く、なんてあいつは言ってたけど、実情は全くもって違う。
あたしという存在を作って、バトンを渡そうとしてた。あいつの全部を、あたしに託そうとしてた。
ただ、さっきの話し合いでその役割が必要ないことになった。存在意義を失ったあたしの終着点は、もう決まりきっている。
…本当に、ひどい話だ。
足元から崩れ始めた体は、もう動かなかった。
フェドが、あんたのことを好きって言ったからな。それなら、あたしは背中を押してやるさ。
だから、あいつと一緒に、幸せにやってくれ。なんなら、あいつのこと支えてやってくれ。色々と危なっかしいじゃん、あいつ。
まだ、なのかよ。
…マジで、せめて、ひと思いにやってくれよ…。
…あーあ、あたしも、ティナのご飯ちゃんと食べたかったな。花の話も、ちゃんと聞きたかったな。教会の花図鑑、古すぎて絵がボロボロで、物足りなかったんだよな。
そうじゃん、花畑! …セレアのはすごい大きくて、綺麗だったなぁ。
あと、トーナのバカを、ちゃんと眺めたかったな。ああいう風に接してくれるやつ、村に1人でもいればなぁ。
…うん、可愛いよな、トーナ。本気であたしのことカッコいいって思ってるところとか。…いや、あたしじゃないか。
そうだ、一緒にフェドをからかうってのも面白そうだ。
…くっそ、フェドの隣に、いたかったな。
ずっと好きだったのは、あたしの方なのに。
なんで、あたしじゃないんだよ、フェド。
なんで…




