106 ロア と ロア・アルネス
「さんざん呼びつけておいて待たせるってのは、どうかと思うんだけどぉ」
そこは、不思議な世界だった。…透明な床、透明な壁、ずっとずっと透き通っているようで、その果てが見えない部屋。
「…ロア?」
「はいはーい、村の少女、ロアでーす」
「…そっか、あたし、やり切れたんだ」
「…はぁ? 意味わかんねーこと言って、ひたすらガンガン扉叩いてたあんたに、文句言いにきただけなんですけど」
「…え?」
「…はぁ。あのさぁ、本気であたしがあんたの中にいるって、そう思ってたの?
そんで、バトンタッチして、自分はお役御免って、本気で思ってたの?」
「でも、いま、あなたが」
「あたしはあんたの想像してるあたしでしかない。二重人格者でもないんだから、当たり前の話でしょ」
「で、でも、あたし、あなたを取り戻すために」
「感情を取り戻すため、でしょ。あんたが」
「そ、うだけど…」
「昔のあたしと、今のあたしじゃ、経験が違う。人間ってのは、日々…というか、一瞬一瞬変わり続けてるの。
あの日のあたしなんて、もうどこにもいない」
「…じゃあ、あたしは、どうなるの?」
「知らないよ。…まぁ、ひとつ山を越えたってのは確かだけどね。
あー、それにしても、無茶苦茶したねぇ、意識吹っ飛ぶレベルで心を追い詰めるとは」
「あたしは、あたしは、なんのために」
「あーあ、つらそうな表情して。それが欲しかったから、頑張ったんでしょ?」
「違う! あたしは…」
「あいつが今好きなのは、あんただ。えーっと、トーナ・パーナさんと、ティナ・レイベルさんと、サテファ先生だっけ? 交友少ないな…。
ともかく、そいつらが大切に思ってるのは、あたしじゃない。それぐらい、分かってんでしょ?」
「…」
「聞き分けができて偉いねぇ。フェドの告白の時も、そうしたらよかったのに」
「そ、れは…」
「…まぁ、あたしの存在がよぎったから、あんたは動きづらくなってたんだろうね。全く、バカな話だ」
「…もんくばっか」
「しゃーねーだろ、文句の一つだって言いたくなるわ。あたし、あいつのことちゃんと好きだし」
「…知ってる」
「だろうね。…羨ましい」
「あたしの方が、好きだってさ」
「腹ったつなぁマジで…」
「今になって、嬉しくなってきたから」
「そりゃあ、良かったね。頑張った甲斐あったじゃん。…これで良い? さっさと目を覚まして欲しいんだけど」
「…あと、ちょっとだけ。一緒に居させて」
「やだね、恋敵に優しくなんてしてやるもんか。
ほら、起きようとすれば、起きれる。ここは夢の世界みたいなもんだろうから。
…ちょうど、美味しそうな香りがしてきたでしょ?」
「ティナのご飯、楽しみだな」
「そうかい」
「ありがとう」
「へいへい」




