#8 バルドの苦悩
「落ち着いてくださいバルドさん。あなたが買ったルートを最初から順を追って説明してもらいましょう」
中央異世界管理局の窓口。蓮はパソコンの画面から視線を外し、青ざめるドワーフの鉱石職人・バルドに向き直った。
バルドの背負っていた鉄製トランクからは、依然として特級魔導鉱石・サンストーンが眩い黄金色の光を放っている。周囲の魔力濃度が上がっているため、リリアが急いでCITA特製の「簡易魔力遮断ドーム」をトランクに被せた。
「おう……! 俺はな、ドワーフの国アイゼンガルドの正規の鉱石ギルドを通じて、このサンストーンを買い付けたんだ。代金だって全額支払った。正真正銘のちゃんとした取引だったはずなんだよ!」
「それなのに、なぜCITAの税関で密輸品として引っかかったんです?」
「そこだよ……!」バルドは頭を抱え、床板をドンと踏み鳴らした。「税関の職員いわく、俺が持っている売買証明書の魔法印は本物なのだが、アイゼンガルド本国側の輸出許可データベースに、この鉱石の個体管理番号が登録されていなかったって言うんだ!」
蓮は腕を組み、鋭い視線を走らせた。
「つまり……。書類上の手続きやギルドの店舗は正規のものだったが、その裏で、何者かが非公式のルート――つまりアイゼンガルドの地下組織や不正ブローカーのルートを噛ませて、この鉱石を密かに国外へ持ち出した、ということか」
「そういうことだ……もしこのままじゃ、俺はアークレシアと日本の両方で国際指名手配犯になっちまう! 覚えのない罪で俺の人生が終わっちまうんだよ!」
バルドの必死な叫びを聞き、リリアが手元の資料をパラパラとめくった。
「蓮さん、アイゼンガルドからの特級魔導鉱石の輸入といえば、最近、両国の関税協定の隙をついた非合法なルートの噂をCITAの保安部が追っていたはずです……! もしかして、バルドさんはその闇ルートの隠れ蓑に利用されたんじゃ……」
「可能性は高いな」
蓮はデスクの引き出しから、新しい一冊のファイルを取り出した。表紙にはアイゼンガルド関税法および国際魔導資源管理条約と書かれている。
「バルドさん。あなたが本当にシロであるならば、我々があなたの無実を証明し、その裏で不正を行っているブローカーの尻尾を掴む必要があります。……ただし、相手はアイゼンガルドの裏社会に繋がる連中だ。一歩間違えば、こちらの身に危険が及ぶかもしれない」
「頼む、相模原殿! 俺を助けてくれ! 故郷の家族や工房の奴らにも迷惑かかっちまうんだ!」
バルドがガバッと頭を下げると、トランクの上の魔導遮断ドームがガタガタと揺れた。
蓮は大きく息を吐き、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「……1週間後にはエルフの国エルドリアへの出張も控えていることだし、その前に国際密輸事件を一件、鮮やかに解決してやるとしますか」
「おお……! やってくれるか!?」
「ただし、バルドさん」蓮はビシッと人差し指を立てた。「あなたの無実を証明するための証拠集めとアイゼンガルドの商工ギルドへの聞き込み、あなたにも手伝ってもらいますからね」
「応! どんなことでもやってやるぜ!」




