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魔導学園ラブロジック!-セッキンするナツ。-  作者: 花塩樹圭


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第四章 夏期魔導実技集中補習① 澪の魔導はスゴいという今さらの事実

ツイッター(現X)にてオープニング曲をアップしています


オープニング曲『Pride yourself』


https://x.com/HanashioKikei/status/2107309872920604756?s=20


URLをコピペしてご覧ください

 夏休みに入った。

 高校2年生の夏休みともなれば、海だ! 山だ! プールだ! 肝試しだ! …とブルースプリングなイベント盛りだくさん! となりそうなものだが、残念ながら望陵学園の生徒はそうはいかなかった。何しろ焼き出されて他校へ振り分けられている間、魔導実技の授業が受けられなかったのだ。魔導科を看板としている学校側としても、肝心の魔導の学習ができないのでは名が廃る。よって、夏休みは魔導実技を中心とした集中補習授業が行われることとなったのだ。生徒からは大ブーイング! かと思いきや、そもそも魔導エリートの道を進むためにこの学校へわざわざ入学したのだ、大部分が学校側の趣旨に賛同し、猛暑の最中(さなか)を文句も言わず登校してきている。

「いや、オレがやったところでどうかなるわけじゃねぇだろよ…」

 ブチブチ言ってる者もいるが。現在2-Bが実技棟で学習中だ。

「文句言ってないで行った行った!」

挿絵(By みてみん)

 と、澪は不満げな大樹の背中を押す。

「オカンだな」

挿絵(By みてみん)

 二人の様子を見ている紗々羅はボソッと呟いた。


 さて魔導レンジに入った大樹だが標的(ターゲット)見つめ腕組して唸っている。

挿絵(By みてみん)

「あんなん、どうすりゃいいんだよ…」

 本日のお題は、「50m先に吊るされた風鈴を鳴らすこと」。レンジのレーン中央に長い紐で天井から吊るされた風鈴がある。見た目ごく普通の風鈴。みかんくらいの大きさの外見(そとみ)と呼ばれるガラス製の玉の中から舌(ぜつ)という外見を鳴らす部品が垂れ下がり、さらに短冊がぶら下がる。透明の外見には真っ赤な金魚が描かれ実に風流かつ涼し気だが、それが魔導レンジにあるともなればシュールな光景でもある。さて、この吊り下げられた風鈴を、いかなる手を用いてでも鳴らせばいい。ふーふー吹いて鳴らせるなら苦労はしない、何しろ標的は50m先。風要素が得意であればどうということはないが、風鈴自体が天井からかなり長い紐で吊り下げられていることもあり、「鳴らす」となると繊細なコントロールが必要となる。もちろん風以外の要素でも構わないのだが、炎であれば短冊を燃やしてしまいかねないし、水なら50m先の短冊を正確に狙う必要がある。雷は風鈴の部品に金属が使われいないことから直接揺らすことは難しく、土に至っては「長い紐で吊るされた」状態が立ちはだかり、地面を揺らしたところでなんら影響はない。天井を揺らそうものなら大惨事だ。もっともそれだけの質量を揺らせる生徒はそうそういないが。

 遠山からアドバイスを貰った大樹なら、と思わなくもないが、何しろ測定不可能なバカ魔力。たかだか20cm長の紙切れ1つを動かすのには力があり過ぎる。一升瓶でしょうゆを1滴だけ垂らせ、と言われたようなもの。大樹は力を絞る加減が分からず、ウンウン唸れど何も出ない。

〈神代大樹君。時間です〉

 割り当て時間の終了を告げられ、結果を見ればただ立っていただけに等しかった。

 トボトボと、壁際で待つ澪と紗々羅の元へ戻ってきた。

「お疲れー。どうだったー?」

「出ねぇウンコを無理やりヒリ出してる気分だぜ…」

「やめなさいよ、もー! 品がないなぁ!」

「でもチョットくらいは出ないん?」

「ちょ、紗々羅っ⁉」

「出ねぇんだこれが。あんまり踏ん張ると腸が出てきちまう」

「ナマコかな」

「もう…二人とも汚いなぁ…」

 澪の傍にいればもれなく紗々羅が隣にいるので、さすがの大樹もだいぶ紗々羅には慣れてきたか、会話もできるようになった。進歩である。

「次。白鷺」

「はい! じゃ、行ってくるね」

 さくらの呼び出しで澪がレンジへ向かう。同居するにあたり、大樹に対して不満があるわけではない、のだろう、軽く手を振り笑顔だった。

 今日のお題は澪にとって得意中の得意である風要素の出番である。さらにはこうした繊細な制御を要する魔導はまさに澪にはうってつけ。

「風を要素に。前方の短冊へ――断続の扇動を。【そよ風のビブラート】!」

 ピシッと指揮棒(タクト)で風鈴を指し示すと、それは


チリリリリリリリリリリ…


 と、上品な火災報知器のように鳴り響く。垂れ下がった短冊は目には見えない何かで連続パンチを受けているように右に左に細かく跳ね飛んでいる。

(あれ? こんなものかな…)

 6月の定例測定会では2.6のAMI値。数値だけなら風紀委員会の先輩たちと同列なハズ。にもかかわらずそういった手応えが澪には感じられない。

 しかし外野は無関係に盛り上がっていた。

「…スゲェな…」

「でしょでしょ? 澪ってばスゴイっしょ?」

「ああ…」

 紗々羅は何やら自慢げにドヤるが、それを尻目に大樹は澪の魔導に釘付けだ。普段の高圧的な態度はともかくとして、自分にはできないことをやってのける澪に対して、特に魔導に関しては、大樹は一定のリスペクトがある。とはいえ何でそうなるのかはさっぱり理解できない大樹でもある。

「なぁ朝比奈。白鷺の魔導って、やっぱスゴイのか?」

「はぁ? 何を今さら言っちゃってんの?」

「いや、そうなんだが、何がスゴイのかよく分からん」

「はぁっ? イヤイヤイヤイヤ、見れば分かるでしょーに」

「ああ、そういう意味じゃなく。そういうスゴさってのは分かる。なんでそんなスゴイことになるのかが分かんねぇんだ。たしかアイツ、6月にアミだかなんだか測ったとき、えっと、いくつだっけ、それってスゲーのか?」

「あー、そういう意味ね。6月で2.6だから、2年生としてはめっちゃイイ方、って感じ? でも澪の魔導のスゴイのはそこじゃないのよねぇ。えーとねぇ…えー… …まなーっ! ちょっと来て―!」

 別な女子クラスメイトの群れの中、紗々羅に呼ばれてピョコっとこっちを向いた背の低い少女が、ピョコピョコとこっちへ向かってやってきた。

「何なにー? スイーツの話ー?」

「違うし。ここにいる魔導オンチのひろっちさんに、澪の魔導のスゴイところを教えてあげてよ。同じ風仲間としてさー」

「にゃるほどー。ほんじゃ、不肖・尾関愛波(おぜきまなみ)ちゃんが、神代クンにみぃちゃんのヒ・ミ・ツ、教えてあげちゃおー」

「あ、ありがてぇけど、余計なこと言うなよ? それでアイツ怒らせたら怖いことになるからよぉ…」

「あれれれー? 神代クンってば、みぃちゃんのこと、怖いの?」

「いや、怖いだろ、普通。怒ったらマジでヤベェんだよ」

 思い出すのは澪のデコピン。まさか自分を文字通り『指先ひとつでダウン』させる者が身近にいたとは。

「そりゃ怒ったら誰だって怖いってー。ってか、みぃちゃん怒ってるの見たことないけどなー。ま、いっかー」

 そしてエヘン!とばかりに胸を張り、愛波が澪の魔導について説明(レクチャー)を始めた。

「たぶんねー、今のみぃちゃんがやったのって、風を直線状に飛ばして短冊を叩いた、って感じなのよ。でもただ叩いただけじゃなくて、その風が断続的に、こう、なんてーの? そう、タピオカをいっぱい口に含んで、ププププププって噴き出す感じ? それを空気でやってるのがみぃちゃんの魔導ってわけさー」

「まな、それスイーツ愛が足りなくない?」

「えー? そっかなー? 分かりやすいと思ったんだけどなー。まぁでもそんな感じ。だから空気の小さな塊が短冊にポコポコ当たり続けて、短冊はサンドバッグ状態になってるわけ」

「そんなことできんだ…」

「できんのよー。でも2年じゃみぃちゃんくらいなもんだよ、こんなのできるの。風が得意でもまず当てるのから難しいんだから。ウチだって、試技時間内で2,3回当てるのがやっとだもん」

「そうなんだ…」

「みぃちゃんの魔導はね、AMI値どうこうじゃないのよ。精度がめっちゃ高いのよ、構文の。もうね、ぎゅうぎゅう詰め? 密度がめっちゃ高いの。そだなー、靴下に石を詰めて殴ったら痛いよね? でも石同士が動いて曲がっちゃう。でも砂を詰めたら靴下の中がみっちりになるからそれこそ塊で殴ることになる。曲がらないし。例えていうならみぃちゃんの魔導ってそういう感じ。きっちり構文を詰め込んで無駄がない、ってゆっかー」

「鈍器なのか?」

「鈍器ならカワイイもんよー。ぎゅうぎゅう詰めるから、むしろ鋭利な刃物? それを高い精度で命中させちゃうのよ、みぃちゃんは。ほんとなら、精密コントロールって3年になってから習う光と闇の要素でやるもんなんだけど、それをみぃちゃんは5要素の中でやろうとしてるのよね。今日はこういう課題だから使ってるけど、普段はあんま風要素使わないの。あんま得意じゃない他の要素でやろうとするの。そっちもまぁまぁ精密だから、みぃちゃんてば、ホント、魔導の優等生なのよ」

「へぇ…」

 としか、大樹からは感想が出ない。思えば初めて大樹が望陵学園に来たとき、天城との揉め事で仲裁に入るのに使ったのは土の要素だった。しかし女子更衣棟に閉じ込められスルトJrと戦ったとき。先日の黒坂との戦いのとき。使ったのは、確かに鋭利と言える風。松尾が「ヤバい」というほどのものである。澪にとってここ一番で選ぶのは風、ということか。

「白鷺の構文パクって同じことモゴモゴ言うんじゃダメなのか?」

「それがダメなのよー。数学でさ、加法定理って公式やったじゃん? それ知っててもさ、どこに何代入すんだか知らんと使えんじゃん?」

「おー、なるほど」

(…かほうていりってなんだっけ…)

 授業中目を開けたまま眠ってるような者に分かるわけがあるまい。

「そういうことよ。形だけみぃちゃんマネてもアカンってことなんよ。同じくらい努力せんと。中学んときね、他のクラスでスゴい子いるよーって聞いて、それがみぃちゃんだったのね。みんな、天才おった!って驚いてたけど、でもよく観察してると違うなー、みぃちゃん、すんごく努力する子だなーって」

「へー、ウチは高校から一緒だから中学の時はしらんわ。昔からスゴかったん?」

「スゴイよー、だってねぇ」

 話題は昔話へと流れ、そこに紗々羅が合流して愛波の昔語りが続く。それは大樹の周りに女の子がいて、和気あいあいと話をしている様子に過ぎないのだが、試技が終わった澪はなぜだかその話の輪に近寄りがたく、レンジのそばでモジモジと立っていた。

「あれ? 澪ーっ! 終わったんならこっちおいでー!」

挿絵(By みてみん)

 紗々羅の声掛けでやっと大樹たちの方へやってきた。俯きながらモジモジと。

「今ねー、澪のこと話してたんよ」

「え…私?」

 澪は大樹の前で自分が話題の主(ぬし)になっていたことに動揺した。俯いた顔がさらに横へと逸れる。自分の何が話題にされていたのか。あるいは良からぬことが大樹へと伝わったのでは?という不安がよぎる。

「白鷺ってすげぇんだな」

「え…?」

 思わぬ称賛の言葉に顔を挙げた澪、その視線の先には大樹の真顔な驚き顔があった。

「そーそー。ひろっちが、澪の魔導の何がスゴイか分からんとか、トンチキなこというからさー、風仲間のまなに説明してもらってたってわけよ」

「いやー、みぃちゃんとウチを一緒にしちゃいかんてー。みぃちゃんスゴ過ぎなんだからさー」

「そ、そんなことないよ…」

「謙遜するのぅ。澪的に、今日のは何点? 10点満点で」

「うーん…6点?」

「ウソぉん」

「マジで? 採点辛(から)くね?」

「なんていうか、いまいち手応えが無かったし、風だったら普通にできることだから、その、別に」

「かーっ。そこまで言うと嫌味にしか聞こえなくね?」

「そういうつもりじゃ」

「ほんじゃみぃちゃん的には、どういう魔導がいいの? 理想なの?」

「うーん、早乙女先輩みたいな感じ?」

「早乙女先輩って、風紀委員長の?」

「うん」

「ってことはエリア魔導?」

「うん。そういうのができて一人前かなって」

「逆に今これだけのことができててできないの? エリア」

「うん…なんでだろ、主体(サブジェクト)を単体で操作するのはできるんだけど、それを広げるとなるとどこに集中したらいいのか分からなくなっちゃうのよね」

「うへぇ…贅沢な悩みだぁ」

「でもよぉ」

 女子勢がワイワイ話す中、大樹が口を開く。澪は素早くそれに反応、彼を見つめ次の言葉を待った。

「すげぇことには変わりねぇだろ。オレ、尾関の説明聞いても半分くらいしか分からなかったけど、それでもスゲーって分かるからな」

「えー、あれで分からなかったぁ? 説明へたっぴだったぁ?」

「あれで分からなかったっていうなら、ひろっち、相当おバカよ?」

「うそ…マジかよ…」

 再び大樹が話の輪の中心となりワイワイと話し始めた。しかし澪はそれが気にならないのか、むしろ嬉し気にその様子を見ている。そんな、プリっと明るい『輝き澪』が紗々羅の視界に入る。

「そんじゃさー、終わったらスイーツ食べ行こーぜー。さっきまながタピオカ冒涜したからスイーツの神に赦しを貰いにいかなきゃー」

「ええー? 冒涜してないよー。でも赦してもらいに行くよー! ごめんなさーい、いただきまーす!」

「当然、澪も行くよね?」

「もちろんでございますわ。スイーツの神はすべてを救いますので」

「ひろっちも一緒に行こーぜー」

「いや、オレ、甘いの苦手なんだ」

 そう言えばそうである。初めて白鷺家に来たときも、ケーキを遠慮していたのだ。

「ウソぉん。スイーツ嫌いな人類初めて見た」

「もー、ひろっち空気読めよー、ノリ悪いなぁ。それじゃ何が好きなん?」

 瞬間、澪の動きが止まった。聞き耳立てて大樹の口元に全力集中。

「唐揚げ、かな…」

「ほほう、それはそれはまた、戦争になりそうな話題を」

「何でだよ」

「唐揚げも派閥があんのよ。今川焼みたいに」

「大判焼きっしょ?」

「ね? こういうヤツ。で、ひろっちはどういう唐揚げが好き?」

「えー…何て言えばいい?」

 大樹の言うところ、それは鶏肉に醤油の味が染みていて、ニンニクとショウガの香りも味同様しっかりと利いている。衣はあまりサクッとしておらず、むしろべたぁしなぁという感じ、だそうだ。

「それって唐揚げなん?」

「いや、唐揚げだと思うだけど…オフクロは唐揚げって言ってたし」

「ふーん」

(…そうなんだ。)

 澪は大樹の語ったレシピらしきものをきっちりしっかり完璧に記憶する。同時に。この時点で魔導への不安はトコロテンのごとく押し出されていた。


◆

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