第三章 新しい白鷺家の始まり② おまたの『ソレ』はマズいでしょう
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オープニング曲『Pride yourself』
https://x.com/HanashioKikei/status/2107309872920604756?s=20
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翌朝。
「ひぃぃぃぎゃぁああぁぁあぁぁ」
新しい白鷺家の朝は、ひよりの叫び声で始まった。
「ひろきお兄ちゃんのおまたのところにおっきなヘビがいたーっ!」
元々はひよりはかれんと共に澪のお世話係として屋敷にいたのだが、大樹が来たことでお世話すべき家人が増えたため、大樹担当として充てられた。以前より「おにいちゃんが欲しかった」と言っていたひよりだったので、今朝も早くから張り切って起こしにいったのだ…が、このありさま。ドアを跳ね飛ばさんばかりに、大樹の部屋からまるで昭和のアニメのごとく飛び出してきた。
ひよりの叫び声で廊下に出てきたかれんだったが
「おまたにヘビ…? ああ、そういうことか」
健康たる10代男子の朝の生理現象に理解を示した。以降、朝のお世話はかれんとひよりの交代ですることになったのではあるが。
「ふわぁぁぁ…なんだ朝からにぎやかだな…」
ボサボサの頭を掻きながら廊下に出てきた大樹。奇しくも同じく廊下に出てきた澪とバッタリ鉢合わせした。
「んッッッッッッッッッッッ⁈ ちょちょちょちょっとっ! 神代君っ! な、なななな何か着てきて!」
澪は真っ赤になって猛抗議。無理もない、大樹はシャツイチパンイチで廊下へ出てきたのだから。
「いや、そうは言ってもよぉ、オレ、これ以外に着るもの持ってねぇぞ?」
「何言ってんのっ! せめて制服に着替えてから部屋から出てきてちょうだいっ!」
さっそく初日から「白鷺家との文化摩擦」に出くわした大樹であった。
◆
「到着いたしました」
「おまたにヘビ」事件の2日後。終業式で学校が午前中で終わるとアウトレットモール廣塚へとやってきた。
「…なんでオレのバイト先に来たんだ? 今日はシフト入ってねぇぞ?」
「え? 神代君ってここでバイトしてるの?」
「ああ、そうだが」
「え? 勤まるの?」
「はぁ?」
「いやだって、店員さんでしょ? いっしゃいませーとかするんでしょ? 全品30%オフでーすとか言うんでしょ? その不愛想な仏頂面で」
「…失礼なヤツだな…しねぇよ、オレは裏方だ。段ボールの整理とかしてんだよ、バックヤードで」
「あ、あーあーあー、なるほど! すっごい納得した!」
「…ホント失礼なヤツだな…」
目的は大樹の私服を買うこと。発起人は澪。運転手はかれん。大樹は強制参加である。その大樹の正規お世話係としてひよりも同行した。かれんとひよりは「お仕事中」ということでメイド服。Tシャツにスウェットのズボン程度のカジュアルな服装で来場する客も多い中でこれは非常に目立つ。もっとも澪は慣れていて、大樹は気にしないのでそこに何の問題もなかった。
「失礼も何も! 下着ひとつで家の中を歩き回られたら困るのよ!」
「シャツも着てるだろうが」
「そういうのを五十歩百歩って言うのよ! 大して変わらないじゃない!」
あの『事件』の直後、朝食の時間にその辺りに関して大樹に対する『事情聴取』がおこなわれた。取り調べ係はもちろん澪である。『容疑者』の言う事には、夏は件の格好で、寒くなったら学校指定のジャージを着るのだそうだ。そして春、暖かくなったら『脱皮』する。ちなみにパンツはトランクス派であるとの証言は「そんなこと聞いてないから」と一蹴された。
であるからして、澪は「とにかく神代君の着るものを選んであげないと!」という強い責任感と共にここへやってきたのだ。
「まずはスポーツブランドのウェアなら無難でしょ」
と、エスカレーター上がって直近のスポーツアパレルブランドのショップへ。いらっしゃいませ、と声を掛けた店員が、ずんずんと一直線に向かってきた。
「神代君じゃない。あれ? 今日はシフト入ってないよね?」
「ええ、まぁ。客ということで来た…んだと思います」
なんともあやふやな返答だが、店員はそれを聞いていない、というより大樹の周囲にいる人々への興味が上回った。
「何ナニなに? コスプレ込みのハーレムモード? 神代クンって実はそんなにモテモテ男だったんだ⁉」
「んなわけないでしょ」
実に気さくでサバサバとした、スポーツブランドとしては適任な店員である。ところがその様子を横で見ていた澪、ぷっくりと頬を膨らまし、なにやら不満そうである。大樹と店員の間に割るように入り、会釈をした。
「はじめまして。私、白鷺澪と申します。いつも『ウチの』神代がお世話になっております」
「あらあらあら、これはどうもご丁寧に。ねぇねぇ神代クン。彼女、お姉さん?」
「んなわけないでしょっ⁉ 同級生ですよ、同級生」
「そうなの? 彼女の方がしっかりしてるから…それじゃそっちのメイド服の人たちは?」
「白鷺んとこのお手伝いさん…って言えばいいのか? そんな感じ」
「え、メイドのお手伝いさんって…え、今、白鷺って…それじゃ望陵学園理事の? 白鷺さん?」
「そう…らしい」
「え、それじゃめっちゃお金持ちじゃない! 店の在庫、丸ごとお買い上げしちゃってよ!」
「それじゃ明日から売る物無くなるじゃないですか⁉」
「大丈夫、商品なんか売るほどあるから!」
「…まぁ商品って売り物だし…」
もとより大樹はあまりしゃべらない方だが、それをお構いなしに話しかける店員。そして、話しかけられればちゃんと答える大樹。こんなにセリフが多い大樹を澪は初めて見た。知られざる一面を知った気がした。
「冗談はさておき、お買い物楽しんでいって! それじゃ私、仕事戻るから。いらっしゃいませー!」
平日とはいえ来客の多い場所だ、大樹たちばかりに構っていられない、店員は風のように去っていった。
「はぁ…嵐のようでしたね」
かれんの例えは的確だろう。
◆
「ほら、これなんかどうかしら?」
澪は大樹とそのお伴一行を引き連れ、ショップからショップへミツバチのごとく歩き回る。少なくとも大樹の記憶に、これほど活動的な澪は存在しない。
「いや、オレ、そういうの分からねぇから」
「もう! 何か要望があるなら言いなさい。ないなら私が決めちゃうわよ⁈」
「ああ、それでいいよ。よろしく頼むよ」
「そんなこと言って! 洋服の好みくらい言ってくれないと私も分からないじゃないのよ!」
澪の言い分では自分が選びたいのか大樹の好みが知りたいのかよく分からないが、ともかくラックから一つ取っては大樹に当てがい、次を取っては当てがい、となかなかに忙しそう。その様子をかれんはニコニコと眺めているが、ひよりはすでに飽きている。一人で店内をフラフラと見回り、時折り気になった一品があったりすると自分に当てがってみたりする。
「いいなぁ…私も欲しいなぁ」
と、つい独り言(欲望ともいう)が漏れてしまった。
「ん? …んー、そうね、買っちゃいましょうか!」
「え? いいのっ?」
「いいわよ。じゃーん。こんなのがあるのよ!」
澪はショルダーバッグから『黒いカード』を取り出し、得意げに掲げた。
「よろしいのですか? おうちのカードなんか使っちゃって」
「違うのよ。ほら、名前にご注目」
カードの表には打刻された「HIROKI KAMISHIRO」の文字。
「これは神代君のカード。魔導科に通う学生へって、国から補助金が出てるのよ。それをお父様が口座に貯めてあって。現金で渡してもアナタ受け取らないからね。だから、ほら、これはアナタが使っていいものなのよ。はい」
と澪、大樹にカードを(押し付けるように)手渡した。
「裏面に名前を書いてね。それで使えるようになるから。はい、ボールペン。それじゃひよりちゃん。神代『お兄ちゃん』に買ってもらいなさい」
「…え⁈ オレ⁈」
「えーっ⁉ いいのっ⁈ ひろきお兄ちゃん!」
「ほら、あのお店なんか2点以上お買い上げだと割引利くから。アナタの分と一緒に買えばお得になるでしょ?」
「え? え…あ、まぁ、いっか」
「わーい!」
と、ひよりは喜び勇んで通路反対側のショップへと駆け込んでいった。
◆
「んじゃ、オレ、これでいいわ」
と大樹はパーカーを一つ、手にした。
「あ、いいなそれ、なんかかっこいー。私も同じのにしちゃおーっと! これ!」
ひよりは大樹が(適当に)選んだパーカーと色違いのものをレディースから引っ張り出してきた。それは微笑ましい風景ではあるのだが…なにか澪の心の奥で、「じぇら」っと来るものがあった。もちろん本人はそれに気付いていない。気付いていないまま、つつつーっとレディースコーナーへ行き
「あ、の、私の分も、いいかな…?」
しれっと選んだのは大樹と同じ色。
「別に構わねぇよ」
「ホント⁈ ねぇかれんさん! かれんさんも一緒に買っちゃいましょうよ! 3BUY以上で30%オフだし!」
「え?」
「ほら。これこれ!」
と、ひよりと同じ色のパーカーをかれんへと押し付けた。
さて、会計が済み、かれんは思う。
(澪様は気付いてないようですが…これ、大樹様のカードで買ったんですよね…?)
そんなこんなで大樹の普段着ひと通りを買い揃えた。各ショップ最大サイズのショッピングバッグにみっちり入ったそれらを、持つのはもちろん大樹の役目、肩に手に紙袋がぶら下がる。まるで竹飾り。七夕はとっくに終わったというのに。
帰宅後、よほどうれしかったのか、メイド服の上からパーカーを着たひよりが家中を走り回っていた。
「そうだ! それじゃみんなで同じの着て、写真撮っちゃいましょう!」
リビングに集合すると値札もそのままに全員着衣で記念撮影。その写真は澪から全員のスマホへと配信された。澪のスマホでは、その写真はクラウドと本体両方に保存され、誤消去防止のロックも掛けられている。
ちなみにひよりがパーカーを着て家の中を走り回っているところを遅番でやってきた菫に見つかり、それが大樹へのおねだりで得たものだと知れると、かれん共々がっちり説教されたことを付け加えておこう。
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