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魔導学園ラブロジック!-セッキンするナツ。-  作者: 花塩樹圭


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第二章 遠山ラボ① 『可変構文』と困ったおっさん

ツイッター(現X)にてオープニング曲をアップしています


オープニング曲『Pride yourself』


https://x.com/HanashioKikei/status/2107309872920604756?s=20


URLをコピペしてご覧ください

 翌日、翌々日と、週末の土日ではあったが文弥は忙しかったらしい。「らしい」というのは、その件について澪には何も話さなかったから。先日の「卒業生」による学校襲撃とその対応について緊急の保護者説明会が開かれたのだが、そもそも澪は親が学校関係者なので言われなければそれを知る由もなく、また文弥がそうした学校行事の裏側について澪に話すことは今までもなかったので、澪も取りたてて疑問に思うこともなかった。とはいえその次の日は「出掛けるので予定を開けておくように」とは言われていた。

 さて出掛けた先は隣市の大学。文弥の同期が勤める研究所(ラボ)がある。遠山嗣利(つぐとし)。それがラボの所長の名である。

「やぁ澪ちゃん、久しぶり。大きくなったねぇ。前に会ったときにはこーんなに小さかったのに」

「そんなに小さいわけ、あるわけないじゃないですか!」

 御覧の通り遠山はいわゆる陽キャラだ。文弥とは正反対で冗談を言えば軽口も叩く。それこそ口が開けばポンポンと、というレベルで。文弥と付き合いの長い遠山だけに澪は小さな頃から彼を知っているわけだが

(どうしてこういう人がお父様と友達なのかしら…?)

 と、やはり小さな頃から疑問に思っている。澪に言わせれば、つくづく文弥の人脈は謎が多い、と。

 さてこの遠山ラボへ澪が来るのは初めてではない。遠山は文弥と同じく真壁門下生の一人であり、専攻は魔導、特に脳神経学を専門としている。澪が子供のころから「特別な健康診断」と称してラボへ招き、彼女の魔力の「健康診断」をしている。幸か不幸か、澪の生命力の弱さが発覚したのはこの検査がきっかけでもある。以来こうして訪れては検査を受けているわけで、今日もまた、澪は歯医者のイスのような検査装置に座り、頭にも体にも様々なセンサーが貼り付けられている。子供の頃からそうしているので澪も別段それに疑問を持つこともなく、「魔導にまつわる検査とはこういうもの」と思っている。もっとも検査としてはかなり水準の高いものではあるのだが。検査の準備はラボの学生がおこなう。彼らと年齢が近いこともあり、特に女子学生とは話が弾み、今も楽し気に話をしている。会話自体は澪の問診も兼ねているので、その内容は記録されていた。

 検査が始まった。モニターには次々と数値が表示され、遠山はそのデータを注視する。

「お! 澪ちゃん、AMI値伸びたねぇ」

「はい、あの、ありがとうございます」

「まぁでも、とりわけおかしなところはないかなぁ」

 澪には伏せられているが、学校で杉崎が収集したデータはもちろん、つい先ほどまで頭につけていた魔力測定装置のデータもここで回収され、遠山が見ている画面の下に表示されている。無論その異常さには遠山は気付いているが、そこは遠山の気遣いかそれには触れない。

 時に文弥は――――その様子を腕組しながら遠巻きに眺め、しかし時折チラチラとドアの方へと視線を向ける。文弥にしては珍しく落ち着きがない、と見えた。

「遠山所長、事務から内線です。ラボへのお客さんが見えているそうですが、どうしますか?」

 内線電話を取った学生が告げると同時にドアを見ていた文弥が遠山に視線を移し、目が合った。

「聞いてる。こっちに来てもらって」

「はい。あ、もしもし、ラボの方へいらっしゃるよう伝えてください」

 澪もまたその電話の方向へ目線が行っていた。ラボのいつもの人々ならいざ知らず、来客という外部の人間が来るとなれば、なんだかこの格好が恥ずかしいと思った。

「あの、遠山さん、私まだこの状態じゃないとダメでしょうか?」

「ああ、うん、もう少し計測するよ。澪ちゃんの魔力に何か少しでも変化があれば、それは検査しておきたいからね」

「そうですか…」

 先日魔導暴走(大変なこと)をやらかした自分だけに、「変化」という言葉には機敏に反応してしまう。返す言葉もなく大人しく背もたれへ身を預けたところで


コンコン


「失礼しまーす!」

 と、ノックと共に聞き覚えのある声。そしてドアを開け入ってきたのはよく知る顔。

「神代君ッ⁈⁈⁈」

 澪、驚いたのなんの。無理もない、おおよそ「研究所」という場所とは縁もゆかりも無さそうな男がやってきたのだ。心臓が破裂しそうなほど鼓動は跳ね上がり、体中が熱くなる。顔も耳も湯気が上がりそうなほど真っ赤になっているのだが当人はそれどころではなかった。

「どどどどどどどどどうしてここへ?」

 狼狽(うろた)え方も尋常ではない。

「いや、校長に呼ばれたからよぉ。ここに来いって」

「お父様がっ?」

 澪、文弥の方へ振り返る。しかしさっきまでそこに立っていた父親がおらず、いつの間にやら遠山と一緒になってモニターを覗き込んでいた。

「ほおっ!」

「な? 面白いだろ?」

 そこにいるのは見た目「モニターを見ながらゲラゲラと笑うおっさんが二人」なのだが、両人とも目は好奇心に満ちた子供のようにキラッキラと輝いている。

「もうっ! 笑い事じゃないんですよっ! もうっ! これ外してくださいよっ!」

 澪は身動きが取れないままぷんすか怒っていた。


◆


 大樹は到着するや、別室へと案内されラボを出ていった。なんでも特殊な装置での検査があるのだという。

 一方の澪、やっとのことで検査装置の拘束から解かれ、来客用に用意されたスツールに文弥と並び座った。腕組してそっぽを向いている――――ご機嫌がヒジョーにナナメの模様。

(まったく! 娘をおもちゃにするなんて、どういう親かしら!)

 ごもっともである。誰がこの腕組みブンむくれの澪を責められようか。

「まぁまぁ澪ちゃん、そう怒らないでよ。カワイイ顔が台無しだぜ?」

「知りませんっ!」

 さすがの澪もカワイイと言われたところで嬉しくない時がある。しかし遠山、そんな澪をイジる手をどこまでも緩めない。

「アメちゃんいるかい?」

「いりませんよ!」

「そうか、そりゃ残念。それじゃアメちゃんよりもイイモノをあげよう。澪ちゃんは先日やらかしちゃったんだって? 魔導暴走」

 遠山の口調は相変わらず能天気なのだが、ブンむくれ最中に不意を突かれ、先ほどとは違った意味で鼓動が跳ね上がる。

(…そっか、暴走のことは遠山さんにも伝わってるのか。お父様の立場を考えれば当然のこと、よね…)

「…はい」

 触れられてしな垂れるオジギソウのように澪はうな垂れた。

「結局ね、急激に上昇した魔力に対して構文の設計が間に合ってないのよ。多分澪ちゃんは、自分の構文をAMI2.0前後で最適化してると思うんだ。でもそこにいきなり4を超える魔力が注がれたら、構文そのものが耐えられなくなっちゃう」

「4? いえ、私、AMI値そこまで高くないんですけど⁉」

「瞬間的なものだよ。『とある原因』が元で急激にAMI値が跳ね上がることがあるんだ。それはデータからも明らか。でも魔導を行使する本人がそれに気付かずありったけの魔力を容量の小さい構文に注ぎ込んだから構文の方が根を上げちまった。急激な成長に本人が気付いていなかったことが原因と言える。まぁ軽自動車のつもりで振り回したら実は2トントラックでした、それで壁に当たっちゃいました、みたいなものさ。不注意な事故ではあるが、今後気を付ければ済む話だ、あまり気に病まなくてもいい」

「そ、そうなんですか」

 ホッとしたような。遠山は「こんな」ではあるが、文弥と肩を並べるほどの魔導の権威、いわゆる「真壁チルドレン」の一人である。同時に遠山は「こんな」ではあるが、ウソは言わない。冗談で澪をからかうことがあるにしても、だ。ともかく、国家権威のお墨付きを得た、と言える。

「それでイイモノ、というのが、『可変構文』というものだ。うちのラボで開発したものでね、効果に関しては間違いない。澪ちゃんの魔力測定装置にインストールしてあるから、またこれ、付けてみてよ」

「…はい」

 最近は付けっぱなしなせいですっかり澪のルックスの一部と化しているカチューシャ状の装置。付けろと言われてやはり澪が口ごもるのはそれには抵抗があるから。己の魔導の不完全さに烙印を押されたような気になってしまう。

「詠唱で起動するようになってるから、すぐにでも使えるよ」

「え、ちょっと待ってください。それって違法魔導に当たるのではないのですか?」

 なるほど、澪の言い分には一理ある。外部のデバイスに仕込まれた構文を作動させ、その利を得るのは、破界連合や黒坂たちが使っていたガジェットと何ら変わらないのではないのか?

「さすが澪ちゃんだ、そこに気付くとは大したものだね。でも大丈夫、コイツに違法性は無い。というのは、そもそも可変構文は基礎構文の補助をするもので、使用者が外界に対して働きかける性質のものではないこと。それに形式としては魔力測定装置に公式オプションで付加できるインストーラーを使うから、あくまで構文学習の一環、ただし緊急性のある場合は学習が終わるのを待ってはいられない。そこで緊急対応作動として詠唱起動を設定したんだ。魔導暴走の予防措置としてね。法的な面はすべてクリア済みだ、安心していい」

 さすが魔導の権威、魔導関連法をひと通り理解した上での措置である。いくらいつもからかわれているとはいえ澪は感心した。

「それで、可変構文の発動には、発動のポーズが必要なんだ。安全装置の解除としてね。ちょっと僕がやってみるから、見ててね」

「はい!」

 疑うことを知らぬ、澪の真剣な眼差し――――

「ね? ほらやってみて」

 立ち上がり、言われるままにポーズを取り、叫ぶ澪。

「『ヴァリアブルシンタックス、イグニッション!』」

 静まりかえるラボ。

「…プッ…」

 だが秒ともたなかった。

「プッ…プアッハッハッハッハッハ!」

 遠山は腹を抱えて転げまわる。もちろん笑いながら。

「ウチの娘を使って遊ぶのは止めてくれないか?」

 文弥は遠山に抗議する――――今にもイスから転げ落ちそうになりながら。

 学生たちはさすがに澪が気の毒に感じたのか、背を向けたままではあるが、肩はブルブルと震えている。

 ――――そのポーズ、どうみても特撮ヒーローの変身のそれであった。ご丁寧に掛け声まで添えて。

(そういえば遠山さんって、こういう悪ふざけ(ジョーク)が好きな人だった⁉)

 気付いたときには時すでに遅し。まんまと遠山の策略に乗せられた澪だった。

「もうおおおおおおおお! ヒドいじゃないですか!」

 澪は両拳をブンブン振りながら真っ赤な顔で抗議するが。

「アハハハハハハ、ごめんごめん、いや、可変構文は外部学習型構文として基礎構文同様時間をかけてインストールされるけど、普段の生活ではパッシブ、基礎構文と連動して作動するようになってるよ。だから特に何もしなくてもちゃんと作動して、アハッ、アハハハハハハ」

 笑い過ぎて終わりの方は何を言っているのかすら分からなかった。遠山はウソは言わないということ自体がウソだったのか――――


◆

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