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魔導学園ラブロジック!-セッキンするナツ。-  作者: 花塩樹圭


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第一章 内なる声① 大樹

ツイッター(現X)にてオープニング曲をアップしています


オープニング曲『Pride yourself』


https://x.com/HanashioKikei/status/2107309872920604756?s=20


URLをコピペしてご覧ください

「クソッ! またこの夢か」

 大樹は飛び起き周囲を見回した。白い天井、白い壁、白いカーテン。目に入るものすべてが無機質な部屋。なんだかここのところ厄介になりっぱなしの景色…に見えたが少々今回は異なる。何しろ広い。ただ…その景色が少し歪んでいた。目元を腕で拭えば本来の姿で見えたのだが。

「お目覚めかな?」

「校長…先生?」

 傍らから声を掛けられギョッとして声の方を向く。そこには文弥が腕組をして座っていた。なんだか観察でもしているかのように。

「…ここは…?」

「市民病院の個室だ。病室費用は学園持ちだから気にしなくていい」

「そんなことじゃ…ハッ⁈ アイツは? 白鷺はっ?」

「今頃保健室で寝ているだろう」

 その様子に加え妙に落ち着いていることが大樹には気に喰わなかった。まして大の男が泣いていた姿を見られたとあっては。抑揚のない声も大樹の神経を逆なでする。

「…いいのかよ。実の娘は保健室で、オレみたいな赤の他人がこんな立派な部屋で」

 大樹の声は低く唸るようだった。しかしそれすら文弥は気に留めない。

「学園の生徒ともなれば誰も彼も自分の子供のようなものさ。気にしなくていい。それよりも少々厄介なことになってしまったんでね。彼女を普通の病院で診るわけにはいかんのだよ」

 大樹が文弥の態度を気に入らなかったのにはもう一つ理由がある。確かに――――この男は娘に銃を向けていた。自分の子供のような、と言われても、その言葉を信じていいのか?

「あれは…一体何だったんだ…?」

「魔導暴走。君も経験があるだろう?」

「…知ってんのかよ」

「こう見えても魔導の権威なのでね。国内の魔導に関連するであろうことは、すべて私の耳に入るのだよ。好むと好まざるとね」

 やはり文弥の口調は事務的というか業務的というか。大樹としては、突っかかっていくほどではないにしても、何か言い返してやらなければ気が済まない。

「で、アンタはこんなところにいていいのか? 娘のことは心配じゃねぇのかよ」

「無論心配さ。だが君もまた、心配されるべき人物の一人でもあるんだ」

「…オレが? オレは赤の他人だろ?」

「そうではあるが、澪の心配をする以上は君のことも心配する必要があるんだよ」

「どういうことだ?」

「ああ見えて澪は身体が弱いのだ。いや、肉体は健康そのものな女性ではあるのだが、彼女は生命力が弱い。生命力が弱いということは魔導の源である魔力が弱いということでもあり、それゆえに澪は強い魔導を使うことができない」

「いや、でもアイツ、すげー技使うぜ?」

「それは澪が幼いころから磨いてきた魔導の技術の賜物だ。鍛錬に鍛錬を重ね、構文を磨き、少ない魔力を効率的に使って、あれだけの魔導を繰り出しているのだよ。同時に、魔導を使うたびに魔力を刺激、すなわち生命力を刺激することから、彼女の寿命は延びているのだ」

「ちょ、ま、寿命って、それって魔導を使わなきゃ死んじまうってことか⁈」

「そこまで極端ではないが、端的に言ってしまえばそういうことになるな」

 大樹は不可解だった。娘の命がどうこうの話なのに文弥はなぜこれほどまでに冷静でいられるのだ? ましてや澪は一人娘だったはずだ。

「…そんなこと、赤の他人のオレに話しちまってもよかったのかよ。こういうのって個人情報ってヤツじゃねぇのか?」

「まぁそうではあるんだが、ここから先は、神代君、君が関わってくる話なのだよ」

「オレが?」

「ああ。だから君にも知っていてもらいたくてね。それで、放っておけば澪は二十(はたち)を過ぎる頃にはいずれあの世に召されてしまうはずだった。『はずだった』というのは、ちょっと事情が変わってね。どうやら、澪は君が近くにいると彼女の生命力が増大する。君の生命力が澪に流れ込んでいるのではないかと推測しているが、真実はどうか分からない。ただ、データそのものを分析する限り、そうとしか考えられない状況なのだよ。つまりは、君が澪の傍にいてくれる限り、澪は長生きできる、そういうことになる」

「ちょ、待ってくれ。意味が分かんねぇ。それじゃアレか、オレは白鷺の燃料タンクみたいなもんだっていうのかよ」

「言葉は悪いがそういうことだ。もっとぶっちゃけた言い方をすれば、私は娘のために君を利用している。済まないとは思っているが…ね」

「マジかよ…」

 この霧島文弥という男、大樹の想像をはるかに超えた親バカだった。娘の寿命のためなら生徒一人を、ある意味『生贄』にしようとしているのだから。とはいえ、別段大樹自身はそれをどうとも思っていない。何しろ自分が何かをしているわけではないのだから。

「オレは別に構わねぇけどよ、オレが何かするんじゃねぇし。誰かの役に立てるならいくらでも利用してもらって構わねぇんだけどよ、その、そう、オレは構わねぇんだが、アイツはどうなんだ? オレみたいなガサツなヤツが傍にいて嫌だったりしねぇのか?」

「はっはっは。ガサツという割には気を遣うじゃないか」

「気を遣うというかなんというか…」

「まぁ、澪は澪で、別段君のことを嫌っているわけではなさそうだし、むしろ君が転校してきてくれてからはずいぶんと明るくなったと感じるよ。おそらく生命力が注がれることで心身ともに活発になったのだろう。親としては嬉しい限りだ。それに神代君。澪の傍にいることは君にとってもメリットのあることなんだ」

「それは校長の娘だからってことか?」

「その程度のことでメリットと思ってもらえるならありがたい話でもあるが、神代君、先日、5月の魔導実技で爆発事故があったね? それは覚えているかな?」

「…あ、ああ」

「あの時、第3実技室で起こっていたこと、すべてデータを解析してみた。実に興味深い。紙コップの中の水が絶対零度を下回っていた可能性があるのだよ。物理学上、物体は絶対零度までしか温度は下げられない。そこで電子の動きが停止するからね。しかし実際にはそれ以下に下げようという力が働き、水を構成する水素と酸素の原子が耐え切れず崩壊した。つまりそれは…あの日あの時、第3実技室で核爆発に似た現象が発生していた可能性があるのだよ」

「核爆発? え、それって原爆とか水爆とかの?」

 さすがに大樹は驚いた。文弥の語る物理学の知識についてはチンプンカンプンだが、核爆発と言われれば素人の大樹でも分かる。

「その通り」

 そして――――それを冷静に、むしろ嬉しそうに語る文弥が冷淡どころか不気味にすら思えてきた。

「だが、そこまでには至らなかった。水の温度を下げる強大な力が検知されたものの、それはある一点へ向かって流れ、そして吸収された。もう分かるね? 無論それは澪だ。つまり、あの場に澪がいなかったら、望陵学園を爆心地としてあの辺一帯がクレーターになっていたかもしれない。まぁそれは極端だとしても、少なくともあの場に澪がいたおかげで『あの程度』で済んだとも言えるんだ。お互い命拾いしたな。はっはっは」

 笑い事じゃない。話のスケールが大き過ぎて頭がついていかないが、少なくとも笑い話で済むような内容ではないだろう。

「でもオレ、アミとかいう数値が0なんじゃないのか?」

「確かに…普段使っている測定器ではそういう値が出ているかもしれない。だが人に秘められた力というのはまだまだ分からないことだらけなんだ。君に限らず、現在のところAMI値が0とされている人たちだって、計り知れない力を持っている可能性が大いにある。今はそれを我々が測定できていないというだけでね。だからこそ、我々望陵学園のような教育機関が必要なのだ。君たちのような若者にそうした未知の秘められた力が備わっているのなら、それを引き出してあげたいのだよ」

 大樹は自分がなぜ望陵学園に呼ばれたのか、その意味を理解した。それは以前澪が語っていた通りで、同時にそれが澪の希望的観測ではなく、学校全体の方針として存在しているのだと。

「私の古い友人が面白い機械を作ったとの連絡があったのでね、興味があったら来てみてくれ。さて、それでは失礼するよ。こういう時に娘のそばに居てやれないようじゃ父親失格だからね」

 そう言うと、文弥はあいさつもそこそこに病室を出ていった。

 残された大樹はドアが閉じるのを見届けると、自分の右手を見つめた。

「オレに…秘められた力…か…」


◆

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