深見琉希
「ごめん……カオスでごめん……、これからはちゃんとろみちゃんにも通訳するね。今晃芽先輩に揉まれるのはちょっとなーって左が言ってて、右は断固ヤダーみたいになっててね、えっとね、え? なんか今はあいつなら許す、とか言い出してる」
「ああ、やっぱり晃芽先輩はおっぱい的にもNG出たんですね。なかなか……少なくとも天花先輩よりは見る目ありそうで安心しました。で? あいつってのは……」
「ない! ないないないない田中だけはないよ!!」
左右の許す男が田中だと告げられた天花は激しくそれを拒否した。それを見たろみも、脳内でそう言われたのだろうと理解した。
「田中先輩……。ちょいちょい天花先輩と一緒のところを見かけた様な……あのモブっぽいけどよく見ると整ってるしスタイルの良い先輩ですよね」
悪口から入ったが最終的には田中を褒めたろみに天花はギョッと目を見開いた。
「ないよ! ないない! ろみちゃん冷静になって?! あたし田中と幼馴染だから分かるけど全然スタイル良くないよただのモブだよ?」
「そのセリフ、凄くお返ししたいです。冷静に晃芽先輩を見て欲しいです」
『あいつになら許そう!』
『我からしたら田中以外あり得ぬ』
「どうして?!」
冴えない幼馴染が左右に推される意味が全く分からない。分からな過ぎてさっきまで泣いていた事も吹っ飛んだ。
田中……確か下の名前は……蒼太。幼稚園からの幼馴染でただの田中。それ以外でも以下でもない。良く見ても田中だし、スタイルも田中だ。モブっぽい、と言うところだけは共感しよう。いつも田中は気付くとそこに居る様な、景色の様な存在だ。もしかしたら一人じゃないかも知れない。
「まぁ田中先輩と付き合うかは置いといて……」
「ないってば!!」
「はいはい、とりあえず理由はどうあれ一旦晃芽先輩との交際を思い留まってくれて良かったと思いますよ。今日は大人しく家へ帰って、良く考えて下さい。おっぱいを見て告白する奴と付き合えるかどうかを」
考えるまでもなく気持ち的には付き合いたいと思ったが、今日だけでろみに対する信頼度が爆上がりした天花は素直に頷いた。カタチだけではなく、本当に一度考えてみようとも思った。
「送りますか?」
「あはは、大丈夫だよろみちゃん。ごめんね、今日は色々と迷惑かけちゃって……」
「いえ、天花先輩には色々助けられていますし」
「あたしが? ろみちゃんを? え~? 何もしてないよぉ~」
実際に天花は何もしていない。ただ物言いがハッキリしているろみの発言が場の空気を悪くしそうな時、天花はいつもふんわり中和してくれる。ただの天花のキャラクターに過ぎないが、ろみは密かに感謝している。
「そう言うところです。さぁ、帰りましょ。どっちにしろ途中まで一緒ですし」
天花はこの日初めてろみの笑顔を見た。いつも可愛いが笑うともっと可愛いのだ。前にそれを言ったら何故かあまり笑わなくなってしまったので、天花はうんと返事をして家路に付いた。
「あ、ごめん、ちょっとだけ寄り道しても良い?」
「んも~、天花先輩はまたこんな時に……」
「ごめんごめん、すぐだから!」
ろみに小言を言われながら、天花は少しだけ回り道をしてここ最近のルーティンを熟そうと通学路とは少し外れた裏道に入った。そしてそこから、崩れたブロック塀の後ろへ入って行く。
「こんな所に一体何の用事が……」
「ろみちゃんが苦手じゃないと良いんだけ……ど……あっ?!」
ブロック塀の後ろに見える景色がいつもとは違っていて天花は小さな声を上げた。
「あ、ちょっと! 狭いところで急に立ち止まらないで下さいよ……って、げっ」
天花の後ろにつっかえたろみが、そう言いながらブロック塀の先を見てはあからさまな態度を取る。
「んだよ、何か用かコラ」
そして彼女もまた、あからさまだった。
「何か用かって聞いてんだよ」
派手な髪色、着崩した制服、タバコの匂い、はなからこちらを威嚇する品性。あからさまな不良……いや、今どきを考えれば珍しいかも知れない。
「なんでこんなとこにあいつが……」
「だだだ誰? めちゃおっかなそうな人……」
小声のろみに天花がもっと小さな声で訊ねる。するとろみが呆れたように言った。
「知らないんですか? 深見琉希。この辺仕切ってる不良ですよ。どこまで本当か分かりませんが女子高生でありながら半グレ集団も配下にしてるとか……。と言うか学校でも注意ありましたよ。最近治安悪いから危なそうなとこ行っちゃっダメって」
『治安が悪い等と言われている内は支配者の恐怖が足りぬのだ、ふはは』
『その強さ、何故弱き者に向けられぬのか』
この状況にあっても相変わらず左右はマイペースだ。
「行きましょう天花先輩、きっとここでタバコでも吸ってたんですよ」
硬直してしまった天花の耳元にろみがそう囁くと、不良らしく座っていた……所謂ヤンキー座りをしていた琉希にすっかり聞かれてしまう。そもそもろみはあまり恐がる素振りも見せていないので聞かれたら聞かれたで構わないと思っていそうだ。
「タバコ吸うのにわざわざ隠れるなんてダサいマネするかよ!」
途端に喚く琉希。
こちらに背中を向けてヤンキー座りをし、首だけ妙な角度でこちらを見ていた琉希がすっくと立ち上がった。
「ひぃっ……!」
女子にしては身長が高い。百七十はあろうか、上から凄まれて天花はますます固まってしまったが、ふと、琉希の手にあるものを見てサッと血の気が引いた。
「ハチコ!」




