「付き合って下さい」
左右はもう出来る事もないと諦めたのか大人しく寝ている様だ。お陰で両肩に重量が圧し掛かるが机に乗せていればだいぶ楽である。こんな女性を見る度、なんてこれみよがしな女だろうと嫉妬を覚えていたものだが今なら分かる。別にこれは見せ付けている訳でもなんでもなく、自分の体力を温存する為なのだ。
「なぁ、お前……それ……」
「なっ、何よ? 変なとこ見ないでよねっ!」
ろみが貸してくれたブレザーのお陰で通学時ほど目立たないが、やはり誰が見ても不自然に大きくなっている。田中だけがその事に触れようとして天花にぴしゃりと跳ね除けられた。
「はんっ! だーれがお前の事なんか見るかい!」
「あーはいはいそうですねーだ! しっし!」
「おいコラ、お前も見るな目が腐るぞ。お前もだ、見てんじゃねぇよ!」
何故か田中が他の視線も散らしてくれたので左右も良く眠れている様だ。この調子で授業を乗り切れば、放課後はようやく委員会の定例会である。
「行きましょう天花先輩」
最後の授業のチャイムと同時に、ろみが天花のクラスに迎えに来た。
「ろみちゃん!」
どうにか無事に放課後を迎えられたがいつ左右が暴れ出すかとずっとヒヤヒヤしていた。ろみの顔を見てホッとした天花は教室の入口で礼儀正しく待つろみに駆け寄る。
「大丈夫でしたか?」
「いやぁ、授業中ずっとブツブツ言ってたけどとりあえず動き出す事はなかったよ。五限目に左が、ブラもう限界! 解放しろ! 今すぐだ! って叫び出したんだけどどうにか右が宥めてくれて助かった」
「へぇ、右の方が協力的なんですね? 積極的に飛び出そうとしてたけど話せばわかるタイプと言う事ですか」
「んーん、実は右の方がヤバくて六限目には無意識にピクピク動いてた。絆創膏貼られるぞって今度は左の方が止めてくれたんだけど、ストレス溜まった右が勝手に動いちゃうのをどうやってか左が止めてたみたい」
「左が理性役なのヤバいですね」
「まぁどうにかなったよ」
「なら良かった、絆創膏は?」
「ここ」
天花は素早くスカートのポケットから絆創膏を取り出して見せた。
「大変結構です。では……お待ちかねの委員会に行きましょうか」
「うん! 大丈夫? 変じゃない? 大きい?」
「大きいですよ、でもたぶん変ではない……かな?」
何の確認か良く分からないが、天花は安心してろみと一緒に図書室へ向かった。当然図書委員会の定例会は図書室で行う。おススメの本を何にするか、未返却の本はどれくらいあるか、だいたいは二~三人の上級性が仕切って進めてくれるので天花達は出席して、多数決の時に適当な方へ挙手するだけで良い。
「先輩、確認しておきたいんですけどもし告白されたら付き合うんですか?」
「へっ?! 告白される……って、一体誰に?!」
図書室へ向かう廊下で、ろみが思わぬ質問を投げつける。
「晃芽先輩にですよ」
「なっ……! あははは! 急に何言ってるのよぉ! そんな事あるわけないじゃない! せいぜい認知されてるかなーくらいで、あたし晃芽先輩とほとんど喋った事ないんだよぉ?」
「でしょうね」
ちゃんと話していれば好きになる筈はない、ろみはそう続く言葉を飲み込んだ。
「でも、あり得るんですよね、あの人の場合……」
「まさかまさか、もしそんな事になっても……付き合えるワケ……」
天花はもじもじと下を向いてしまう。
「こんなおっぱいじゃなければ……な」
「自我さえ持っていなければ満点のおっぱいだとは思いますが……あっ」
ろみは何かに気付いて会話を切り上げたが、下を向いたままの天花は気付かない。足元を見ている筈なのにチラチラと自分の胸が視界に入り、その重みに気分も重くなる。
「天花先輩……っ!」
ろみが腕を掴んで止める。
「はいっ!」
足を止め、ハッとして顔を上げると、もう目の前にその人物が立っていた。
「うわぁっ?! ここここっ……晃芽先輩?!」
「……真桑……さん……」
真桑さん、そう天花の名字を呼んだ晃芽の目線は天花を見ていない。
「えっ! あ、はい!」
一方、天花の方も突如現れた想い人の顔をまともに見れないので、晃芽がどこを見ているのか分かっていない。その先に気付いているのはろみのみで、何かを悟ったのか、ろみはハァと溜息を吐いた。
「付き合って下さい」
「はへっ?!」
何事かと目の前の人物を確認するがやはり佐々木晃芽だ。
細身で長身、切れ長で、でも目尻の下がった優しそうな目。美しい鼻筋。薄い唇。長めの前髪が憂いを帯びた泣きぼくろに掛かる。そんな、どこか儚げな見た目に反し、無意識に放たれているであろう圧倒的陽のオーラ。
天花はこの人物がとても好きだ。
思わず深く考えずにハイと返事をして胸元に飛び込んでしまいたい。だがそんな天花を思い留まらせたのはろみだった。




