息するおっぱい
「晃芽先輩のどこが良いんですか? あいつしょーもない奴ですよ?」
「ひどくない?!」
強制的に参加させられる委員会活動だが、二週に一度、カタチばかりの定例会がある。楽そうだと思って決めた図書委員だったが、一学年上に佐々木晃芽が居た。彼は学園内でも有名なイケメンでありつつ、基本的にはフレンドリー。当然モテる男である。
一年生の時から同じ図書委員での交流があり、幸い二年生になってもお互いに図書委員会を選んだ。ただそれだけ。それ以上の存在ではない。
「と言うかどうしてすぐに晃芽先輩だって分かったの……?」
「天花先輩の視線の先見てたら結構分かりやすいですよ」
「ええええ?! どどどどうしよう恥ずかしいよぉぉ~! 晃芽先輩にも気付かれてたらどうしよぉぉ~?!」
「妙に自意識高いから……どうでしょうねぇ。むしろ何とも思われてないのに勘違いするまでありそうだけど、肝心なところでは鈍そうでもあるし何とも。あと言っておくと、あいつがモテるのって後輩とかからばっかりなんですよ。この意味分かります? 同級生はしょーもない奴だって気付いちゃうからなんです。天花先輩も委員会一緒にやってたら分かっても良いと思うんですが……」
「酷いったらぁ!」
天花が左右を押さえ込むのを止めてろみに向き合うと、天花の左右はプルプルと小刻みに震えているだけだった。どうやらおっぱいも全力で飛び出そうとし続けて疲れたらしい。
「いやいや家が近所だから幼馴染で……今でもまぁまぁ交流があるんだけど……本当に薄っぺらいですよ。何も考えてないんです。それこそおっぱいは大きければ大きい方が良いと思ってるタイプ」
それは天花も聞いた。確かにそれには少しガッカリした。だがもう一年以上思い続けているのだ。それだけで嫌いにはなれないし、それにこうなった今……もしかしたら? と、変な期待さえ持ってしまう。
「家が近所で幼馴染とか羨ましい……。私の幼馴染なんて田中だけなのに。何か子供の頃の可愛いエピソードとかあったら聞きたいなぁ?」
「……天花先輩もアホですね。お似合いかも知れません」
「えっ?! そそそそう?? そうかなぁ?!」
「褒めてませんし! とりあえずそれ脱いで下さい!」
「ええええっ?!」
左右が落ち着いていると見てろみは天花のブレザーとブラウスを有無を言わさず剥ぎ取った。
「ひえっ、ごめっ……!」
ブラウスの下は、それはもうあられもない状態になっていた。あれだけ左右のおっぱいが暴れていたのだ。当然、小さいブラジャーに収まっているわけがない。小さなカップから左右がすっかり零れ落ちている。
「こいつらいつ暴れ出してこうなるか分かりません。ちょっと失礼しますよ」
「な……何?」
ろみは自分のカバンの中から絆創膏を取り出し、シールを剥がすとおもむろにそれを露わになった天花のてっぺんに貼り付けた。
『うわぁっ!』
『何をする小娘!』
左右はそれを嫌がり、天花の脳内に訴えた。
「万が一ブラウスのボタンが全部弾け飛ぶ様な事になったら大変ですからね」
『ち……力が入らない……、これを取ってくれ主』
『くっ……う……すぐに取れ……。さもなくば……』
「へっ?! えっ?! ろみちゃん大変! なんかこれを貼られると力が出ないみたいで苦しんでるの。取って良い?」
「はぁ?」
天花の胸の谷間に挟まっていたブラウスのボタンを回収し、今度はカバンの中から裁縫セットを探していたろみが天花のたわ言に眉を顰めた。
「いやむしろ偶然掴んだ弱点じゃないですか! アンテナなのか何なのか知らないけど、塞ぐ事で力を封じられるならやっていきましょうよ!」
『う……主……約束する……むやみに動かないと……』
『はぁ……はぁ……息が……』
「息が出来ないみたい!」
「息してたんですか?! ならそのまま殺しましょうよ!」
ろみの過激な発言に天花が慄く。ろみには左右の声が聞こえないので何の罪悪感もないのだ。
『苦しい……苦し……い』
『う……ぐぅ……恨む……恨むぞ……』
「ダメダメろみちゃん! これを見殺しにしたらあたし眠れないよぅ!」
天花はろみの貼った絆創膏を剥がし、てっぺんを守る様に腕で隠してろみに背を向けた。
「……なんてお人好しなんでしょうね……」
「ろみちゃんも脳内におっぱいの声が聞こえたら無理だって! それに……」
絆創膏を剥がしても、左右は大人しかった。
『約束だからな』
『……この借りはいつか必ず返すでな』
「大丈夫、大人しくしてくれるって」
「信じて良いんですか?」
「いざとなったら絆創膏を貼る!」
暴れてからじゃ遅い……そう言おうとしたがろみは黙って絆創膏を箱ごと天花に渡してやった。そして天花のブラウスにボタンを縫い付ける。
「ありがとう。絆創膏と裁縫セットがカバンに入ってるなんて、ろみちゃんって凄く良いお母さんになりそうだね!」
「お母さんって……。女子力高いとか、そう言う表現にしてくれませんかね。そう思われたくて入れてますし」
「ご、ごめん」
天花は平謝りし、大人しくろみがボタンを縫い付けてくれるのを待った。とっくにホームルームは終わり、授業も始まる時間だ。生徒達のガヤガヤした気配がなくなっている。
「いつもの時間にいつもの場所に居ないだけで、何だか非日常って感じだね」
「いや非日常の原因そこじゃないです」
どこか脳天気な天花にろみが冷静に返す。
「あはは、それもそうか」
「呆れました、この状況で笑えるとか天花先輩は大物ですね。はい! 出来ましたよ。ブレザーはこのまま交換しましょう。もうすぐ夏服ですがブラウスも用意した方が良いと思います。絆創膏はいつでも取り出せるようにしておいて。乳首までの最短距離を確認しておくように」
天花はろみの一言一言にうんうんと頷いた。昨日からの緊急事態に上手に対応出来ず、母さえも当てにならなかった中で、ろみの言葉、行動はあまりにも頼もしかった。
ではまた放課後、と去るろみの後ろ姿を名残惜しく見送って、天花は二限目から授業に参加した。




