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おっぱいに宿りし魔王と騎士  作者: 焼肉一番


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弧を描くボタン

「良い? これから学校行くんだから声出さないでよ?」

 あれから天花は一晩中左右のおっぱいと語り合い……と言うと何か厳かな感じだが、決してそんな事はなく、あーだこーだとお互いの主張をぶつけ合い、結局天花が色々と我慢するしかないんだと悟る形で一応落ち着いた。

 と言うか考えても分からないし、考えるのに疲れてそれを止めてみただけである。とりあえず学校へ行くと言う行為がある意味現実逃避なのだ。

『声? そんなもの出しておらぬぞ』

 今までのブラジャーでは到底収まりきらなかった為、天花の母が授乳中に使っていた物を借りた。それでも窮屈であったが仕方がない。

『そうだぞ、そもそもどっから出すって言うんだ?』


 天花の母は突如成長した娘のおっぱいに驚いたが、そのおっぱいが自我を持っている事には気付かなかったし天花も言えなかった。成長期の人体の不思議、あるいは思春期の娘が思い悩んで何かを盛大に詰め込んだのではないかと思っていて、人の魅力はおっぱいで決まらない事をどう娘に伝えたものかと今後しばらく悩む事になる。


「それもそうだ……つまりあんた達、直接脳内に?! じゃっ、じゃぁ……………………」


『おい小娘無視するな』


『主! どうした出掛けないのか?!』


「逆は出来ないのぉぉ?!」


 昨晩からずっとこんな調子で天花はいちいちこの状況に新たな発見をしては狼狽えているのだった。

 恐らく右からと思われる声は爽やかな青年の様。ハキハキと物事を語り悪意は感じない。

 左からと思われる声は大人の渋い声。大仰な言葉使いで、あまり優しくないと感じる。

 いつも一人で歩いていた通学路を、今日はこの二人? と一緒に行かねばならない。色々と気を付けるべきだ。うっかり声を出して二人に反応したら、独り言のヤバい奴になってしまうのだ。絶対に喋れない。


『あいつ、自分の事見てるな』

『我の事も見ておる様だ』


 そう決心したのに左右から好き勝手な声が聞こえて来る。


『あいつもだ』

『その様だ』

『さっきから色んな奴と目が合うぞ』

『我も』


「いや目ってどこよ」


 突っ込みたくなって簡単に声が出てしまう。いけないと口を噤んでスマホを取り出した。これで伝わるかは分からないがメモにこう打ち込んでみる。


【大人しくしててよ】

『してるじゃないか』

『黙れと言うのだろう。偉そうに』


 どう言う仕組みかさっぱり分からないがどうやらこちらの気持ちを伝える事は出来た様だ。


『主は視線が気にならないのか?』


 右にそう言われて俯いて歩いていた天花は顔をあげた。その瞬間、同じ通学路の男子生徒が慌てて目を逸らせた様な気がした。

 どうやら本当に見られている。

 一晩でだいぶ見慣れてしまった様で麻痺していたが、今天花の胸は人の視線を集めるには十分過ぎる程の大きさだ。

 しかも、制服のブレザーのサイズが絶対的に合っていないのである。ブラウスもだ。そう厳しくはないが一応の校則でブレザーのボタンは留めるとなっているので無理やり留めてるが窮屈そうな左右が逆に目立つ。


「うっ……」


 初めて感じるあからさまな視線に天花は顔が熱くなった。


『ふん、くだらぬな。我は気にせぬ事にしよう。寝る』


 ズシッ……!


「?!」


 そう聞こえて気配が消えると、左だけ重量が増した。昨日から重さは感じていたが、それでもまだ全部を支えていたわけではなかったらしい。

 大きいおっぱいと言うものがこんなにも重いとは。肩が凝ると言う意味が良く分かる。


『まぁ気にしても仕方ないもんな。自分も寝る』


 ズシッ……!


「?!?!」


 二人の気配が消え左右のおっぱいが完全に天花の肩に乗った。二人が大人しくなってくれたのは良いが、十六年間まな板をやって来た天花は突然の重量に対応出来ない。

 バランスを崩してへたりとその場に座り込んでしまう。ただでさえろくに眠れていないのだ。


「先輩? やっぱ天花先輩じゃないですか、大丈夫ですか?」


 通学の邪魔になるところで蹲ってしまい、誰かの肩を借りたかったが男子は避けたい。そんな事を思っていたところに現れたのが同じ図書委員会の後輩、宮本ろみ。活発そうな黒髪ショートボブの女子だ。中学も同じでその時も同じ委員会をやっていた。何かと縁があり仲が良い。

 天花に比べて……いや、一般的に見ても胸は大きい。天花は度々この可愛い後輩の胸を羨ましいと思っていたし、それに不釣り合いなスマートな髪型も、大きな目の童顔もとても好ましいと思っていた。


「ああ、ろみちゃ……」


「えっ?! てか……そっ、その胸どうしたんですか?!」


 みんなの視線を集めていた胸に気付き、真っすぐに疑問をぶつける。

 ろみは良く言えばさばさばしている、悪く言えば少々デリカシーのない後輩である。それが可愛いらしい童顔から出て来るのでそのギャップに時々心が抉られる事も良くあった。


「な……何って……何か変かな?!」


 自我を持っている事を除けばただの豊かなおっぱいの筈だ。天花はそう思って質問に質問で返した。


「いや明らかに変でしょ?! そんなデカくなかったじゃないですか! 制服に収まりきってないし! 何か詰めるにしてももうちょっと自然にやりましょうよ!」


「詰めてないよ! 本物だよ!」


『ええいうるさいな! せっかく大人しく寝てやろうと思ったのに、近くでそう大声を出されたら眠れぬではないか!』


 左の声が響き、左の重量がなくなり、そして左がブラウスの下で突出し、ブレザーのボタンは全部弾け飛んだ。


「えっ?!」

「ふぁぁっ?!」


 空に弧を描くブレザーのボタンが、天花にはまるでスローモーションの様に見えたと言う……。

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