男子高生の常識
「……ま、帰るわ」
一人にされた田中が背を向けると、天花と抱き合ったまま腕を伸ばしろみがその背中を捕まえる。
「あっ、こら……」
「あたしは益々確信しました。天花先輩のおっぱいをこんなにしたのは田中先輩です!!」
「だから言い方!」
そんな事はどうでも良いとろみは天花に田中説を裏付ける。背中を掴まれた田中は面倒そうな顔をしながらも逃げはしない。
「だってこんなに自然に揺れる……まぁ大きさやタイミングは不自然ですが、こんなに自然に揺れるおっぱいですよ?」
「にゃあああーっ!!」
心地良く抱き合っていたろみに突然背中を取られたと思うと、後ろから胸を持ち上げられ、揺らされる。
『はははは!』
『ふははっ!』
「高い高いされた子供みたいに無邪気に喜ぶな! じゃなくて! やめてよろみちゃん!」
強引に距離を取ってろみを見るが、ろみの視線は鋭く観察する様に田中に向けられている。釣られて田中を見るが、眉間に皺を寄せて怪しげなものを見ている様な……少なくとも揺れるおっぱいにテンションが上がった男子高生の顔には見えなかった。
「やはり、あまりにも偽物と確信している……」
「それはだから……常識的に考えた結果……」
「だけどこうですよ?」
「にゃあああーっ!」
また揺らし、田中を観察するろみ。やはりおっぱいを見る目とは違う田中。
「常識だなんだとか言ったって、結局は目の前に揺れるおっぱいがあったらどうでも良くなってしまう。それが男子高生と言うもの」
「決め付けが凄くない?」
「晃芽先輩がアホなのは間違いないですが、反応的に男子高生の常識に則っているとも言えます」
「そ、そうかな? そうかも?!」
晃芽が常識的な人間で、自分もその範囲内である方が嬉しい天花はろみの言葉の続きに期待する様な目を向けた。
「はぁ? そうかぁ?」
田中の方はげんなりした表情で、もうあまり言い返す気力もない様だ。
「さっきはこっちのが常識だーみたいに田中先輩に畳み込まれましたけど、果たして本当にそうでしょうか? 常識って疑ってみる事も大事だと思いませんか? いつからそれが常識だと錯覚していたのかって話しですよ!」
キラリと瞳を光らせ人差し指で田中を力強く指すとこう続けるろみ。
「と言う事で田中先輩! ズバリあなた魔法少女ウラメちゃんに接触しているでしょう!」
「魔法少女? ウラ……メ?」
「ええっ?!」
ポカンとする田中と、大きくリアクションする天花。
「ままままさか……! だって接触しちゃいけないってウラメちゃん本人が……」
「そうです。ですが私たちは接触しました」
「確かに」
「そしてウラメちゃん本人がこうも言っていました。……じゃないとまた見つかってしまうです……って」
「言ってたかも!」
「移動速度が遅いから見つかるみたいな事も言ってたし、あの言い方だと良くある事の様に感じました」
「そうよ、そうよね。でもなんで……、だったらなんで何も言わなかったのよ……。初日から気付いてたのね?!」
もうこれで決まりだとばかりに天花はろみと一緒に田中に詰め寄るが、当の田中は何もピンと着ていない顔をしている。少なくとも天花にはそう見えたが、それも白々しくとぼけている様にも見えて来る。
「何の話だよ? さっぱり分からん」
「ウラメちゃんの魔法の事よ! あたしが、突然変わった原因、あんた、ずっと知ってたんでしょ?! だから偽物だって……! あっ……!」
そして天花は思い出した。あの日、あの光源を見た場所の事を。自室から見える田中の家……二階建ての青い屋根が照らされていた光景を。
「もうとぼけても無駄よ! 早く正直に話して!」
「知らねぇよそんな事!」
「天花先輩のおっぱいが偽物だなんて! 知らなきゃ言えない事なんですよ!」
詰めた天花をろみも援護する。
「いや言えるよ?! 見りゃわかるよ?! お前らちょっと感覚バグって来てるって! それが自然なわけないから! そうじゃなくても俺は、ずっと隣にいたんだぞ」
「突然の幼馴染ムーブがまたアヤシイですね」
「知ってるなら話しは早いのよ! 願いのその先を言ってみなさい!」
「おいおいコイツら全然俺の話し聞かねぇーじゃん!」
『手伝ってやろう』
『そうだな』
膠着状態と見た左右が静かに言って、大胆に動き出す。
「?!」
グンと胸から引っ張られる天花の身体。
「なっ?!」
予想外のスピードで距離を詰めて来る天花に田中は反応が送れてしまう。幼馴染の天花は初速で一気に相手の懐に入れる奴ではなかった筈なのだ。
「あぶ……!」
それでも、胸から飛び込んで来た天花を田中は優しく抱き留め……ようとしたが、遅れて来た頭が鞭の様にしなり田中の鎖骨にヒット。
「ぐっ……!」
「んぎゃっ!」
両者ともに多大なダメージを喰らい、田中は天花の両肩を支えたまま後ろへ倒れ込むと、抱き合う様な形で地面に叩き付けられた。




