おっぱい大きくしたの、田中先輩説
「うーん……何故おっぱいは天花先輩の願いが叶ったのに消えないのか……」
ろみが自分の顎に指を添えて考え込む。いくら考えても分からない事が多過ぎてどれも仮説にしかならないのだが。
「可能性はいくつかありますが……、例えば一つ、天花先輩の夢は晃芽先輩と付き合う事ではなかった」
「そ、それはないと思う……。だっておっぱい大きくなれって祈り出したのは晃芽先輩が大きいおっぱいが好きって言ってるのを聞いたからだもん。その日から祈ったり揉んだり話し掛けたり……」
天花の行動に呆れるやら、話し掛けとったんかいと突っ込みたくなるやら、どれから言おうか渋滞を起こしたろみは結局面倒になってそれについて触れるのを止めた。
「そうですか。では……この願いは天花先輩の祈りじゃなかった、と言うのはどうでしょう?」
「ええっ?!」
思ってもみない説に天花はまさかと思ったが、だがあり得ない話しではない。
「ね、ねぇあなた達! あなた達なら誰の祈りなのか分かるんじゃないの?」
『いいや』
『自分達はウラメの一部だけど細かい思考は分からない』
「全然あてにならない……!」
「おっぱいも知らないって言うんですね?」
天花の独り言に聞こえる言葉で察したろみが腕組をする。
「うん。でも、じゃあ一体誰が、何の為に、あたしのおっぱいをこんなにしてって祈ったの?!」
「そうですよねぇ、そんな酔狂な事……」
「酔狂じゃ済まないよ! 変態だよ! 気持ち悪いよ!」
「天花! こんなとこに居たのか! 大変だ!!」
公園の入り口で天花を見付けてこちらにやって来たのは……。
「田中……」
ずいぶん血相を変えている。息を切らせ、汗にまみれ、それでものんびり構えたままの天花に駆け寄り言った。
「ハチコが! ハチコが居ないんだ! 昨日場所変わったって聞いたからちゃんとそこに行ったんだが、なんだか血の跡もあって……もしかしたら誰かに虐待されて……」
「あ、あーはは、それあたしの血」
「……は?」
天花は何でもない事の様に言ったが、それは田中を安心させる言葉ではない。田中の眉間にはより一層皺が寄った。
「何だよそれ?! どこ怪我したんだよ?!」
「何でもない何でもない! それにハチコはあたしが飼う事にしたの!」
「はああぁ?! なっ……だったらすぐに連絡しろよ! 放課後俺の番だったから普通に行っちゃったし! お前電話出ないし! 心配しただろうが! このバカ! あと怪我したとこ見せてみろ! このバカ!」
「あーうるさいなぁー! ゴメンって言ってるじゃん!」
一言も言っていない。
「それに怪我は大した事ないから大丈夫! 隠れてるとこなの分かるでしょっ?!」
息を切らせてやって来た田中にそっけなくそう言うとプイと横を向いた。まるで幼稚なその仕草に田中も溜息を吐く。
「そうかよ」
ふと、近くに居たろみと目が合いベタに頭を掻く。居る事に気付かないくらい必死で天花を探していたのかも知れないが……安心して、少々恥ずかしくなったのだろう。
「まぁハチコが! ハチコだけ無事なら良いんだ! じゃぁな! このバカ!」
やれやれと悪態を吐いて田中が去ると、ろみがその背中をいつまでも見送っていた。
「何よもう……バカバカ言い過ぎ」
「やっぱハチコって呼んでるんだ……。田中先輩って……天花先輩の事好きなんですね」
「ぶっ?!」
田中に声が届かなくなったであろうタイミングでろみが、まだ田中の方を見ながら呟いた。
「ききき気持ち悪い事言わないでよろみちゃん!」
「気持ち悪いですか?」
必要以上に拒否反応を見せる天花に向き直り言う。
「気持ち悪いよ、だって前にも言ったけどあたしと田中はただの幼馴染なの! そんな風には全然考えられな……」
「やたらと否定しますよね。もしかしてすでに告白された事が……」
「ぶーっ!!!」
「図星ですか」
「何も言ってないじゃない!」
たまらず天花はブランコから立ち上がって安全柵に座ったままのろみに詰め寄った。
「いーい?! 田中は……!」
「天花先輩、これは仮説ですが」
「んっ」
何かとんでもない仮説を立てそうだなと、言いたい事を一旦飲み込んで天花は構えた。
「天花先輩のおっぱい大きくしたの、田中先輩説」
「ぶふぉっっ!!!」
「さっきからリアクションがおっさんぽいんですけど?」
「ねぇ言い方!! その言い方やだぁ!!」
「捨てきれない説だと、今二人を見てて思いました」
天花の激しい拒絶をもろともせず、ろみはマイペースに持論を展開した。
「なっなっなにを……!」
『やはり田中は良い奴だろう』
『自分も田中なら良い』
やたらと左右も田中推しだ。
「あなた達まで何言うのよ!」
「おっぱいも同じ事言ってるんですか?」
「そ……そうじゃないけど……」
自分の胸にそう言った天花を見てろみが興味深そうに聞く。
「おっぱいは誰の願いなのか知らないって言ってたみたいだけど、まったく関与しないとも限らないし、ちょっとくらい影響を受けている方が自然な気もしませんか? だから田中先輩にだけ好意的なのかも知れませんよ」
「いやいやいや仮に! あくまで仮にその説が正しいとして余計なお世話過ぎる! めーっちゃうざい! 田中の願いはなんなのよ?! どうしてあたしの為に宇宙まで届く強い祈りを捧げたの?!」
「それは……まぁ天花先輩が幸せになる事でしょうね? ほら、おっぱいが小さいと不幸、的な事、田中先輩の前で言った事とかないですか?」
「そんな事……」
言い掛けて思い出した。あると言えばある。
ハッキリと言ってはいないが、晃芽がおっぱいが大きい子が好きだと発言したのを聞いたあの時、田中と一緒だった。少しばかり取り乱した記憶はあるが……。
「完璧に誤魔化せた筈よ」
「なるほど完璧にバレたんでしょうね」
「ちょっとはあたしの話し聞いて?」




