恋愛成就
「うん、真桑さん」
晃芽は仕上げとばかりにニッコリ微笑む。
「あたし……あたし達、一緒なんですね!」
晃芽の話しに乗ろうと決めた天花はその笑顔に応えた。
「そうだね!」
「あまりにも突然過ぎて……昨日は咄嗟に断ってしまったんですが、あの、あたしも! 晃芽先輩の事好きです! 付き合って下さい!」
「ああ! 付き合おう!!」
晃芽の腕が伸び、天花の両肩が掴まれた。そのまま見つめ合う。晃芽の視線はちゃんと天花の目……の筈だ。
「晃芽先輩……」
「真桑さん……」
遠くで聞こえるはしゃいた生徒の声が、より一層遠くなった、そんな気がして天花は自然と目を閉じる。するとゆらりと晃芽が動いたのが分かった。距離が近付く……。
『こやつら……アホだな』
『自分はちょっと応援したくもなって来た。ちょっとだけだけど』
「ちょっと待って下さい!!!」
もう少しで触れる、すんでのところで天花は大きな声を出して晃芽を拒否した。
「な……何?」
完全にその雰囲気だった。そう思っていた晃芽は不機嫌な音を滲ませつつも一応止まって様子を覗った。
「あの……確認なんですが、あたし達今付き合いましたよね?」
「そう言うのちゃんとしてないとダメなタイプ? だけどたった今、俺ちゃーんと言ったよ、付き合おうって」
「ですよね? 付き合ってますよね? 彼氏彼女ですよね?」
ムードも何もない事を言っているのは天花だって分かっている。だがそれどころじゃない事が起きているのだ。
「そうだよ、俺達付き合ってるよ」
そう言って晃芽は一歩天花に迫った。
『鼻息が荒いな』
『また別人格に支配されてるんだろうな!』
「ちょおーーーっと待って下さい?!?!」
「な、何?!」
居る。
晃芽の告白を受け入れ、晴れて彼氏彼女の関係になった。天花の、一つ先の夢が叶った。
だが居る。
まだ居る。
ハッキリとそこに感じる。
『やはりろくな男ではない』
『ある意味男らしいとも』
「……っ!!」
天花はまた胸を隠す様に両腕で覆い晃芽に背を向けると、そのまま顔も見ずに走り出した。
「真桑さん?!」
「ごめんなさい!!!」
何故? どうして?
天花は混乱し闇雲に走った。
仮説では天花の一つ先の夢、大きなおっぱいになりたいと願った原因、佐々木晃芽との恋を成就させれば魔法は解ける筈だった。
「なのになんでまだ居るのよぉぉー?!」
「天花先輩?!」
カバンも教室に置いたまま校門まで走ると、そこにはろみが待っていた。
「ろみちゃん! ろみちゃあああん!」
勢いのままろみに飛び付き、自然なふくらみに顔を埋める。おっぱいと言うものは男女問わず安心感を与えるものだ。天花は少しだけ落ち着きを取り戻す。
「私先輩達が仲良く下校する所を汚いものを見る目で見てやろうとここで待ってたのに……。どうして一人なんですか? どうして半泣きなんですか? まさか振られたんですか?」
「違うの! ちゃんと付き合う事になった! 確認もした! なのに居るの! まだ居るのよぉぉぉ!」
「居る……?」
自分にしがみ付く天花の胸に圧迫され、その意味に気付いた。
「あ……ああ、おっぱい何か言ってます?」
「あたしと晃芽先輩の事アホって言ってた気がする」
「ふふっ」
「笑い事じゃない!」
それはそう、と完全におっぱいと思考が一致した事がおかしく思わず笑ったろみに天花が喚く。
「落ち着いて下さい。ここ目立つし移動しましょう。晃芽先輩が来るかも知れないし」
「うう……」
天花の代わりにろみが教室のカバンを回収し、二人は学校の近くの公園へとやって来た。天花が力なくブランコに身体を預けると、ろみは向かいの安全柵に腰を下ろして話しを聞く体勢を作る。
「なるほどおっぱいが……」
天花は頷き、そのまま項垂れた。
「やっぱりおっぱい的にも嫌なんですかね、魔法が解けたら……その、死んでしまうみたいなものなんでしょうか。だとしたら怖いですもんね」
あ、と天花が顔を上げると魔王の声がした。
『我に恐怖などと言う感情はないわ』
「でも……絆創膏貼った時に嫌がったじゃない……。死んじゃうと思ったんじゃないの?」
『恐怖はなくても苦しいものは苦しいぞ!』
今度は騎士の声。
「なんかややこしい事言ってる」
「何て言ってるんです? と言うか存在自体がややこしいので今更なんじゃないですか?」
『ここから消えるのは別に苦しくもないし怖くもない。またウラメの中に戻るだけだと思うからね』
「だったら何で邪魔したのよっ!」
『あいつは気に入らない。そう思っただけだ』
『そうだよ、それに結果はうまく行ったじゃないか。勝手に逃げ出したのは主だろう?』
「そ、それはそう……だけど、安心して付き合えないじゃない! どうしようろみちゃん意味が分からないよ。一つ先の夢を叶えた筈なのに……」




