純粋な願い
「ウラメ、騒々しいの苦手……もう、行くね」
「ごめんごめん! 待って! キャンセル! 願いキャンセルにして!」
騒々しいのが苦手だと言われたばかりの天花は、更に大きな声を出して必死でウラメを引き止めた。しかし返って来たのは無情な言葉である。
「一度届いた願いのキャンセルは、出来ない」
「……っ?!」
「勝手に叶えてキャンセル出来ないは酷い!」
言葉を失った天花に代わり、ろみがそう言う。
「一体目的は何なのよ?! 交換条件でも何でも良いから天花先輩のおっぱい元に戻してよ!」
「目的などないです。魔法少女は人々の純粋な願いを叶える存在。己の欲望の為にやっている事ではないので心外です。故にキャンセルの条件なんてないです」
「た……性質が悪い……!」
一体どうすればいいのだと胸元のハチコを抱き締め、天花はハッと気が付いた。
「待ってよじゃぁハチコは?! ハチコをムキムキにしたのもあなたなんでしょう? でもキャンセル出来てるじゃない!」
「本当だ! 条件は?! 条件は何?! ちゃんと目的もあるんでしょう?!」
「うっ……」
光源が目に見えて小さく萎んだ。どうやらあっと言う間に嘘がバレてしまったらしい。他にも魔法少女と呼ばれる存在が居るかは分からないが、ウラメはかなり詰めが甘そうである。
「ウラメの居る宇宙で使われているエネルギーになるです……」
「……? 一体何が?」
「夢が叶った瞬間に出る人の感情です。一人の夢が叶うと、なんと千人分のお風呂が沸くです」
「良く分かんないな?!」
「とにかく生きる為に魔法を掛けているです」
「結局自分達の為って事ね! ちゃんと言えば己の欲望の為! ってわけだぁ。だったら純粋な願いのみってのはなんなのよ? あたしの願いを叶えてくれてそっちのお風呂が沸くならウィンウィンじゃない!」
この機を逃すものかと言わんばかりにろみが身を乗り出す。
「こっちも仕事は選びたい」
「ただの好き嫌い?!」
「それもあるけど単純に良質なエネルギーにならないです。魔法を使って一人分のお風呂しか沸かなかったら赤字です」
「赤字……」
「魔法って無限に使えるんじゃないんだね……」
魔法と赤字が同列に語られるとは思わなかった二人は顔を見合わせた。
「それに純粋な願いの方がウラメに届きやすい。欲は重いです。ウラメのところまで飛んで来ない」
「……そっちの思惑は分かったわ。勝手に願いを叶えまくってる奴よりよっぽど信じられる存在になった。で? キャンセル方法は?」
「それは本当にないです」
「はぁ?! じゃあハチコはどうして元に戻ったって言うの?」
詰めるろみの横で、本当はすっかり元通りになったわけではないのではと疑った天花がハチコを掲げて隅々見回すが、どこをどう見ても可愛いハチコだった。
「ウラメが魔法をキャンセルしているわけじゃなくて、ウラメの魔法が及ばない状況になるだけです」
「そうするにはどうしたら?」
「その魔法の先の願いを叶える事です」
どう言う事か分からず二人は顔を見合わせた。どうやらお互いに分かっていないと悟った天花が慎重に質問を重ねた。
「どう言う事……?」
「言葉通りの意味です」
「ハチコの、魔法の先の夢……?」
「その猫は生き延びたいと願ったです。だからウラメは誰にも負けない身体をプレゼントしたです。でも何故生き延びたいと思ったか、それはいつも頭を撫でてくれる優しい手が大好きだったからです」
腕の中のハチコを見ると、天花はたまらなくなって強く抱き締めた。
なるほど、なんと純粋な願いだろうか。
「そうだったの……そうだったんだねハチコ! これからいくらでも……いっぱいいっぱい、撫でてあげるね」
「そうか……、天花先輩が飼うって言ったから……」
「いけない、接触し過ぎ? 仕事、戻るです」
「あっ、まっ……!」
最後まで言う前に、ウラメはもう高く高く、空へと上っていた。
「もうあんなとこに……! 何が重力のない星へ行くべきよ?! 全然感じてないじゃん速いじゃん!」
次はどこへ行くか決まっているのか、それとも純粋な願いを感じるまで気ままに飛んで行くのか。もう確かめる事は出来ない。
しかし、このウラメとの接触は何も分からなかった状況を大きく変えたと言って良いだろう。それだけでも喜ぶべきだ。




