魔法少女ウラメ
「な、何です……? それは……」
「分かんない。分かんないけど……綺麗」
不思議な事に慣れてしまったのか、まだ怯えた様子のろみとは対照的に天花は脳天気に光の粒を見ながら綺麗だと言った。ぐんぐん空へ消えるそれをうっとりと見上げ、目を細める。
「天花先輩!」
驚きを含んだ声でろみが呼んだ。そのろみの視線の先に気付いて腕の中のハチコを見ると……、いつの間にかハチコは元の子猫に戻って天花に甘えている。
「良かった……」
そう言って頬ずりをする。もう何も怖い事はない。ただの可愛い子猫だ。
「はぁ……ああ……」
妙な肝の座り方をした天花に底知れない物を感じつつ、ろみはホッとしてその場にへたりと座り込んだ。
「傷、大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと血が出ただけで大した事ないよ」
天花も向かいに座る。
「なら良かったですけど……。まさかこんな危険まで襲って来るとは思いませんでしたね。でもやっぱり今回も一旦は守ってもらったって事で良いんじゃないですか?」
おっぱいが敵か味方か、ろみは次に何か起こった時に考えようと言っていたが、味方であると認識した様だ。
「いいえ、違うわろみちゃん、あたし聞いたわよ魔王、ナイトも」
ハチコに向けていた優しい眼差しを光らせ、天花が言った。
――同類か? ――
魔王はそう言い、騎士もそれに同意した筈だ。
「ハチコとあなた達が同類ってどう言う事? 本当は自分が生まれた理由知ってるんじゃないの?!」
「天花先輩待って……、上、上……」
天花が自分の胸元に向かって叫んでいるのでろみが上を見る様に促した。
言われるがまま素直に顎を上げて頭上を確認すると、あの光の粒が集まったのか、大きな光の玉が浮かんでいる。いや、これは光の粒とは別物。天花が追い掛けたピンクがかったあの光源ではないか。
「あっと言う間に解けた……? 珍しい事もあるものです」
光源から声がする。
「……だ、誰?」
「今度は何?! さすがにお腹いっぱいですよ!」
光源から視線を逸らさぬまま、ろみは咄嗟に天花に抱き付いた。挟まれたハチコがどうにか胸の上へ顔を出す。
「あ、いけない、接触……。あまりに珍しかったのでつい戻って確かめに来てしまったです。でも予期せぬ何かの可能性があったので仕方がない?」
気だるげな……だけど可愛い女の子の声だ。あまりやる気は感じられない。そして友好的な雰囲気も感じられない。一応疑問形で終わっているが何の事かさっぱり分からないしまるで独り言だ。
「仕方ない仕方ない! 大丈夫大丈夫! 仲良くしましょ?!」
天花はろみの手をギュッと握りながら光源にそう話し掛けた。
あの夜に見たピンクがかった光源、そう、天花はこれを追い掛けて来たのだ。きっとここに自分がこうなった、おっぱいが自我を持った秘密が隠れているのではないか。
「ななな仲良くって……天花先輩何を……」
「長居出来ないです。現在業務進行中」
「休憩よ休憩!」
思惑がまったく分からないろみが、不思議な光源に喰らい付く天花に戸惑う。ろみからするとさっきから行動が大胆かつ意味不明なのだ。
「あたしは真桑天花! あなたは?!」
「……ウラメ。魔法少女ウラメです」
意外にも、天花の言葉に素直な反応が返って来た。
ウラメ……。魔法少女……。
真逆のイメージの言葉が繋がっている様な名前で、何だか少しばかり不吉だと天花は感じた。
「魔法少女ウラメ……ちゃん、あのさあたしのところにも、来たんだよね?」
「えっ? そうなんですか?!」
ろみは驚いて天花を見たが、天花は光源……ウラメから目を離さなかった。ウラメは音声波形の様にゆらゆらその身を膨縮させながら答える。
「来たと思ったって事は……何か感じたですか? うーん、移動速度が遅過ぎるです。ウラメはもっと重力のない星へ移るべき? じゃないとまた見つかってしまうです」
やはりどこか独り言の様だが天花の質問の答えは分かった。これで十分とばかりに天花が詰め寄る。
「ええ! 感じたわ! 現在進行形で感じてる! あなたが……! あなたがあたしのおっぱいをこんなにしたの?!」
「はいです。魔法少女ウラメは、強い……けれども純粋な願いを感知して叶えるです」
「……やっぱり!」
「何それ信じられない……本当に魔法少女? 見た目がすでに少女でもないんですけど?!」
少しだけこの状況に慣れたろみが参戦する。
「今ウラメはここで通じる言葉を使っているです。だけどウラメ自身意味は分からない。ウラメの思考を伝える会話システムが、ウラメを表現するには魔法少女と言う言葉が最適だと判断したに過ぎないです」
「なるほど? 見た目が少女じゃないのは納得したけど……」
少しだけ考える素振りを見せて、一気にこの状況に慣れたろみが暴走する。
「本当に魔法少女なのなら私の願いも叶えてみてよ!」
「ろみちゃん?! 何言い出すの?!」
「毎日寿司とステーキを運んで来て、体重は何食べても痩せる様にして、財布には常に五万円、使っても減らない仕様ね? それから毎回無課金分の石でSSR確定で出る様にして!」
「ウラメの話し、聞いてたです? 純粋な願いって言ってるです」
「何の裏もなく純粋にそう思ってますけど? これがダメなら、おっぱいを大きくしたいののどこが純粋なのか説明して欲しい。と言うか! そもそも被害者ぶってたけど天花先輩自分で望んでたって事じゃないですか!」
天花に抱き付いて恐怖を逃がしていたろみはもう居ない。
ろみが天花の両肩を掴んで責め立てると、天花は気付いたか……と何とも言えない表情で揺さぶられる。
「ううっ……だっ、だからって何で動くのよ?! 喋ってって願ってないよ! 左右別々にする事もないでしょ?! キャラだって濃過ぎない?! せめて女性の人格にしてよ!」
恥ずかしさも手伝って天花は大きな声で聞きたい事をウラメにぶつけた。そのどれもがあまり役に立ちそうもない。




