第二話 「過負荷電撃剣」
変更した学校に到着し、家に向かった。
最寄り駅の改札を出た時、階段を降りようと角を曲がると人がすごい勢いで飛び出してきた。しばらくすると大勢の人が階段をすごい勢いで上がってきた。
聞こえるのは足音と、悲鳴や絶叫だった。阿鼻叫喚という四文字が脳裏によぎったところで俺は階段を降りた。
あの時の俺は半ば自暴自棄状態で、完全に好奇心にその身を委ねていた。
階段を降りても迎えてくれたのは風だけで、不審者等の誰かが叫ぶようなものは見当たらなかった。
なんかの宗教か、なんかとも思ったが、発狂するような連中が電車なんかを利用するとは考えにくい。
というか普通に嫌だ。
一旦そのことを忘れて家に向かった。駅のロータリーの近くにある交差点が近づいてきた時、俺はようやく人々が悲鳴を上げる原因を見つけた。
あれがヴァリァス……!
写真でしか見たことがなかったが、間近で見てみると壮大だった。
当時はあまり感情がなかったせいで特に印象に残ったわけではなかった。
冷静に周囲を観察すると、黒く染まった地面の上に変な化け物がいた。
形は……ムカデの後尾にサソリの尾をつけたものと思ってくれて構わない。
そのムカデと対峙しているのは、一人の男だった。後ろ姿は普通の成人男性だが、剣を持っていて、いかにも特殊部隊という感じだった。
両者はピクリとも動かず、氷漬けにされたかのように止まっていた。するとムカデが滅茶苦茶速い動きで男の持つ剣を空高くに吹き飛ばした。武器が無くなったのか、男は後ずさりし始めた。
(そういえば、剣はどこに落ちたんだ……?)
前を向くと、目の前に剣がバキンという音を立てて地面に突き刺さった。なんでコンクリを壊せるほど固いのかは当時は考えていなかった。いきなり剣が落ちてきて、ビビったのは確かだが、事前に言ってくれればよかったのにな。
「親方!空から剣が!」
「な、何が起こってるんだ……!」
いや、ホントにどんな状況だ。
とりあえず俺は目の前に落ちてきた剣を拾い上げ男の元に向かった。
化け物が目の前にいるにも関わらず平気な顔して剣を持ってきた俺を見て驚いたのか、男は目を丸くした。
「色々聞きたいことがあるんだが……ひとまず、君は逃げなさい。ここはおじさんがどうにかするから」
「……これは要らないんですか?」
「それは電気を流すことで初めて高い威力を誇る剣なんだ。電池が切れたから使い物にならない」
こうして話している間もムカデはじっとしていた。俺は剣を持っていても戦闘はできないため、男に剣を渡そうとすると、ムカデが突如として動いた。
「早く逃げろ!」
男の声が聞こえた。
俺はムカデの動きがみるみる遅くなっていくのを感じた。
走馬灯じゃない、相手の動きを見極められるような感覚……。とりあえず持っていた剣で、ムカデの足に斬り込んだ。遅く見える世界でも足の硬度は異常だった。
まるで爪楊枝でプラスチックを貫こうとしているような手応えだった。さっき落ちた衝撃でヒビが入っていた剣には荷が重い動作だった。
(刃が入らないからギコギコもできないな……)
とりあえず、ムカデの背後に周った。すると視界は元通りになり、周囲の物体はいつも通りの速さで動き始めた。信号も切り替わるのにそう時間はかからなかった。
そして、当時その場で気づいたこと。それはヴァリァスがさっきよりも広くなっていることだった。
侵食というだけあって範囲が拡大するのは何もおかしいことじゃないよな。
ムカデは消えた俺を探し始め、くるっとこちらを向いた。
「気づくのが遅いんじゃないか?」
再びムカデが動いたと思えば、俺ではなく俺の後ろにあった信号を破壊した。
(信号……なんでだ?)
幽〇紋にありがちな「動くもの」を優先的に攻撃するのだろうか。それならさっき男より動いていた俺を攻撃しなかったのは不自然だ。今もそう、信号機を破壊して即座に俺を襲わなかった。
(なんだ……?アイツが俺を攻撃したキッカケは何だ……?)
剣を構えると、こちらに猛スピードで突撃してきた。再び視界が遅くなる。何故か俺の体はいつも通りに動けた。さっき剣を構えた時に少しだけ目に陽光が反射したせいで反応が僅かに遅れてしまった。
(さっき剣を渡そうとした時……信号の光……)
「なるほど。読めたぞ、お前の習性」
おそらくアイツは光に反応して攻撃する習性がある。さっき剣を渡そうとした時に剣を斜めにしていたから陽光がアイツの目に入った。信号も同様だ。今、剣を構えた時も。
それが分かれば打開策はある。
攻撃を躱して再び背後に周った。問題は攻撃をどこに当てるか……それがわからないと決定打には欠ける……気がする。確認のため剣で光を反射させた。案の定ムカデは突撃した。だが視界は遅くならず、あり得ない速度で自分の体が動いた。
後ろにあった電柱を破壊したことで電線が千切れた。その電線が剣に巻き付き、俺は剣を握ったまま宙に留まった。剣を振るが、絡まるように巻きついているため思うように解けなかった。電線に触れるわけにもいかない。
だが、俺はさっき男が言っていたことを思い出した。これは電気を流すことで初めて高い威力を誇る剣なのだと。それが事実なら、この電線が剣に電気を流しているはずだ。
剣を手前に引くと電線はブチッという音を立てて剣から離れた。ムカデがこちらに向かってサソリの尾で刺そうとしてくる。
目の前に命の危機が迫っていても関係ない。死んでもいいという覚悟が俺を精神面で支えてくれていたのだ。
「遅い!」
渾身の力で頭に突き刺す。すると、ムカデの体が砂のように崩れた。
残ったのは黒い砂と割れた剣だった。それを拾い上げ、悦に入った。
まさか学校の帰り道で化け物と戦闘になるとは思っていなかったが、これで万事解決だ。いや、まだ残ってた。
再化結晶__。
ヴァリァスの化け物を倒した際に出てくる暗黒の果実で、勿論食べることはできない。
ドント、イートだ。
俺は折れた剣を握りしめ、結晶に近づき剣で一突きした。
壊した途端、地面が抉られ、尻もちをついてしまった。しかも吐いていた靴までボロボロになってしまっていた。靴底無いし。
見てみると、侵食されていたところの地面だけが綺麗に無くなっていた。そういえば、ヴァリァスに侵食された部分は果実を破壊した時に共に消滅するんだった。
不思議なことに自分の足は正常だった。おそるおそる足を触ってみたが、感覚もあって傷もなかった。
戦闘が終わり、一息ついているとジープみたいな車が止まった。降りてきたのはヴァリァス特殊部隊の人間でさっきの男の方にも何人か向かっていった。
「お怪我はありませんか?」
「あ、はい。特に目立ったものは……」
その人たちは俺の靴底が無いのに気づいて足を確認し始めた。そして、何も無いことがわかると誰かに連絡し始めた。適性がどうちゃらこうちゃら……わけわからん。
その場で待機を言われて待っていると、一人の男が俺のとこに来た。
「君が今回の立役者だな?」
「まあ……?」
「君にはヴァリァスに極めて高い適性があることが判明した。詳細は追って説明するが、とりあえずありがとう。私の部下を救ってくれて」
「は、はい……」
男は戻っていった。わざわざそれだけを言うために俺の元に出向いたのか……暇人だな。
その後、ヴァリァス特殊部隊養成高等学校の推薦をもらったことでランクを落とした都立高校の入学を蹴った。こうして今、この学校にいる。
前置きが長くなって申し訳なかった。
これには後日談があるのだが、それは次回で話そう。
ご愛読ありがとうございます!
この作品が気に入った方はブックマークや☆5をつけてくれると作者のモチベが上がります!
感想などもお気軽に書いていってください!
できる限り毎日投稿をするつもりなので、読んで下さるとありがたいです!