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アンリーシュ  作者: aqri
地下の戦い
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4

 今自分がいる場所がどこなのかはわからないが行き止まりなどないだろうし必ず上に通じる階段があるはずだ。そこに待ち伏せがいたとしても、おそらく大掛かりなトラップはないだろう。せいぜい物陰に隠れて武器で攻撃してくるくらいだ。殺し屋でもあるまいし、数人なら撒く自信はある。

 地下はとにかく広い。天井を支える太い支柱が数多く立っている他はほとんど何もなく、先ほどの建物を離れればその先に建物らしい建物はなかった。隠れるところもないのでどうやって撒こうかと考えていたがめんどうになったので支柱をぐるりと回りこみ、追ってきた二人が追い付いたところで支柱から飛び出してまず一人に殴り掛かる。


 人間など弱点の塊だ。多少殴る蹴るした程度では痛い、で終わってしまうが戦意喪失する場所を攻撃すると恐怖やパニックである程度動かなくなる。手っ取り早くパニックにさせるなら血を見させること、そして刃物なしで血が出るところといえば鼻しかない。

 拳で殴ると指の骨を痛めるので手のひらの手首の上あたりを使って掌打を放つ。これ自体は大したダメージではないがさすがに鼻に思い切りやれば鼻血くらいは出る。こちらの手のひらが痛みを感じるくらい思い切りかませば当たった相手は鼻をおさえてその場に屈みこんだ。その隙に頭に思い切り蹴りを入れる。


 床に倒れこんだ一人目は放っておいてその様子を驚いたように見ていた二人目には脛に渾身の力で蹴りを入れる。足は常に地面についているのだから狙いやすい。しかも脛は骨が一番外側に近い場所にあるため激痛だ。弁慶の泣き所、とはよくいった物だと思う。どれだけ屈強に鍛えようが打たれ強くなろうが、人体の構造上同じ人間であるなら弱点はそう変わらないものだ。

 脛を蹴られた男も激痛に耐え兼ね体勢が低くなったところで顔面に蹴りを入れた。鼻ではなく目を狙ったので激痛で目が開けられないはずだ。潰れてはいないだろうが視野は奪えた。


 頭を狙うのは穹が良く使う手段だ。えげつないとは思うがどうやっても小柄な穹の方が不利なので隙を突くしかない。そういう意味でも穹はいつも安全靴を履いているし隠しナイフも持っている。ナイフで攻撃も考えたが、こうしてやりあってみて相手が素人だとわかったのでやめた。これが例えばジンのような格上だったら迷わず武器を使っていたが。

 喧嘩や物騒な場に慣れていない、人数が多ければ自分たちが有利だと勘違いいてしまう人間には目、鼻、口の中の攻撃がかなり効く。ダメージよりも精神的ショックが大きいからだ。親にさえ頭を引っ叩かれないような時代だ、今の人間は暴力に対してメンタルが非常に弱い。歯が折れただけでパニックになり泣き叫んで何もできなくなる奴もいる。荒事に連れてきたのだから多少はそういう場に慣れた人間かと思ったが、戦闘訓練も受けていない、ただ連れてきた人員のようだ。

 二人がもがいているうちに走り出した。さすがに穹は人を殺したことがないし殺そうとは思わない。追ってこれないようもっと痛めつけてもいいが、痛めつける側も結構な体力を消耗する。暴力に快楽を感じる性癖でもない限りやりたいとは思わなかった。


 まっすぐ進んでも逃げられないので右に曲がって進めば何やらごちゃごちゃしたゴミ山のようなものが見えてきた。いらない物を無造作に積み上げたという感じだ。まさにゴミ山、工事で使ったのであろう砂利や警告掲示板、本当に様々な物がある。

 一つの大きな山と5メートルほどの山が2個。薄暗いので隠れられそうだ。目を凝らせばその先に違う道路が見えるので追いつかれたらそこに行こうと目星をつけてひとまずその山の一つ、大型のファンが投げ捨てられているのでその影に身を隠した。


 耳を澄ましていたが、悪態をつきながら穹を探す二人の声が聞こえてくる。走り回っているようでだんだん疲れてきたのか足音も走る音から歩き回る音となり、ゴミ山を見つけたようだが探すか、冗談だろ、という会話をして離れていった。どうやら穹の重要性をそこまで理解していないらしい。いや、ジンたちの話を信じるならおそらく穹をユニゾンだとは説明してないのだろう。そんなことを言ってしまったら五十貝派の連中は死ぬ気で穹を探し捕えようとする。穹を連中に渡すわけにはいかないと言っていたのでおそらく教えていない。彼がそうか、と男が言っていたので体質変異者くらいには伝えたのかもしれない。


 しばらくそこでやり過ごしていたが、人の気配もなくなり何かの機材の上に座って辺りを見回した。


―――知ってる、この場所―――


 幼い時、よくここに来ていた。そして形あるものをばらして遊んでいた。手が上手く動かないのでコンデンサに指を突っ込んで軽く感電した事もある。その時、傍に誰かいた。いつも一緒に誰かいて、分解する遊びを二人でやっていた。

 分解は壊す事ではない。複雑に組み合わさっている物をきれいに並べて、そこからまた違うものに組み替えることができるのだと教えてくれた。


「ソラ」


いつも一緒にいたのは。いや、正確には「居た」のではなく。映像として傍に寄り添っていたのは。


「そろそろ行きましょうか。望も淳も待っています」


ああ、そうか。

中古で買ったわけではなく、誰かから譲渡されたのではなく、最初からずっとそばにいたのか。


【穹】


また呼びに来てくれたのか、望たちが待っていると。

いいや、違う。これは今だ。今……過去ではなくてリアルタイムの現在。


【穹、大丈夫ですか】


 目の前に現れたのは鳥のような虫のような丸いフォルムの物体だ。トンボのような羽にコンセント型の尻尾、目は設定された感情によって色が変わるようになっている。

 サブボディに移り変わったシーナが、ふわふわと緩やかに飛んで近づいてくる。それを両手を広げて迎え入れれば抱き着く形で穹の腕の中に納まった。


「早かったな」

【モーター性能が以前の8倍ですから】


 結局サブボディは前と同じ見た目の物にした。同じものがないか探してみたがまったくヒットせず、どうやら誰かの手作りらしいと確信したので一からすべて作り起こした。補助機能icチップや運動性機能など変えられるものはなるべく最新型にしたが変えなかったのは心臓部でもあるメインチップだ。一般的な意味の方のモジュレートが起きないよう役割をパーツごとに分けた。

この形でなければだめだった。


【何があったのか聞きたいところですが脱出が最優先でよろしいですか】

「いや、宝探しだな」

【何かあるのですか】

「正確にはタイムカプセルか」


 そう言うと座っていた場所に手を触れる。そこには文様が描かれていた。VRではない、何か尖ったもので削ってつけた傷だ。昔、穹がつけた。霞紋を忘れないように。

 シーナの尻尾を使って座っていた大型ハードディスクにわずかに電力を供給するとハッキングした。ほんの少し動かせるだけでいい、必要なものは大した量はないはずだ。

 ハッキングすると入っていたのは一つの情報のみだった。何かの数値の羅列で12桁が1400個近く入っている。


【何かの関連性などは見つけられませんでした。これだけ見るなら本当にただの数値の羅列です。これは?】

「たぶん切り札だ、俺たちの。この情報をお前の最重要セキュリティ内に入れておく。いつも通り服の下な」


 シーナのオンライン上の姿では服の形に見せた情報体の下に本当に隠しておきたい物を重ねておくことで一見ばれないよう細工している。紋様が数字の集合体なのと同じ理屈だ。ひも解かないと分からない。


「なんとなくわかってきた。昔ここに俺や香月のおっさんと望、たぶん他にも何人か体質変異者とかいたんだろう。鈴城だっけ、アイツが言ってたそういう体質者を隠す場所って言ってた。ジンさんたちはジンさんたちで軟禁か監視付きで育ったようだし、それぞれの思惑が20年前からあったんだ。宗方派に連れてこられたのが俺、五十貝派に連れていかれたのがジンさんたちか」

【穹はリハビリ施設にいたのではないのですね】

「いやあ、いたはいたんだろう。ここにいた後の話だ。そっちは記録調べればわかる。物心ついた時いたっていうのは俺の勘違いだ、まあガキの頃の記憶なんてそんなもんだな。となると俺の両親に関することも半分以上は改ざんされてるな。たぶん俺は捨てられたんじゃなく治療を名目でここに連れてこられて戸籍は消された可能性が高い。たぶん死んだことになってるかもな」


 このあたりは想像になるので真実はわからない。しかし「穹」という人間は確かに存在しているので後から与えられた戸籍だ。このあたりは香月が手を回したのかもしれない。調べれば両親もわかるのかもしれないが、正直なところ今更興味はなかった。例え相手が会いたがったとしても会いたいとは思わない。


「香月のおっさんは……たぶん宗方派、キャプチャーの一員だったんだ。そうなると親族である凜って女性がグロードに関わっていても辻褄が合う。無料サービスとか胎教にいいとか、適当に理由はつけられる。この凜って人も自身がその会社で働いてたのかもしれないしな。ただの労働者で末端の末端、会社が何をしているのかとかは知らなかったんだろうけど」

【穹が最初に推測した、グロード自体が巨大な実験だったというのもあながち間違っていなかったわけですね。何か一つの出来事があったわけではなく様々なものが複雑に絡んで起きた事象だった。多くの人が不幸になり、まだそれが続いていて。貴方はその渦中にいるわけですか】

「お前もな」

【私ですか?】

「お前も関わってる。まあ、夜からもらった情報を後で教える。今はここを出るか」


シーナをの尻尾をベルトに繋ごうとしたが、そういえば馬力が上がったのだったと思い出しやめた。


「お前時速何キロ出るようになったんだ?」

【理論値ですけど時速23キロです】

「え、もう一回」

【時速23キロです】


 時速23キロで移動するパートナー、自転車よりも速い。これで体重があったら大した攻撃力だと思う。シーナは羽で飛んでいるのではなく、内蔵されているファンによって飛んでいる。羽は飾りのようなものだ。今回モーターからファンまで駆動系を一新したのでスピードは出るだろうと思っていたがまさかそこまで高性能になるとは。風の抵抗をもろに受けそうな形をしているのでたいして変わらないだろうと思っていた。


「時速20キロ以上って法律に引っかかんなかったか」

【常に20キロ以上出るわけではありません、無風で障害物がないなどの条件下、あくまで理論値です。通常の移動が15キロ以内であれば問題ありません】

「……そうか」

【却下です】


相槌をうっただけだというのにシーナが1秒とあけずに突っ込みをしてくる。内心ぎくりとしながらシーナを見た。


「まだ何も言ってないだろが」

【私もいい加減学んでいますのでこの後の展開が読めました。体重を重くすればスピードの法律に引っかからないなら装備を増やそうと考えましたね? ロケット花火もスタンガンもナイフや小型暗器も全部却下です。フラッシュライトなら百歩譲って良しとしましょう、普通にライトとして使えますし】

「やべえ、100%読まれた」

【当然ですと言いたいところですが実際今こうして誘拐のようなことが起きていますし、装備を追加するのはいいかもしれません。法に触れない程度でお願いします】

「わかった。人工知能の判断に困るグレーゾーンの物にしておく」

【またそういうことを……わかりました。好きにしてください。穹、私がここまで来たルートがあるのでひとまずそこから行きましょう】

「そういやお前どうやってきたんだ」


 シーナの機動が上がっても基本的にドアを開けたりはできないはずだ。扉や障害物がなく素通りできる場所があるのだろうか。そもそも、穹の自宅がある場所から来たにしてはやけに早い。


【データを移して起動したところ暁が来ていました。暁に地下に繋がる別ルート地図をもらいましたのでそれを参考にここまで。家からすぐのところにも地下に行ける場所があったのでほぼ障害物のない直線の道をフルパワーで来たので間に合いました】


 穹とはリンクが繋がっているのでシーナのボディが壊されたことは知っていたのだろう。夜が穹に情報を渡したところも立ち会っているのでシーナを穹に会わせることが最善策と判断したようだ。

 パートナーボディを持つ暁は神出鬼没なところがあったが、障害物の多い地上ではなく何もない地下を使っていたのなら納得できる。


【では、地上に戻りますか】

「シーナ、ここから俺が行ってた地下街に行くルートは持ってるか」

【少し遠いですが可能です。何故行くのですか】

「もう何も残ってないかもしれないけど、一応店に行く。あの人はもともとこの地下施設にいて、あれから15年経ってもまだ地下にいた。まだ何か残したものがあるはずだ」


 単に上で平穏に暮らすことができなかっただけな気もするが、気がかりなことを残したままにはしておきたくない。地下には完全に日の光が届かない。しかし店主はあの店でずっと暮らしていたようだ。

 日の光を浴びないと人間は様々な不調を起こす。まさか本当に一歩も地上に出なかったわけではないだろうが、そうまでして地下に居続けたのには何か理由があると思った。そして、その理由として思いつくのはやはり地下施設との関わりだ。地下は電波状態が非常に悪かったのだが、今思えばこれは意図的に遮断する構造になっていたのだろう。 クォーツが根城にしていたあのビルの一室のように、地下全体が外からハッキングされにくい造りなのだ。国が関わった地下都市開発では辻褄が合わない。

 地下は最初から人工知能関連の研究のために作られたと考えるべきだ。それをごまかすために地下開発として工事を進め、適当なところで予算がないと工事を中断して本来の目的である研究などに使われていたのだとしたら。それはとてつもなくスケールの大きい話だ。

 穹は慎重にゴミ山から下りて周囲に人がいないか確認するとシーナにナビをしてもらいながら走り出した。


「地下は電波遮断構造になってた。そうなると地下を探るには地下からしかできないはずだ」

【香月さんは地下で施設の事を探っていたということでしょうか】

「たぶんな。施設がほぼストップ状態だったとしても一人の人間が少し高性能なパソコン使ったところで施設にハッキングをするには無理がある。もし本当にあの人が何か調べてたなら、もっと違う機材があったはずだ」


―――それとも宵が協力していたとか? いや、宵がそこまで何かしたらリッヒテンに嗅ぎつかれる。やっぱり機材があったと考えるべきか―――


 宵は香月の事を教えてくれたが香月と連絡を取り合っていたとは限らない。采に捕まったままだとは言っていたがリッヒテンや探査には警戒していたところを考えると完全に采の一部になったわけではない。しかしぎりぎりの綱渡り状態ではあるとしたら、そこまであれこれ自由に動き回れるとは思えない。


【そういえば香月さんはいつもパソコンを使っていましたね】

「あれは中身すっからかんになったけど、別の何かに繋がってたってことはあるかもな。それに机の下にあった霞紋、あれどうやってつけたんだって話だろ」


あれは明らかにVRだった。特殊体質者にしか見えないとしたらどうやってそこにVRを残したのか。


「いびつな蝶は初期型人工知能が作り出す特権、たぶん高度な情報集合体だ。それを体質変異者だけが見えちまうのは、アンリーシュの光や音楽効果には一定の法則性のある刺激があるとして、それと同じパターンを体内チップやヘッドセットで感知してるんだ。俺が一時期光をやけに眩しいって言ってただろ、あれが特定のパターンだった。それと同じ刺激を作り出すことで蝶の映像にさしかわるようにしてたとしたら、理屈から言えば特殊体質者は特定の刺激に対して同じものが見聞きできることになる」

【だから人工知能である私には見えなかったのですね。つまり、あの時霞紋が見えていたのも何かの情報集合体ということですか】

「あの時俺はただの体質変異者として普通は見えないものが見えただけで終わったけど、たぶん情報はそれだけじゃなかったはずだ」


ユニゾンとしての能力を取り戻しつつある今見れば何か他の情報があればわかるとは思う。しかし、問題はある。


【まだあの店手付かずで残っているでしょうか】

「そこなんだよな。地下って家主がいなくなったら勝手に潰すわ改造して住み着くわで原形とどめなくなるのが頭の痛いところなんだよ」


 工事業者が来るわけでもないのできれいさっぱりなくなっていることはないだろうが、中にあった物はすべて転売されている。本当に根こそぎすべて持っていくような輩がいるとすれば作業台から棚まで置いてある物すべて売っているだろう。あの霞紋があった机とて例外ではない。

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