↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンリーシュ  作者: aqri
地下の戦い
PR
67/105

3

「なかなかやるね、ジンの初手を潰すなんて」

「そりゃ荒事対応する場所で働いてるからな、こいつも」

「じゃあやっかいだから眠らせといて。スタン持ってるだろ」

「あー、アレな」


 ジンはポケットをあさると何か小さなキーホルダーのようなものを取り出した。スタンということはスタンガンのようなものだろう。こういう仕事をしているのなら安全装置を外して違法改造している可能性も高い。ここでまた気絶するわけにはいかないが、今の穹にはどうしようもない。


「んじゃおやすみ」


そう言うと穹にスタンを押し付ける。穹はそのまま動かなくなりジンは穹の上からどいた。常磐は床に落ちているシーナの残骸に気づく。


「これ、この子が持ってたパートナーじゃなかったっけ」

「ああ、いっつも連れてたな。何、アンタぶっ壊したの? 今時ガキでもやらねえぞ、ヒステリーでも持ってんのか」

「黙れ」


 穹とまったく同じことを言われ気分を害した。もともとジンの事は気に入らないのですべてが気に障る。年上に対しても同年代のように接する言葉遣いや態度、男が最も嫌いなタイプなのだ。もともと男が連絡を取り合っているのは常磐でありジンは部外者といっていい。


「いい加減その男を連れてくるのをやめろ。不愉快だ」

「ジンが一番強いので」


にっこり笑って言われると何も言い返せない。もともと使える者が少なく常磐の関係者に頼っている以上人選に注文はあまりつけられない。それももう少しの辛抱だが。


「連絡した通りだ。ひとまずユニゾンは確保した、他の人工知能もこれがいればなんとかなるだろう。私がいなければプロトコルの抽出もできないからな。土産があれば連中は要求をのむはずだ」

「そうですね。止まっていた研究が再開されれば中途半端になっている人工知能たちへの対応と采の調整ができます。一報は入れておきましたので、もうすぐここに迎えが来るでしょう」


 常磐の言葉に男は満足そうにうなずいた。方針の違いから研究を追い出され、会社からも突き放されて15年。地下に潜りながら活動を続けてきたがようやくこれで戻ることができる。

 当時の研究者など分業していたせいで全体像をつかんでいる者は少ない。何がどうなっているのか、今何をするべきなのか把握しているのは自分だけだというのに取り合おうとしなかった。それがどれだけ愚かな事かを認めようとしないのなら、それを納得させるだけの材料があればいいだけだ。

 人工知能を一つ逃がしてしまったのは痛手だがユニゾンは餌として十分使えるはずだ、肉体が欲しいのなら体質変異を待つよりすぐ使えるユニゾンの方が手間がなくていいのだから。


「長年お疲れ様でした。ここは僕が見ていますから、休んでいてください」

「くれぐれも逃がすなよ」


それだけ言うと男は部屋を出た。電力は落ちたままなので別の場所に行ったのだろう。足音が遠のいて完全に聞こえなくなったのを確認してから、常磐が穹に向かって声をかける。


「いいよ、起きて」


 その言葉に穹は目を開きゆっくりと起き上がった。ジンが手を貸してくれたので立ち上がり診察台に腰かける。先ほどジンが押し付けた物から相手を気絶させるような刺激などは一切なかった。穹を抑えこんだのは先ほどの男にそう見せたかっただけだったのだ。

 何も起こらなかったので一瞬驚いたが、二人の意図を察して穹は気絶したふりをしていた。


「えーっと……どういう状況?」


最もな疑問を言えばジンと常磐がお互いに目を見合わせる。


「それ、僕も知りたいんだよね。君がどういう立場なのかはさっきの奴とのやり取り全部聞いてたからわかったけど、ジンと君はどういう知り合い?」


 先ほどの一連の流れをひそかに聞いていたとなるとおそらく盗聴だろう。研究施設は廊下などに打ち合わせ内容が漏れないように防音設備になっていると聞いたことがある。ドアに張り付いて中の会話が聞こえるとは思えない。常磐が視線で説明しろとジンに促した。


「俺と常磐はアンリーシュを運営しているレーベリックレコードの一員。穹は俺がバイトしてるゲームセンターのバイト仲間」

「アンリーシュ運営してるのってレーベリックレコードっていうのか。いっつもアンリーシュ運営って肩書しか載ってないからアンリーシュって名前の会社なのかと思ってた。親会社も違う名前だし」


率直な感想を言えば常磐は小さくうなずいた。


「それが狙いだよ。運営側をはっきり世間に認識させにくくしているんだ。20年前も使った手らしいけど」

「んで? あのおっさんがレーベリックレコードの元社員で、復帰したくて俺を使いたい。その会社の一員であるアンタらは何で俺を会社に引き渡す前にこういう場を設けるんだ」


ジンとは知り合いであっても一応警戒はする。いわば敵なのだ、彼も。しかしジンはもちろん謎の雰囲気だった常磐さえも今は至って普通の空気で、ユニゾンを捕らえたという喜びや緊張感はない。


「いろいろ理由はあるが、一言で言っちまえばお前をアンリーシュに捧げても良い事がないってとこだな」

「僕が君にした自己紹介あっただろう。あれは本当だよ、僕の家族はグロードで死んだ。それはジンも一緒だ」


その言葉にちらりとジンを見ると、ジンはあまり気にした様子なく「ガキの頃の話であんま覚えてねえけどな」と言った。復讐したいとか、真実を暴きたいとまでは思っていないようだ。


「ついでに言えば、当時幼かった僕もジンもグロードには参加していた。その時の影響で僕らは体質変異を起こしやすい体なんだ。そういう人をまとめて保護(笑)したのがレーベリック」

「保護の後に何か含みがあった気がしたんですけど?」

「気のせいじゃないかな」


絶対素直な気持ちで言ったんじゃないな、と思ったがこれ以上突っ込むのも野暮なのでやめた。


「レーベリックも一枚岩じゃない。逃げた人工知能と制御不能一歩手前の次世代型人工知能をどうするかで意見はわれた。逃げた者を取り戻して次世代型を制御しようという宗方派、人に危害を加える危険な人工知能などすべて削除するべきだっていう五十貝派。さっきの男は鈴城と言って典型的な前者だ」


穹がキャプチャーと名付けた方が宗方派、フィッシャーが五十貝派ということになる。やはり概ねあっていた。


「お宅ら二人は?」


 核心の質問を投げかける。ここでなんて答えるかによってこの後の行動が決まる。二人相手に立ち回れるかどうかはわからないが、腹の探り合いをするだけ無駄な気がした。ジンは穹よりそういうのが上手いだろうし、なんとなく常磐の方がさらに上手(うわて)だろうと思ったのだ。


「僕らに限らず被害者遺族が考えることはそんなシステム根本から消してほしい、これに限る。じゃあ五十貝派かと聞かれるとそれも違う」

「何で?」


穹の疑問に今度はジンが答える。


「そもそもそいつらのせいであんな事になったのにその派閥に着くわけないだろう」

「ああ、なるほどごもっとも」

「あとはそんなシステムをなくしたい、に至るまでの理由が全く違うからだ。俺らはそうしないと気が済まないっていうのと、二度と同じ事を繰り返してほしくないから。まあ当然と言えば当然なそのままの理由だ。でも五十貝派は違う。そんなポンコツはとっととなかったことにして、もっとすごい物を作りたいからってだけだ」

「要するに、20年前に事件もみ消したのは五十貝派ってことか」

「証拠はないがたぶんな。違う人工知能を作るにしても、中途半端な次世代型の存在は邪魔だ。何せ学習機能だけはいっちょ前だから何か作れば全部その技術を盗みに来る。今世界でトップクラスのハッカーを名前上げろって言ったらコイツがトップに来る。もうそういう段階まで育ってきてる」


20年も経っていればそうなる。五十貝派の行動が派手になってきているのもそれが理由だろう。時間をかけられないのだ、これ以上。


「さて、ここまで重要な話をしたからには見返りを求めてるってことは察してくれたかな?」


常磐が真っすぐ穹を見た。その目は真剣だ。ちらりとジンを見ればジンも普段の雰囲気とは違う、常磐と同じような雰囲気を醸し出している。


「僕からしたら次世代型をどうにかすること、レーベリックをどうにかすることが到達点だ。レーベリックのほうはいくらでも手はあるけど次世代型人工知能は本当に一手間違えるとどうなるかわからない以上、下手に動けない。手段の一つとして人工知能、ユニゾンをこれ以上アレに捧げない事くらいだから君を今拘束せずにはいる。でもこのままいけば確実に劣勢だ、一か月後のアンリーシュ公式大会は知ってるだろう。あれが最後の号砲と思っていい。どんな強引な手を使うのか知らないけど、もうこれ以上鬼ごっこを長引かせるつもりはないんだよ五十貝派は」

「要するにユニゾンである俺には人工知能たちや次世代型に対して決定打があるかどうかって事?」

「そういうこと。もしなかったとしてもレーベリックに差し出すつもりはないけど味方になるつもりもない。もし何かあるなら最大限できる限りバックアップはする」


 今ここで彼らを信じる、あるいは利用するかどうか瀬戸際だ。背景を知れば同情すべき人生だったのかもしれないが、彼らの為に何かしようとは正直穹は思わない。自分の身が危ういのにそこまでするつもりはなかった。しかし味方が誰もいない今の穹の立場からすればかなり好条件と言える。


「一応あるけど、成功するかどうかはこれからの状況次第だから分が悪いとだけ言っとく」


一応、今言えることだけを素直にそう言うと再びジンと常磐はお互いをちらりと見る。アイコンタクトをするだけでだいたい相手の考えがわかるのだろう。20年の付き合いだ、幼馴染というよりも相棒と言える関係なのだろう。常磐が肩の力を抜いた。


「またなんとも判断に困る返事だけど、いいよ。君には監視と護衛の役割でジンをつける。やりたいこと、それがさっき言った目的を達成させるための事なら協力するよ」


 初対面では随分腹黒そうだったのにやけに素直だな、と思った。おそらく穹は扱いにくい部類なのだ。自分で考えて自分で答えが出せる人間はのせづらい。まして穹は金や恐怖でどうにかできる奴でもない。確かに一人暮らしで金がないので報酬があれば金で動くのだが、その金額と自分の命を秤にかけられる。それができない奴には金ちらつかせられるが、リスク分析ができてやめようと即決できる奴は金では動かないのと一緒だ。

 おそらく常磐はレーベリックの仕事でこういった子飼いの駒を見つけて利用する役割を担っているのだろう。だから人を観察する能力が高いし人心掌握に長けている。長けているからこそ、穹がどういう人間性の持ち主なのかを見抜いたようだ。


「さあて、迎えが来る前に行くか」


ジンはそういうと穹の前にしゃがんで背中を向ける。


「はい?」

「おんぶだよ」

「はい?」

「お前気絶してる最中だろうが」

「……ああ」


そういえばそうだった、見られたら困る。困るが、なんとなくプライドが傷つきそうだった。何故ならこの後言われるセリフの予想がつくからだ。


「じゃあシツレイシマース」


一応声をかけてからジンの背中にかぶさると穹をおぶってジンは立ち上がった。


「軽ッ」

「重いよりはいいでしょうが」

「まあな、軽くてありがとう」

「漫才してないでさっさと行けって」


 先に扉に向かった常磐に突っ込まれながら廊下に出た。一応穹は気絶しているふりをするため力を抜いて目を閉じる。一歩廊下に出て、二人はすぐに立ち止まった。ピリピリとした空気になりアクシデントがあったのだなと察する。


「おや、お早いお着きで」


常磐がまた他人仕様モードの雰囲気となった。知り合いに対してかけた声だとするとレーベリックレコードの人間だ。


「ずいぶんとちんたらしているようだったから早めに来たんだよ。悪だくみは終わったか?」


きいたことのある声だ。確か店でイベントをやったときにやれ、と指示をして穹にヘッドセットをつけさせた男。


「なんだ、ばれてたんですね」


焦った様子も悪びれた様子もなく常磐はあっさりと返事をした。状況からすると二人は一応五十貝派側で動いていたが、形だけだったという事がばれていたようだ。


「お前たちが宗方一派の連中と連絡を取り合っているのは知っている。泳がせてみたが、まさかこんなドブネズミを使おうとしていたとは」

「おい、どういう意味だ!」


ネズミ呼ばわりされた鈴城は怒鳴りくってかかるが、どうやら誰からも無視されたようで後ろでまだ喚いている。しかし途中で離せと言う単語が聞こえたのでどうやら取り押さえられたらしい。


「目くらましくらいには使えるかと思ったんですけど」

「これが? 気は確かか」

「この話にノリノリで食いついたの柏崎ですよ。気が確かじゃない部下持ってる人に言われたくないんですけどね?」


あはは、と嗤うとしーんと静まり返る。今常磐がどういう顔をしているのかだいたい想像がつくが、相手の男がどんな顔をしているのか想像がつかない。いや、逆につきやすいのだろうか。間違いなく常磐と同じように笑っているということはないはずだ。


「まあいいです。俺たち二人退職届は昨日送りましたので、今はもうあなたの部下じゃないですから」

「そうか。では覚悟はできていると取っていいな」


男の声がワントーン下がった。脅しではないという凄みがある。しかし、それに対する常磐は。


「覚悟? なんの覚悟? 死ぬ覚悟? たかがそんなことに覚悟が必要ですか?」


 なんてことはない軽い口調だが、穹は冷や汗が出る思いだった。今この場で誰が一番恐ろしいかと言えば間違いなく常磐だ。男は常磐の地雷を踏んだらしい。ドラマや漫画の世界にしかないと思っていたが今はっきり体感している。

殺気というものを。


「状況変わったけどどうしようか」

「まあ、もうそろそろだから」


常磐とジンが何か策があるような会話をするとざわざわと周囲がざわつく。穹にもはっきりとその理由がわかった。焦げ臭いのだ、あたり一面。これは間違いなく。


「あれ? どこか火事かな?」

「あ、それ俺」


何でもないことのようにジンがあっさりと言うと鈴城の悲鳴のような怒号が響いた。


「施設が燃えてる! おい、早く消せ! あそこには資料がまだ残っているんだ!」


その言葉にざわめきが多くなった。どうやら鈴城には用はないが資料にはまだ用があるらしい。


「らしいぜ、おっさん。地下は換気だけは気合入れて設計してあるから自然鎮火はまずねえな。排気先は海だったか? 誰も気づかねえよ。換気はしてるくせに消火システムはないから消火器で頑張れよ。じゃあな」


 そう言うとジンは穹を下ろす。穹もようやく寝たふりをやめて自分で立つと、何も合図をしていないというのに3人同時にバラバラの方向に走り出した。その様子に一瞬唖然としていたレーベリックの者たちはすぐに我に返り行動を始める。

 穹は初めて相手を見たが人数は多くない、せいぜい5人だった。まだ隠れている可能性もあるがリーダーのような男がどこかに連絡をする様子もないので待ち伏せがいたとしても1~2か所、3人がいいところだろう。消火もしなければならないのでどこに人数をわるか迷ったようだが当然穹に追手が二人きた。男に穹の顔は見られていないようだったのでゲームセンターにいた従業員だとは気づいていないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。