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アンリーシュ  作者: aqri
地下の戦い
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69/105

5

【しかし何故香月さんはその情報集合体を自ら作ることができたのでしょうか。人工知能にしか無理なのでは?】

「それはさすがに俺にもわからん。もしかしたらあの人も重度の体質変異者だったのかもしれないけど、そうなると一人で体質変異者しか見えない特定の信号を解析したってことになるよな。できるか? そんなこと」

【たぶん違うよ】


声がすると同時に走っていた穹の背中にドンと衝撃が走った。感覚からすると何かにしがみつかれている、というか暁にしがみつかれているのだが。


「どっからわいた」

【人を水か虫みたいに。地下への出入り口は多いってその子から聞いてるでしょうが。それより一応、さっき君の頼み事聞いてあげたんだから今度は僕の頼み聞いてよね。このまま店までレッツゴー】


 器用に穹の背中に張り付きながらシーナに代わって次はどこに行くかをナビし始めた。進む先には分岐が多くかなりあちこち曲がったが、地下と地上の中間のような場所に出て細い通路を小走りで通っていく。暁は相当地下を使いこなしていたようでナビも正確だ。


「お前はあの店の店主と知り合いだったのか」

【全然、会ったこともない。あと、たぶんだけどそこに何かあるとしたらその人が残したものじゃなくて昔の君が残したものじゃないかなって思うんだけど】

「俺?」

【作戦会議はその場所についたらね。パートナーにも夜の情報教えるんでしょ。僕の立場としてはまあ微妙な所だけど、敵になるつもりはない。仲間とは思わなくていいからお互い利用しあえるモノってことで】

【暁、一つ聞いてもいいですか】


穹達の会話に静かに聞いていたシーナが問いかけてきた。


【何?】

【何故ユニゾンは協力しあわないのですか。目的は同じなのでしょう? 采に人工知能や自分たちを渡さない為だと。それならお互いを補った方が効率は上がるのでは。何故それぞれが違う方法にこだわって物事を進めようとするのですか】


 確かにシーナの言うとおり、穹と暁の間には特に結託しないための不利な設定はないはずだ。しかし不思議と、いや自然に穹も暁を使えるところは使ってそれ以外は協力しようという考えは思い浮かばなかった。


【穹にはさっき説明したけどユニゾンは一人絶対協力関係を結べない相手がいる。それ以外にも一応一人ひとりに特性が決められてるんだ。ユニゾンであっても穹と僕は人としての成長が、夜と宵は人工知能としての成長がしやすいよう設計されてる。同じ特性同士で手を組むことはためらうんだ。長所が二倍になることより弱点やリスクが二倍になる方がダメだって判断になっちゃうんだよね、これはユニゾン全員に共通して言える考え方だよ。そういう設定なのかも】

【つまりユニゾンはどうあっても協力関係になれないのですね】

「なんか妙な話だな」


暁とシーナの話を聞いていた穹がぽつりと漏らす。その言葉にシーナも暁も次の穹の言葉を待っているようだった。


「何でそこまでユニゾン同士で手を組まないように設定されてるんだ」

【それは開発者にきいてほしいな。人間部分があるから、人工知能と違って手を組もうって発想になりやすいからじゃないかな、っていうのが昔の君の意見だけど?】

「手組んだって人工知能より劣る存在だぞ、どんな結託したら脅威になるってんだ。人工知能たちみたいにシステムに逆らったところで何も困らねえだろ。それとも自分の役目忘れて遊び惚けるってか? 遊び惚けたところで何か脅威か。おかしいだろ、ユニゾンの結託はそこまで警戒する事じゃない。問いかけに対して式を作っただけで答えまでいってない。テストだったら0点だぞこれ、アホか昔の俺は」

【自分をディスられても。えーっと、つまり?】

「無理やりにでも全員を孤立させることでシステムを維持してたって事だろ。モジュレートさせないためか? もしそうなら俺のモジュレートでユニゾンを自動調整されると困ることがあるのか。誰が困るんだ」


何気ない疑問を口にして他の意見がききたいのでシーナと暁を見た。シーナも暁も少し思考したがすぐに答えを出す。


【設計した人間かな?】

【誰でしょうか。やはり暁の言うように設計者だとは思います。ユニゾンを作ったのは設計者ですし。どう困るのか、何故困るような設計にしたんだと聞かれても今は答えを導き出せません】

「だよな……」


 香月からヘッドセットを買った時にきいたモジュレートの特徴は、すべて同じ場所にパーツを集めてしまうと勝手に自動調整をしてしまうという内容だった。例えば穹、夜、宵、暁がそれぞれ違う特性をもっていたとしてもモジュレートをしてしまうとどうなるか。


「そもそもユニゾンは人間の思考を入れることで完全な人工知能とするのを防いだ。それは人工知能だけで人工知能を管理すると手がつけられなくなるからだ。人工知能は例え人間が作ったものだとしてもその思考や成長を完全に管理することはできない。暁、俺たちの役割は采を管理してた7つのプロトコルのサポートでいいんだよな?」

【正確にはプロトコルの補助をしてた初期型達のサポートだったけど、プロトコルのサポートもやってたからそういうことになるね】

「采の管理を人間と人工知能で役割をわけていたのなら、俺たちはプロトコルたちや文様を持った人工知能のサポートだけじゃなかったはずだ。ユニゾンにしかできない絶対的な役割があったと考えていい。そういうのはあったのか」

【いや、特にプログラムはされてなかったね。昔やってた事って今穹が言ったようにみんなのサポートだ】

「本当に何もない、とは考えにくいな。だったらわざわざユニゾンなんて面倒なモノ作らないはずだ。たぶんその役割は設計者たちしか知らないんだろう。俺たちに知られたら他の人工知能たちとリンクしてる以上いつ知られるかわからない。そうなったら手が付けられなくなるからだ」


鈴城も言っていた。人工知能の謀反など予見できていたことだから対策をしていると。おそらく次世代型か初期型人工知能がおかしなことになったとき用の対処をユニゾンが担っているのだ。


「肉体を持っているのも、もしVR内で何か起きてもリアルに逃げられるようにって意味もあったのかもな。前の体はユニゾン用に設された製造品だ、設計図があればいくらでも作ることができる。予備があれば寿命を迎える前に交換できるし、機械のメンテより肉体のメンテなんていくらでも方法がある。普通の病院で診察すればいいんだから」

【体を取られること前提で設計したって事? そんなリスクを常に抱えながら管理しようとするかな】

「こういえば通じるか? ユニゾンは外付けハードディスクだ」

【ああ、なるほどね。確かにそういわれた方が分かりやすい】


 そのシステムに関わっていながら直接は影響がないという意味では本当に文字通りそうなのだろうと思う。肉体を持つことでシステムから切り離され、必要な時に一時的にかかわることができる。それでいておそらく重要な役割を与えらえているのだ。

 それはシステムから切り離されているからこそ与えられた役割と言える。ユニゾン一人ひとりに役割が分けて与えられているのも人工知能そのものではないから負荷を減らすために分けられているとは思うが、分けることで重要な役割を守っているのだとしたら。


【そういえば穹、シーナにあの情報は渡した?】

「いや、まだ。落ち着いた場所が欲しいから店のあった場所についてからにする」


 言いながらもどうしたものかなと思っていた。夜がよこした情報は重要だが、シーナにどこまで伝えるかが重要な鍵となるのは間違いない。シーナをどういうポジションにするか。今穹が考えていることをやろうとするならシーナには言わない方が後々都合が良いのだが、あの時の夜の言葉がよぎる。穹の考えていることを分かったうえでああいっているのだとしたら。


【穹、そろそろ店が見える場所に出ます。正面から行きますか】

「いや、念のため警戒しながらかな。何もないとは思うけど。それはいいとして、暁は何しに一緒に行くんだよ」


普通に会話していたが暁が一緒に来た理由がはっきりしていない。穹が残したかもしれない物を見に行くのだとしても暁は何がしたいのか。


【単純に君が何か残しているのなら何を残しているのか知りたいからかな。たぶん残した情報は君じゃないと見れないようになってると思うから僕が君の情報を見るのはたぶん無理だと思うんだ。あと、一応僕らも第二クラッシュがあったことは知ってるんだけど詳細はわからない。二回目のクラッシュに関わったのは穹だけなんだよ。その時に何があったのかわかるようなものがあればと思ったんだけど】

【暁も知らないのですか】

【あの時は人工知能たちは逃げるわ采は好き勝手するわ宵とは連絡つかなくていろんなことがこっちに来るわで大変だったんだよ。穹はいなくなるし、状況が状況だったから君も消えちゃったのかと思ったくらいだ。どれだけ君を探してもリンクがないはずだ、肉体を得ていたなら再設定しないと繋がらないから】


話しながらも進んでいくとだんだん生活感のある物が道に落ちているようになり人が生活しているという風景へと変わってきた。


【穹、そろそろ居住エリアに到達します。暁からもらった地図通りに行くなら道路を行くよりも建物の中を通った方が速いです】


 シーナのナビに従いながら建物や細い路地をすり抜けつつ先に進んでいくとようやく見覚えのある景色になってくる。しかし違和感はいくつかあった。まず人通りがまったくない。この辺り店は少ないが誰かしら歩いていたはずだが。そして妙なくらい静かだ、話し声が全くしない。数人が酒を飲みながら談笑している風景が当たり前にあったのに今はそんな人たちをみかけなくなった。


「随分と荒んだな、もともときれいでもなかったけど」

【そうですね、まるで勇者が来た後のようです】

【は? 勇者?】

「知らないのか、この世にゲームができたばっかりの頃は主人公が平気で人の家に不法侵入して勝手に家の物を壊して物盗んでたのがデフォルトなんだぞ。アーカイブ見てみろ、まんま強盗だから」

【いやそうだとしてもさ。パートナーに何教育してるんだ君は】


暁に表情などないが明らかに呆れているのはわかる。穹にしてみればパートナーは自分好みに育てるのだから何もおかしなことをしていないと思っている。


「何の役にも立たないって思ってたらこんなところで役に立った。それだけでも想定外だしプラスかマイナスかと言われたらプラスだ。雑学ってのは好き嫌いしない方が良いんだよ」

【わかりました、そうします】

「なんかすごく嫌な予感がするからお前はやめてくれ」


暁に軽口を叩いたつもりだったがシーナが食いついてきたので慌てて否定した。これ以上よくわからない情報を入れられてはたまらない。そんな様子を見ていた暁は少し黙っていたが震え始める。


「おいどうし……そういやそれ笑ってるんだった」

【だ……だって君たち面白すぎるから……】

【せめて笑うという行動を別の動作にできませんか。爆発でもするのかと思ってしまいます】

【何でパートナーボディに爆発物が仕込んであると思うのかなあ】

【文句は穹に言ってください。ロケット花火をつけることを割と本気で考えていたのですから】


 そんなくだらない会話も今この場所にはよく響く。人がいないわけではないのだろうが表に出てこないようだ。辺りを警戒しながら店に近づくと一応外観は以前のままだ。特に荒らされた様子も落書きもない。近づこうとしたが暁が穹の服の袖を引っ張った。


【中に誰かいるね、7分前に人が入ってる。見づらいけどそこに監視カメラがあって今ハッキングした】

「お前のボディそんな機能あるのか」

【一応いつ見つかるかわからなかったから防犯に関する機能は一通りね】


 それでコイツこんなに重いのか、と納得した。家庭用ではない割りに何やらいろいろな機能を積んでいそうな重さがあると思ったのだ。気になるので一回バラしてみようかとも思っていたがその必要はなさそうだ。


【今なんか不穏な事考えなかった? 分解的ワードが伝わって来たんだけど】

「別に。あ、そっかそういうことか。お前それ日常的に使ってただろ」

【うん】

「お前のハッキングをモジュレートしてたんだな」


 香月が暴行を受けていた時の映像が穹にも見えた時があったがあれは暁が監視カメラをハッキングしたときにモジュレートしてしまったのだろう。あの時はモジュレートのコントロールが出来ず不必要なものまでモジュレートしていた。暁があの映像を見たわけではなく、その機能だけをモジュレートして穹が映像をハッキングしたのだ。

 監視カメラは使われていないと思っていたが、あの施設が地下にあることを考えると実は使われていたのだ。あの施設はもう使い物にならないので確かめようもないが、やたらと機材がたくさんあったので地下の監視も兼ねていたのかもしれない。鈴城が使っていたわけではないだろうが。


 そうなるともう一つモジュレートが原因で見えた映像の心当たりがある。それは最初に見た人工知能が見つかったと焦っていたあの光景だ。あれもモジュレートして見た光景だったのだ。あの後の事を考えればモジュレートした相手は夜だったという事になる。

 それほどモジュレートはすさまじいという事だ。先ほど暁がどれだけ探しても穹を見つけられなかったと言っていた。それなのにモジュレートはこんなに簡単に起きてしまう。夜や暁が危惧するわけだ。今はまだユニゾンしか影響がないがこれが人工知能たちやリッヒテン、采に行ってしまったらと思うとぞっとする。


【で、どうするの。入らないの】

「入る。中にいる人って言うのも大体予想つくしな」


言いながら正面のシャッターから入った。すると中にいたのは予想通り。


「ここに来ると思ったよ」


常磐とジンがいた。ジンも穹の姿を確認すると軽く手を振る。


「よくここに来ましたね」

「彼が亡くなった後ここは一応キープしておいたんだ。一人で何か調べていたようだし何か残ってるかなと思って。あと一応、世話になったこともあるし」

「世話?」

「体質が変わった後ここに偶然たどり着いて治療用に使われていたヘッドセットを譲ってもらったんだよ。あれ以来ここには来てなかったから親しかったってわけじゃないけど」


 香月が言っていたヘッドセットを渡してその後どうなったのか知らない奴、と言っていたのは常磐の事だったらしい。体質変化しやすい体になってしまったのならどうにかしようと必死に対処を探すはずだ。世間からは消されてしまった治療用ヘッドセットの事を突き止め藁にも縋る思いで来たに違いない。


「そんで? ここには何があるんだ」


 ジンが辺りを見回した。そこに在るのはあの日のまま、店の在庫などが散らばっている。香月が亡くなってすぐにこの場所をキープしたらしく荒らされていないので盗まれたものはないだろうカウンターもそのままとなっている。


「ここであの人が何を調べていたのか分かればいいんですけど。地下に残り続けたのなら理由があったんじゃ……」


言葉を止めた。最悪な物が見えたからだ。常磐の真後ろに見えたいびつな形をした、とてもよく見た物。


【穹!】

「まずい!」


暁も気づいて叫び二人で駆け寄ろうとしたが遅かった。蝶が、常磐の髪にとまる。まるで髪飾りのように。その瞬間常磐はその場に崩れ落ちる。


「トキ?」


咄嗟にジンがその体を受け止め屈みこんだ。ぐったりとした常磐は意識がない。


【たぶん霞だね、今の会話聞いてたんだ。ってことは、もうだいぶ前から彼は目をつけられてたんだ】

「……人工知能に意識を持ってかれたって事か」

「たぶん」


ジンの問いかけは取り乱したりせずやけに冷静だった。ただ事実確認をしてるという様子だ。その冷静さになんだか嫌な予感がした。


「ジンさん?」


穹の問いかけに答えないまま、無言で目にもとまらぬ速さで袖口からナイフを取り出すと頸動脈切断の為常磐の首目がけて横一閃した。

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