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小さな試練


私はいよいよ入学式の日を迎えた。

私の学年にはクリスティーネ王国第二王子のサイアン=クライネ王子、そして第一王女のヴェスタ=クライネ王女が同席しており、ひとつ上の学年には次期国王候補のカディス=クライネ王太子が在席している。

そのせいあってか周りの貴族令嬢たちは


「カディス様が入学式の御挨拶をなされるそうよ!」

「きっと素晴らしいのね!」

「しかも、サイアン様は私たちと同じ場で学ばれるのでしょう、どうしましょう!」

「今夜のパーティーでどうにか親睦を深められないかしら?」


とキャッキャウフフと話に花を咲かせている。


まぁ私には関係のない話なのだが。私はスプリングル家の侯爵令嬢としてではなく、男爵様に関わりがある程度のただの令嬢のーーシェルとしてこれからこの学園に通うのだから。


王族である方達が身分の低いものに関わるはずがないもの。



そうこうしているうちについに、カディス王太子が壇上から降りられ挨拶をし終わった。


入学式が終わってからカディス王太子やサイアン王子、ヴェスタ王女が色々な人達に囲まれて挨拶をしている。王族の方達は大変なのね、そう思ってこの会場から出ようとした時、


「あの…。」

「ちょっと宜しいですか?」


と複数の男子生徒に囲まれていた。

私は警戒心を強めいつもの無表情で能面の顔をより一層貼り付けた。

内心ビクビクしながらそれを悟られまいと冷静に答えた。


「何で御座いましょうか?」


すると顔を赤らめながら、一人の男子生徒が


「お、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」


ーー名前?なぜそんなことを聞くのでしょう?私の名前を知っても何も良いことなどないのに、それとも私の名前が何かに利用されるのでしょうか?私は言うか言わないか迷いながらも、スプリングル家の名は出さずに


「シェルと申します。以後お見知りおきを。」


私はスカートの端と端を少し持ち上げ軽く礼をする。


「おぉ、シェル殿!私は伯爵の地位を頂いてるエラルド家の次男のシークと申します!」

「わ、私は辺境伯の地位を頂いてるラング家の長男バーグと申します。実は入学式の時の凛としたお姿がとても美しく…そこから気になってしまいお声をかけさせていただきました。」

「私も同じです!私は…家の…と申します。」

「……家の…と申します。」

「……家の…」


一方的な自己紹介が繰り広げられ、どういうことかと困惑していると、


「もし宜しければこの後お茶でもどうですか?」


一番最初に話しかけてきたシークというエラルド家の次男が問いかけてきた。


「わ、私も!」

「いえ、私と!」

「いいや、私が一番エスコート出来ますよ!」



「ええと…。この後は…ちょっと…。」


嘘だ。本当は学園主催のパーティーが始まるまで時間があり、むしろどうやって時間を過ごそうかと考えてたくらいなのだ。でもこの方達がなぜ私に声を掛けたのか分からない今付いていくのは危険だろう。


「そうですか…。ではまた機会がある時に!」


「ええ。その時は宜しくお願いしますわ。」


そう言って急いでその場から去った。走りたい気持ちを抑えて。




自分の部屋に戻りベットにダイブする。もちろん周りに誰も居ないことを確認してから。


「あー…。怖かった…。」


実際シェルは生まれてから周りの使用人たちと乳母のハンナ、庭師、そして滅多に会わない父と母と姉ぐらいしか人と関わったことが無いのだ。今日のさっきの出来事もシェルにとって初めて会う人に対して堂々と振る舞う事が出来たのは己の無表情の能面顔のおかげである。心の中では早く帰りたいと思っていたのを器用に隠してくれたのだ。シェルの何事にも動じない凛とした姿というのはこれらによって作り出された虚像なのだ。


実際、男に言い寄られてもそれがさも当たり前のように凛と澄ましてるのが気に食わないと一部の令嬢から敵視されていたのをシェルは知る由もなかった。


「はぁ…。この後はパーティーに出席しないと、また人がたくさんいるのよね。しっかりしないと。強く生きるのよ、シェル!」


シェルは自分を鼓舞して持ってきた荷物を解いていき、整理を始めた。


それでもこれから自分がしなければならない事に深い溜め息をついたのだった。





*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*




おれーいや、私はエラルド家の次男であるシーク=エラルド、伯爵の地位を持っている。この学園に来たのも父に言われたからという理由だった。シークは次男でありもちろん今のエラルド家の領地は長男が継ぐことになり、シークはその領地経営を手伝うという形になるだろう。またシークは生まれ持った艶やかなブロンドの髪にエメラルドのような瞳、整っている顔のおかげで寄ってくる女は数知らず。伯爵という身分のシークにこんなにも縁談が舞い込んでくるのはそのせいでもある。まだそのような話は早いと全ての縁談を断ってきたのだが。

しかしそんな縁談の中でありえない話が飛び込んできた。それは侯爵令嬢のカレン=スプリングルからのものだった。スプリングル家は侯爵の地位にあり伯爵であるシークが婚約を結ぶとエラルド家は必然的に力を持つことになる。願ってもない話だ。

向こうが社交パーティーで見かけて一目惚れだったらしく彼女が父親に頼み込んでこの婚約にこぎつけたらしい。こちらにとっては断る理由は無く、二つ返事で婚約を結んだ。



しかしシークは愕然とした。


ーーそれは初めて挨拶をしておこうとスプリングル家を訪ねた時、最初の印象としては悪くはなかった。

レディシュ色の流れるようなストレートヘアーに降ったばかりの雪のような白い肌、そしてアイスブルーの瞳…美しく聡明な方なのだなぁと感じたのも束の間、


「あなたがシークね、私はカレン=スプリングル、私たちはもう婚約者なのだからカレンと呼んでちょうだい!」


「かしこまりました。カレン様。」


彼女は満足そうに頷いて部屋に案内してくれた。部屋に入りソファに腰掛けると彼女は隣に座ってきた。


普通は向かい合って座るんじゃないのか…


少し疑問に思いながらも強く言うことが出来ずに黙って微笑んだ。


「私、シークのためにお菓子を作ってきたのよ!」


そう言って出されたお菓子(?)いや、マフィンのようなクッキーのような何かよく分からない物を受け取ると彼女の後ろにつかえていた侍女が真っ青な顔をしてこちらを見つめている。申し訳なさそうな顔をして。


「私のためにありがとうございます。ありがたく頂きます。」


一口だけ食べると、



ま、マズい……。

パサパサで味はなく、甘くない、いやむしろしょっぱい?!

これ砂糖と塩を間違えただろ!!


そこでようやく侍女の反応に納得がいった。彼女はカレンがお菓子を作ると聞いて止めたくても止められずに、いや止めたとしても聞かなかったのだろう。料理の才能が無いことを侍女は知っていたのだな。


「あ、ありがとうございます。とても美味しかったですよ。」


「でしょう!頑張って作りましたもの!次会う時もまた用意しておきますね!」


うっ…。マジか…


顔を歪ませて侍女も同じような反応をしている。




まぁ結構話もしたし今日はこのくらいで帰るか。


「では私はこれで…」


「シーク!これから町に出るのだけれどご一緒しませんか?」


まだあるのか…ただでさえ彼女の自慢話をずっと聞かされて頭が痛いっていうのに。


「わ、分かりました。では行きましょうか。」



結局シークはカレンともに町へ行き連れ回され、歩き回り、挙句の果てには『このブレスレット可愛いわ!』『このネックレスお揃いで着けたらどう?』『このドレス素敵!!』などと言われてしまい買わない訳にはいかず半強制的にプレゼントを購入したのだ。


まさかドレスまで買わされる事になるとは思いもしなかった。食事のマナーも所々品に欠けているものがあり、本当に侯爵令嬢なのか?と疑いたくなるほどだった。ていうかお前の家の方が金はいくらでも持ってるだろー!と叫びたい気持ちを抑え、帰ると言うとごねる彼女を説得してようやく家路に着いたのだった。



文章が短くならないように意識して書いていったら長くなってしまいました…。


ようやく学園に入学しました。テンポよく書いていこうと思っても中々難しいですね…


そしてシークはまさかのシェルの姉であるカレンの婚約者でした。今後シーク目線でのお話も入れていきたいと思います。

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