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メタモルフォーゼス  作者: 新町 東
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第40話『そう言えば聞いたよ俊兄ちゃん』

作者:九条くんの話が大分続いていますが、もう少しの間続きます。

第40話『そう言えば聞いたよ俊兄ちゃん』


「で、どうだったのくーちゃん。平賀くんたちとお話してみて」


「あいつらの誘いは断ったが、多少であれば協力することにしたぁ」


 それは宇佐美と九条がいつもの様に家で夕飯を食べている時のいつもの様な会話だった。


 ただ一つ、いつもと違う点があるとするならば、


「くーちゃん、何だか楽しそうだね?」


 いつもよりほんの少しだけトーンが高い九条の声にそう感じた宇佐美。


「そんな事は無ぇ。むしろ七海、おまえの方が良いことあったみたいな顔だと思うんだがぁ?」


「え、バレちゃった?」


 宇佐美は後頭部を手でポリポリと掻きながらにんまりとした顔で返事をする。


「実はアタシ、週末の練習試合でレギュラーの座を勝ち取りました!!」


 両手を腰に当て、胸を張りながらそれを報告した。


「良かったじゃねぇかぁ。初心者なのにレギュラーとは驚いたぞぉ」


 九条はそれを素直に喜び、そして感心する。


「まぁ、元々人数がそんなに多く無いからベンチ入りは確定だったんだけどね。それでも初心者でレギュラーを取っちゃう辺りアタシってやっぱり天才だよね」


「……全く、あまり調子に乗るんじゃねぇ、と言いてぇが運動だけは昔から得意だったからなぁ」


「そうなんだよねぇ~、アタシってばスポーツの申し子だから」


「それ以外は点でダメだけどなぁ」


 宇佐美が調子に乗り始めた為、一応釘を打っておく九条。


「いくら何でも酷くない? 罰として練習試合の前日の夕飯にとんかつを要求する!!」


「……験担ぎかぁ、考えておいてやる」


 わーいと小躍りし始める宇佐美。その姿を見て、


「食事中に暴れるんじゃねぇ」


 と一括する。すると宇佐美はそれを素直に謝ると、笑顔のまま黙々と箸を進めるのであった。




「いっただきまーす!!」


 和昌は両手を合わせ、大きな声で言う。


 平賀家の食事の際にはよく見る当たり前の光景。


 そしてそこに並ぶのは妹の和美作の料理。本日の夕飯は肉じゃがだ。


「今日も和美の料理が上手い!! これを食べる為に生きてるってもんだな!!」


 ガっつくように食べる兄貴。


「まだまだたくさん作ったから遠慮なく食べてね、昌にいちゃん」


 和気あいあいとした空気。我が家の場合は食事中にその日あった事を話したりするものだが、


「なあ和美、一ついいかな?」


「なぁに俊兄ちゃん?」


「もしも冷蔵庫の中身が心許ない状況で二人分の弁当を作れって言われたらどうする?」


 ふと、そんな問いを掛けてみた。


「そんなに難しくないと思うよ?」


 そしてあっさり返って来る返答。


「でも何でそんなこと聞くの?」


「実はさぁ……」


 と、今日の出来事。というよりはお弁当に関する出来事のみを話した。


「そんなに美味いもの食べられたの? よかったわねぇ」


 母さんが羨ましそうにしている。その言葉に、


「何言ってんだよ母さん!! 和美の料理の方がおいしいに決まってんだろ!!」


「昌兄ちゃんはそんな所で張り合わないでよぉ……恥かしいし」


 話が脱線し始めたので元に戻す。


「って事は和美でも出来るんだよな?」


「うん。残ってるものにもよるけどただ弁当箱の隙間を埋めるだけで良いのなら、前日の夕飯の残り物でもいい訳だし。ただ気になるのは種類があったって所だよね」


「そうだな」


「う~ん、例えばの話だけど……冷蔵庫の中に、ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ、が一個ずつ、それとお肉が少しあったとするね。それでそれらがあると……」


 和美はテーブルに指を指すと、


「肉じゃがが作れるよね。確かにその場合だと糸こんにゃくが入って無いし人によっては私みたいに絹さやを入れたりもするけど、それらが無くても一応肉じゃがにはなるよね?」


「そうだな」


「そしてこの材料だとルーがあれば一応カレーも作れるよね?」

 

「ああ、そうか」


 つまり九条は少ない食材から別々の料理を作っていた事となる。でもそれだと、


「時間が掛かりそうだな」


「前日に作ったり、いつもより早起きして作ったりすれば何とかなるかも知れないけど、それでも大変だと思うよ? たとえ種類が少なくてもある程度の量を作れれば後はそれを弁当箱に詰めるだけだから、弁当を複数作ることになってもそこまで大変じゃないよ。でも一品あたりの量も確保出来ない、材料も足りない、でも種類を増やさなくちゃいけない、それだと私には無理かなぁ……」


 和美の主婦目線からの意見は非常に納得のいくものだった。




 その話題も終わり、兄貴の仕事の話とか、母さんの研究の話とか、色々話題に事欠かない賑やかな我が家だが、


「そう言えば聞いたよ俊兄ちゃん」


「何を?」


「俊兄ちゃんの学校。エスターテ杯に出るんでしょ?」


 その一言で賑やかな食卓が、一気に凍り付くのを俺は感じたのだった。


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