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30 皆で夕食!

 「トシユキ、話がある」

 人が居なくなった静かな部屋で、ザルフは真剣な表情でそう言った。

 やはり先程のレオンとの行為に困惑しているのだろうか、その表情には複雑な感情があるように窺える。

 「・・・・・・・・・・・・」

 話がある、と切り出したザルフだがその次の言葉が出てきていない。恐らく話というのはレオンの事だろうが、やはり話しづらいのか迷っているような顔つきで俯いている。

 「ザルフ、話って何だ?」

 しばらく待ったが、一向に続きの言葉が出てこないのでこちらから聞く事にした。すると、ザルフが決心したように「そうだな・・・・・・」と言って語りだした。

 「・・・・・・トシユキ、最近森の様子がおかしいんだ」

 レオン・・・・・・・・・森?

 「えっと、何の話?」

 「いや、今日行った白虎の森の事だよ。半年程前から異常は起きてたんだが、ここ最近だとより変な気がしてな」

 「レオンの事に怒ってたんじゃないのか?」

 「もしかしてさっきの事か?あれは仕方無い事だろ、そういう習性なんだしな」

 どこか諦めたような雰囲気で、やれやれとザルフは言う。その様子を見る限り怒っている気配は無い。それよりもザルフにとっては森の異常の方が気になるようで、うーんと唸っていた。 

 「森の様子がおかしいって、どんな感じなんだ?」

 「そうだな・・・いや、詳しくはリーランがいる時に話そう。晩飯を食い終えたらまたここに来てくれ」

 ごろんと背中を向けて寝転がるザルフ。中途半端に話が終わり、何だかもやもやした気持ちになる。 

 「・・・そうか、とりあえずリーランにも伝えておく。というか、お前は食事処に行かないのか?」

 そのまま寝てしまいそうなザルフに聞く。すると、不機嫌そうな声で「オレは眠い」と言ってこう続けた。

 「今日は久々に先祖返りもしたから疲れたんだ。おばちゃんに飯はいらないって伝えといてくれ」

 そう言うとどうやら本気で寝てしまったようでいびきのような音が聞こえてきた。確かに狩りの時一番動いていたのはザルフだったが、そんなに疲れていたのだろうか。

 さて、これからどうしようか。夕飯の時間までただじっと待つ、というのも性に合わないし、かといって別段したい事があるわけでもない。そういえば結局、狩りについて行ったが魔法を取得するどころか何とか立ち回るのが精一杯で何も出来なかった。

 そうだ、どうせ暇なんだし白虎の人に身体強化魔法を使えるようになったのか聞いてみるか。とりあえず村にでも行ってレオンやおばちゃんに聞いてみよう。

 「それじゃ、村の方に向かうか」

 床に寝ながらいびきを掻くザルフを横目に俺は立ち上がった。そのまま歩いて玄関にたどり着き、外に出ようと扉に手を掛けた。

 すると、開けようとした扉が自然に開いた。

 「えっ?」

 自動で開いた扉に驚いていると、さらに開いていき、そこから二人の人物が現れた。

 「あっ、おにーさん」

 「・・・何してるの・・・?」

 扉の奥から現れた二つの影の正体は、イノとセルロだった。何してるのって、こちらのセリフなんだが。

 「なんでおにーさんがザルフの家に?」

 「俺はここに寝泊りしてるんだよ、風呂入った後だからここに居ただけだ」

 何故ここに居るのかという質問に俺が答えると、イノはそーなんだーと能天気な返事をした。

 「お前らこそ何しにきたんだ?」

 「暇だからザルフとお話でもしようかなって」

 「・・・それに誘われた・・・」

 どうやらこの二人は暇だったのでザルフの下に訪れたようだ。イノの口調を聞く限り、今日に限った話ではないのだろう。ザルフも意外と面倒見がいいようだ。

 しかし、当のザルフは今しがた眠ってしまった。その事をイノに伝えると、えー!と言って不満をもらし始めた。

 「ザルフ一度寝ると中々起きないじゃん!折角ウチが会いに来たのに寝るなんて信じられない!」

 何かよくわからない発言をするイノ。イノが来るのを知っていたとしても、ざるふはそのまま寝てしまいそうだけどな。と心では思ったが、口には出さなかった。

 「ん~どうする?」

 「・・・暇になった・・・」

 「今村の方に行ってもする事ないしねー。長老のところにでも行く?」

 「・・・あの人話通じないから面倒・・・」

 元々ザルフが目当てで来たのに、その目当ての人物が夢の中だと聞いた二人はどうしようかと聞きあっていた。会話を聞いていると、年上に見えるセルロが主導権を握っているのかと思っていたが、どうやらイノがセルロに提案をして、それにセルロが返答をして会話を成り立たせているようだった。その会話の途中で気になるワードがあることに気がついた。

 「長老なんているのか?」

 俺が知る限り、そんな人が居るとは聞いていない。名前だけ聞くと、頭領より偉そうな肩書きだが挨拶とかしといた方がいいんだろうか。

 「長老って言ってもただのボケたおじいちゃんだけどね。見た目が長老っぽいからそう呼ばれてるんだよ」

 「・・・正直、苦手・・・」

 「そう?あの人の話も面白いから好きだけどね」

 そう言って無邪気な笑顔に笑い出すイノ。笑顔だけを見ていると覗きの常習犯という事を忘れてしまいそうな程に眩しい笑顔だ。

 「セルロちゃんが嫌ならやめておくね。でも、それじゃ本当にする事無くなるよ?」

 「・・・それはそうだけど・・・」

 しばらくして再び二人で、これからどうするか悩み始めた。そんなに暇ならおばちゃんやレオンの所にでも行けばいいのにと思う。

 そういえばレオンが暴走した時に、「さっきまでセルロとイノと一緒にいた」って言ってたな。もしかしてあの暴走に何か関係してるのか?イノはともかくセルロなら充分考えられる。

 「なぁ、さっきレオンの様子が変だったけどお前ら何か知ってるか?」

 「何が?」

 「・・・知らない・・・」

 俺が気になっていたことを聞いてみると、二人は首をかしげてわからないと言った。

 「え?知らないのか?」

 「うん。確かにちょっと前に会ったけど変な感じはあんまり無かったよ?」

 「・・・少しボーッとしてたくらい・・・」

 二人ともどうやら嘘をついているようには見えない。まさか、本当に関係無かったのか?

 「なるほど。いや、知らないならいいんだ」

 「変なの。でもこれからどうしよっか、セルロちゃん」

 「・・・暇なら村に戻る・・・?」

 「うーん、そうしよっか。そろそろご飯の手伝いしないとおばちゃんに怒られるもんね」

 やはり夕飯の準備は女性が行うものらしい。それはイノのような小さい子も例外ではないようで、手伝いをさせられるみたいだ。

 「おにーさんはどうする?」

 イノが振り返りながら背後にいる俺に問いかけてくる。

 ふむ。俺もザルフの伝言を伝えるために一度村の方に向かうか。

 「そうだな、俺も暇だし手伝いでもしようか」

 そう俺が告げると、イノが「じゃ行こ!」と俺の右手を取って引っ張った。同時に向けられた笑顔がかわいらしく、思わずドキッとしてしまう。

 「・・・またロリコンが一人・・・」

 そんな俺の思考に気づいたセルロが、すぐ傍でボソりと呟く。

 俺は断じてロリコンではない。そんなランロン一人で充分だ。だが、かわいかったのは否定しない。

 「何してるの?」

 「・・・早く行こう・・・」

 俺がロリコンだと言われた事に葛藤していたら、イノが出発しようと言いながら手を握った。そして空いていた左手には、いつの間にかセルロの手が繋がれており、ぐいっと手を引かれる。

 「そうだな、行くか」

 二人の少女に言われて、玄関から螺旋階段を降りていく。やがて地面に着地すると、二人は小走りになりながら村の方へ駆け出す。その速さに合わせるために俺も一緒になって走るが、いい大人が小さい子と手を繋ぎながら走り出すなど正直周りから見たらどう見てもロリコン野郎にしか見えないという現実。

 そんなこんなで、村の食事処に着いた。食事処の中へ入ってみると、数人の女性が忙しそうに夕飯の準備をしている。

 流石に食事処に着いていたので二人が繋いでいた手を離す。するとイノが食事の準備をしているおばちゃんを見つけたようで駆け寄っていった。

 「おばちゃーん!何か手伝う事あったりする?」

 その声に気づいたおばちゃんが、少し困った表情で「あんたどこ言ってたんだい」とぼやいた。

 「どうせまたそこいら走り回ってたんだろう?元気なのはいいけど手伝いがあるのを忘れるんじゃないよ」

 「えへへ、ごめんなさーい」

 「反省してるのかい、この子は。まぁいいよ、とりあえずこの辺にある皿をテーブルの方へ運んでおくれ」

 「はーい」

 おばちゃんに言われたイノは、厨房に用意されている大皿を軽々と持ち上げて大広間のテーブルへと運びだした。それに一緒になってセルロも皿を運んでいるが、フラフラとしていてどこか危なっかしい。

 「お、おいセルロ。お前それ運べるのか?」

 「・・・大丈夫・・・」

 そう言いつつも、皿を持っている手がプルプルと震えている。どう見ても無理をしているようにしか見えない。

 「お前にはその大きさは重いだろ。俺が代わりに持つよ」

 「・・・いい・・・」

 「いやでも」

 「・・・いらない・・・」

 ・・・・・・じゃあいいです。どうぞ頑張って下さい。

 足元をふらつかせながらも意地で食器を運ぶセルロを暖かい目で見送り、厨房の中に居るおばちゃんに話しかける。

 「おばちゃん、俺も何か手伝った方がいいですか?」

 「ん?あぁ、としゆきさんかい。そうだね、じゃあちょっとレオンのとこの料理を味見をしてくれないかい?」

 厨房の奥に居るレオンをニヤニヤとしながら指差すおばちゃん。その笑みで大体何が言いたいのかは概ね理解できた。

 「そういえば、今度はアンタが襲われたんだって?力で抵抗しても敵わないとは情けないねぇ」

 「今度はアンタが、って・・・俺は別にレオンに何かしたわけじゃないですよ・・・・・・」 

 「まぁ、言われてみればそうかもしれないね。とうとうレオンにも来たようだね」

 「・・・?何がですか?」

 「『発情期』だよ」

 微笑ましい、とでも言いそうな顔でおばちゃんが口元に手を当ててフフフと笑っていた。

 なるほど、あの暴走の原因は発情期の所為だったのか。それで、近くにいた男の俺を押し倒したと。見境が無い所がまたそれっぽいというか。

 「発情期、ですか。それっていつ治まるんです?」

 出会うたびにああも押し倒されるとしたら、今後俺はレオンと顔を合わせることが出来なくなってしまう。早急に何とかしなければいけない。

 そんな俺の考えを見透かしているかのように、おばちゃんは「治まるとしたら」と言った。

 「特定の相手と結ばれる他無いだろうね」

 「え?」

 と、特定の相手?

 「見境なく襲いかかるとかじゃないんですか?」

 「いくら獣型の魔人でもそこまで落ちぶれちゃいないよ。あれを治すとしたら、惚れたオスと一緒になることだね。恋の病なんて言葉があるくらいだし、おかしくはないはずだよ」

 「え、えっと・・・それじゃその理屈だと、レオンが俺の事好きみたいな解釈になりますよ?」

 押し倒すという行為自体が、最早我慢できなくなったレオンがした暴走だと思っていた。しかし、おばちゃんが言うには見境がないどころか、好きな異性にしかそんな事はしないと言っている。

 「あんった、気づいてなかったのかい。一目惚れか知らないけど、レオンのアンタを見る目は完全に恋する乙女のものだったよ」

 「ほ、本当ですか?」

 「もちろん、本当さ。こんな下らない嘘つくわけないよ」

 しばらく、その場で立ち尽くして呆然としてしまう。少し遠くにいるレオンを思わず二度見してしまい、その際レオンと目が合ってしまった。

 「あれ、トシユキさん来てたのー?」

 遠くから声を掛けたため、叫ぶように大きな声を出すレオン。恥ずかしげもなく俺を呼ぶ事が出来るという事は、さっき俺の服を脱がした事は覚えていないのだろうか。あれすらも本能のままに、無自覚のままにしていたのだろうか。

 「ちょっと、返事ぐらいしてもいいじゃん」

 ふてくされた顔で俺の近くへ歩み寄ってくる。恐らく今、俺はレオンの顔を直視できないだろう。二十歳過ぎた男が何を恥ずかしがっているんだと思われるだろうが、今まで俺は碌な恋愛経験をしてこなかった。それ故、恋や交際なんか無縁だとまで考えていた。そんな男が、遠回しにでもお前の事が好きな女子がいる、なんて伝えられたらそりゃあ赤面の一つや二つするに決まっている。

 「さっきから、うつむいてどうしたの?具合悪いとか?」

 優しさに溢れた声色でレオンが顔を覗き込んできた。しかし、思わず反射的に目を逸らしてしまう。

 「な、何でも無いから。大丈夫だ、うん」

 「でも顔赤いし・・・風邪とかじゃないよね?それなら家で安静にした方がいいよ」

 そう言い残すと、再び元の調理場へ戻っていった。

 あまりの俺の態度の変化に、おばちゃんはすぐ横で大笑いをしだした。

 「アハハッ!意外と純情なんだねぇ、闇勇者さん?」

 「・・・・・・そうですね」

 「あれ、怒ったのかい。いやぁ、あんな甘酸っぱい若さなんか見せられるとついちょっかいを出したくなるんだよ」

 「この短時間でおばちゃんがどんな人か、わかりましたよ」

 「ほう、どんな人だと思うんだい?」

 「俺が一番苦手な人です」

 俺がそう告げると、おばちゃんは再び笑い出した。その後に、「悪かったね」と半笑いで言ってきたのが更に俺を苛立たせたが、最早おばちゃんとまともな会話をするのを諦めようと心に決めた。

 「それと、ザルフは今日の晩飯いらないそうです」

 「また寝てるのかい、あの子は。食べるもの食べなきゃ体力もつかないってのに」

 不満顔で言うおばちゃんだったが、それだけ聞くと再び食事を作り始めた。

 「それと、手伝いは多分もう要らないだろうね。どっかでリーランちゃんが若いのと組み手してるだろうから呼んできてくれないかい」

 「あれ?そういえば居ませんね」

 食事処の中を改めて見回すが、大広間にも厨房にもリーランの姿が見当たらなかった。

「坊ちゃんが相手してくれなかったみたいでね、村の若いの三人ほど連れて裏の空き地に向かっていったよ」

 説明を求める前に説明されたが、やはりリーランも肉体派の側近なので鍛錬を怠らないようにしているのだろう。それにしたって三人連続で組み手なんかはとてもじゃないが真似できない。

 「もうじき調理も終わって夕飯時だからね、動いて腹も空かせてるだろうし頼んだよ」

 そうおばちゃんに言われて食事処の裏に来てみたのだが、確かにリーランは組み手をしていた。三人の白虎の青年を同時に相手取りながら。

 三人はリーランを囲むように、三方向からそれぞれ攻撃を繰り出していた。

 構えて動かないリーランに一人は掴みかかろうと手を伸ばしてリーランに向けて放ったが避けられ、逆に伸ばした腕を掴まれて背負い投げられていた。

 一人が投げられている内にも、残された二人は拳や蹴撃を放つ。しかし、放った腕は空振りして、その腕を掴まれて先程と同様に綺麗に投げられる。片方がやられているのを好機とばかりに残された一人は蹴りを放つが、それを屈んで回避したリーランに支柱になっている方の足を払われて地面に転がる。

 「よし、終了」

 足元に倒れこんだ三人を見下ろしながら、リーランは一息をつく。そこでようやく俺が来ていた事に気がついて、こちらに向けて軽く手を振った。

 「相変わらず強いんだな」

 組み手が終わったのを確かめて、リーランとの距離を詰める。

 「いやー本当はザルフと組み手をしたかったんだけど、あいつ寝たみたいだしこの人たちに相手してもらってた」

 リーランがこの状況の説明を入れると、その足元にいた三人がむくりと起き上がった。

 「いてて、やっぱり強いっスよリーランさん」

 「俺達も最近身体強化魔法覚えたんスから、もうちょい手加減して欲しいっス!」

 「本当っスよ。あ、ども。こんちわっス」

 先程やられていた、ドレッドヘア・ソフトモヒカン・坊主の三人が順に起き抜けにリーランへ愚痴を垂れる。その内の坊主頭は俺に頭を下げて挨拶をしてきた。

 「あぁ、どうも。白虎の人だよな?」

 「そうっスよ。あ、もしかしてザルフさんが言ってた闇勇者さんってアナタっスか?」

 坊主は俺の事を知っていたらしい。ザルフにいつの間に聞いていたのか知らないが、この三人は俺の事を既にザルフから聞いていたらしい。

 「そうだ。それともうすぐメシが出来るからお前らを呼んで来いっておばちゃんが」

 「マジっスか!今すぐ着替えて食いに行くっス!」

 坊主がそう言うと、三人はどこかへ行ってしまった。今すぐと言っていたので直に来るだろう。

 三人を見送ってその場に残ったリーランにもお前は着替えないのか、と聞く。

 「どうしようか。今からザルフの家に行って着替えるのも面倒だしこのまま夕飯にしようかな」

 リーランが服で汗ばんだ体を扇ぐ。そういえば今のリーランの格好は少し前の鎧姿とは異なり、黒のタンクトップに下も黒のジャージを着用していて、髪も動きやすいようにかヘアゴムのような紐で括ってある。

 「その服どっから持ってきたんだ?来る時はそんな物持ってるようには見えなかったけど」

 俺が不思議そうに聞くと、リーランは自身の服を見て納得したような表情になった。

 「あぁ、これね。上も下も元々鎧の中に着込んでたやつだよ」

 「そうなのか、どのくらい組み手してたんだ?」

 「多分一時間かそこら。あの三人、兄弟だったみたいでコンビネーションが物凄く息が合っていて結構強かったな」

 感心したようにリーランは言うが、それを軽く相手をしていたリーランの方が凄いだろと思った。

 「それはそうと、もう夕飯出来たの?」

 「もう出来るって、だから呼びに来たんだろ」

 そうだった、と苦笑いするリーラン。結局はそのままの格好で食事処へ向かうようだ。

 リーランを連れて食事処へ戻ると、昼間とまるで同じような光景が出来上がっていた。いつの間にかさっきの三兄弟も帰ってきており、料理を前に座っていた。

 「もう出来てるよ、早く座りな」

 俺とリーランが来たことに気づいたおばちゃんが、俺達に向かって言う。

 「さぁ、皆揃ったね。それじゃ」

 席に着いた俺達を確認すると、おばちゃんは大きく息を吸った。

 「いただきます!」

 「「「「「「いただきます!!!」」」」」」

 昼と同じように、おばちゃんの合図でこの場の全員が手を合わせて大きく言った。

 「美味いっス!やっぱおばちゃんの料理最高っスね!」

 隣に座っていた坊主頭が、口に食べ物を含みながら叫んだ。おそらく目の前にある唐揚げを食べたのだろう。

 「口に物入れながら喋るんじゃないよ。それに今日の唐揚げはあたしじゃなくてレオンが作ったやつだよ」

 「マジっスか!いや~こんなに美味い料理作れるなんてレオンさんの旦那さんになる人が羨ましいっスよ!」

 「ほ、褒めても何も出ないよッ!」

 坊主の素直な賞賛に、顔を赤らめて恥ずかしがるレオン。坊主に乗じたドレッドとモヒカンもマジっスマジっス!と騒ぎ立てている。

 「旦那さん、ねぇ・・・・・・」

 それを横で聞いていたおばちゃんが、俺のほうへ視線を向ける。何でその言葉に反応した、と問いたいが俺も何故かは知っていた。だがここで反応してはまたからかわれるだろうから、あえて何も言わない。

 「トシユキさん・・・お、美味しい?」

 俺がおばちゃんに無反応を貫こうと考えていたら、向かいに座っていたレオンが恐る恐る聞いてきた。

 「あ、あぁ。美味いよ」

 「本当!?良かったー!」

 俺の返答を聞いた瞬間、レオンがぱあぁと笑顔になった。くそう、かわいいじゃないか。

 「あらあら」

 「まあまあ」

 今度はおばちゃんとリーランが二人でニヤニヤとしながらこちらを見ている。なんか腹立つ。

 「これおいしー!」

 ニヤニヤコンビに若干イライラしながらも、唐揚げを食べていると、離れたテーブルからイノの元気な声が聞こえてきた。

 「フフッ」

 その声を聞いたレオンが、嬉しそうに微笑む。実際、本当に嬉しいのだろう。イノが食べていたのはレオンが作った唐揚げだったのだから。

 「皆、おいしいだとさ」

 そんなレオンを見たからか、おばちゃんが「良かったね」と優しく言った。

 「うん、作り方教えてくれてありがとね。おばちゃん」

 照れくさそうにレオンは言うと、照れ隠しなのか、まるでやけ食いをするようにご飯をかき込んだ。

 「さて、じゃ俺も食うか」

 さっきはレオン達に見られながら唐揚げを口にしたので、落ち着かなかったが、やっと自分のペースでゆっくり食える。

 「・・・って、あれ?」

 いざ食べようと前を向きなおしたら、先程まであった唐揚げの山がいつの間にか消えていた。

 「あっ、スンマセン!あんまり美味いんで俺ら食っちゃったっス!」

 「サーセン!」

 「サーセン!」

 俺が箸をうろつかせて唐揚げを探しているのを見た奇抜頭三兄弟は、まるで悪びれる素振りも無い様子で軽い謝罪をした。

 「あらら、もう食べちゃったんだ」

 三人の声を聞いたレオンがまたも嬉しそうな声を上げるが、こちらとしてはまったく嬉しくない。むしろ、腹立たしいくらいだ。

 目の前のオカズが無くなり、他の料理はあるのかとテーブルの上を探してみるが、あるのは空の皿ばかりでそれらしいものは見当たらない。あるのは俺が掴んでいる茶碗の中にあるホカホカと湯気を立てている白飯だけで、余計にむなしい気分になる。

 「前にも言ったけど、皆食べるの早いから早く食べなきゃ無くなっちゃうよ?」

 既に空になった食器をまとめて片付けを始めるレオン。周りの人を見ても子供たちはおろか、三兄弟すら食事処から姿を消していた。

 どうやらリーランも食事をもう終えていたようで、屈伸や足の腱を伸ばすなどして食後の準備運動を始めていた。

 「としゆきさんも、はやく食べちまいな」

 呆然とその光景を眺めていたら、おばちゃんに早く食えと催促をされた。オカズも無しに白飯のみを食べろというのか。

 「・・・・・・わかりました」

 しかし、ここで文句を言って迷惑をかけるわけにもいかないので、渋々白飯のみを食べた。一口、また一口と白飯を口に運ぶが、口内に広がるのは米特有のほんのりとした甘さのみ。やはりオカズが無いとどこか口寂しいものがある。

 「ごちそうさま」

 一杯の白飯を平らげて、感謝の言葉を発する。オカズが無いのでおかわりする事も出来ず、他の住民に遅れて手を合わせて席を立つ。テーブルに茶碗を置くと、おばちゃんが洗うためにキッチンの方へ運んでいった。

 結局俺が夕飯で食べれたのは一杯の白飯のみであり、その後も何かを口にする事はできなかった。

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