26 森の魔物!
「あたしも行く!」
俺とザルフが狩りに行くと聞いた途端、レオンも行きたいと言い出した。
「いやいや、レオンにはまだ無理だって」
ザルフが心配そうに言う。確かにレオンは女の子だし、心配するのもわかる。
「いいじゃん兄貴、どうせトシユキさんも一緒って事はそんな危険な所まで行かないんでしょ?」
「そういう問題じゃなくてだな・・・お前はまだ若いし、女なんだから大人しく家に居ろって」
「そんなの理由にならないでしょ。そもそも兄貴は昔からそう、話を聞かない内にダメダメって言うんだから」
「話を聞いた上でダメと言ってるんだ。それに今は昔の事は関係ないだろ」
「関係あるよ、昔から変わらずに頑固だってこと」
「それを言ったらお前だってなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まずい、完全に兄妹喧嘩の雰囲気になってしまった。だけども、この二人に割って入る勇気なんて俺には無いし、どうしようか・・・・・・。
「あんた達っ!また喧嘩してるのかい!」
しばらくその場でオロオロしていると、大きな声が食事処の奥から聞こえてきた。
その声がした方向に眼をやると、おばちゃんが大きな足音を立てながら近づいていた。
「ゲッ・・・おばちゃん」
「おばちゃん!聞いてよ、兄貴がさぁ!」
「ザルフ、あんたも今は頭領なんだから責任感があるのは良い事だけどねぇ、それでも妹のお願いを聞けないんだったら兄失格だよ」
おばちゃんがレオンの味方して、ザルフに説教をする。恐らくこのやり取りはザルフも慣れているようで、渋々といった様子で話を聞いている。
「わかったよ、連れて行けばいいんだろ」
「やった!流石おばちゃん、頼りになるね」
「何年あんた達のおばちゃんやってると思ってるんだい、お安い御用さ。でも、レオンもあんまりわがまま言わないようにするんだよ」
どうやらザルフが折れて、レオンの同行を了承したっぽいな。しかし、あの押しの強さといい、世話の焼き方といい、見れば見るほど中央のおばちゃんに似てると感じる。まぁ、空似なんだろうけど。
「さて、坊ちゃんの了解も得たんだし、早いとこ行って早めに帰ってきな」
「はーい、じゃ行こうか。兄貴」
「・・・もう疲れてきた」
朝から説教されたせいでザルフの表情がどんよりとしている。今から狩りするというに大丈夫なのだろうか。
「ザルフ、大丈夫か?」
「あぁ・・・大丈夫だ。俺は準備は特に必要無いけどお前ら何か持ってく物あるか?」
「あたしも無いよ」
「俺も大丈夫だ」
「そうか、じゃ向かうから付いて来いよ」
ザルフが少し早足になる。その足取りが若干フラフラしていたが、本人が大丈夫なら大丈夫だろう。
そうして、俺達三人は狩場である森へ向かった。
白虎の町から出て十分ほど経った。だが、辺りを見ても砂漠の光景しか無く、森はおろか植物の影すら見当たらない。
それに町から出てしばらく走り続けているが、ザルフとレオンは疲れている様子がない。白虎の奴らは魔力が多く、だから身体強化魔法を使い続けても問題は無い。そう聞いていたが思った以上に化け物だった。
俺もこの世界に来てから体力面も向上していて、体も恐らく魔族のものに書き換えられているのか、気分が悪くなる、何てことは無くなった。つまり、前の世界の一般的な体より優れているはずのこの体でもあいつら二人に追いつくことが出来ないということだ。
「大丈夫かトシユキ?」
明らかにペースが落ちた俺に気づき、ザルフが声を掛ける。さっきまであんなにどんよりした顔をしていたのに今ではその面影は微塵も無く、すっかり元に戻っていた。
「だから言ったじゃん、ちょっと早いって」
ザルフの後ろからレオンが顔を出し、不満げな表情をしていた。
「いや、俺は大丈夫だがまだ着かないのか?」
「ここまで来ればもうすぐだぞ。それに森の中はそこまで暑くないから、あと少し頑張ってくれ」
「そうか、じゃあ行くか。すまんな二人とも、俺に合わせてもらって」
「あ、あたしは別に気にしてないけど・・・・・・」
顔を赤くして照れるレオン。そう言ってもらえると俺も気が楽だ。
「そろそろもう一回走れるか?」
「あぁ、もう少しなら頑張るよ」
「よし、じゃ行くぞ!」
その言葉と同時にザルフとレオンが走り出した。それに付いて行こうと、俺も一緒に走り出した。
二人に後ろを走っていると、いつの間にか目の前に青々とした木々が生い茂った森が見えてきた。
「ハァ、ザルフ、あれが、森かッ?」
「そうだ、あれが白虎の狩場の森だ」
俺が全力疾走でやっと追いつけるスピードにも関わらず、ザルフは息一つ乱れていない。
「さあ、着いたぞ」
不意にザルフが立ち止まった。それに気づき、慌てて足を止める。俺の目の前に森があった。
10mを越すような木が幾つも上に向かって伸びている。内部からはセミのような鳴き声が響いており、生物がいる事を物語っていた。
しかし、この木の感じといい森というよりかはジャングルって感じだな。ツタのような植物も多くいし、何より食虫植物みたいなのがそこらへんにうじゃうじゃ生えてる。
「トシユキ、あんまりそこらへんの植物に触るなよ」
興味本位でその植物に近づいた時、ザルフに注意をされた。
「昔、それより少し大きめの植物に手首もってかれた奴もいるんだからな」
「バッ!おまっ!早く言えよ!」
「そう言うなら無闇に触らないようにしろよ」
手首もってかれるって、絶対食いちぎられただろその人。意外と恐ろしいんだなこの場所。
「じゃ今から中に入るけどくれぐれも離れないようにな。はぐれたら多分出られないから」
そして迷宮要素もある、と。下手なダンジョンより難易度高いぞここ。何でこんなとこにホイホイ来たんだ俺・・・・・・。
この森に来た事を後悔していると、ザルフとレオンが中に進んでいった。はぐれたら出られなくなるという言葉を聞いていた俺はすぐに二人に付いて行った。
森の中は砂漠の時の暑さとは打って変わり、強い日差しも無く木陰が多くかなり涼しかった。
「確かに森の中はいくらか涼しいな・・・・・・」
つい、心で思っていたことを口に出してしまった。しかし、砂漠で何故こんなに植物が育つのだろうか。異世界は不思議なことが多い。
「どうしたの?キョロキョロして」
周りにある植物を観察しながら歩いていると、レオンが顔を覗き込んできた。
「こんな場所でなんで植物が繁殖できるんだろうって思ってな。・・・ってか、近い」
レオンの顔が段々と近く感じて、慌てて離れる。
「なに?照れてるの?」
レオンがからかう様に笑う。いや、そんな、顔が近づいただけで照れるなんてあるわけが・・・・・・。
「顔赤いよ?」
そ、そんなはず無い。俺は大人の男だぞ、そんな中学生みたいな思春期的な発想なんてある訳ない。
「そ、そんな事よりここってどんなやつが狩れるんだ?」
「あ、話題変えたね。まぁいいけど。そうだね、最近じゃシブズとかワルムとかじゃないかな」
シブズ?ワルム?名前からじゃとてもわからないな。
「どういう感じのモンスターなんだ?」
「シブズは角と毛皮があるやつで、ワルムってのは体が長くて口がでかいやつだ」
レオンと会話しているとザルフが説明してくれた。角と毛皮、それに長くて口がでかいか。最初のはそれほど凶暴そうには思えないが、後半の長くて口がでかいって完全に化け物しか想像できない。出来ればそいつとは遭遇したくないな。
「シブズは良質の毛皮が取れるんだが、肉があまり美味くないんだ。ワルムは肉は美味いんだが、その分少し強くてな」
シブズよりワルムの方がやはり強いらしい。この世界に来てちゃんとした魔物なんてワームくらいにしか見たことが無いからある意味楽しみでもある。だが、死にたくはない。
「オレ達が着ている服もシブズの皮を使ってるんだ、着心地は悪くないだろ?」
「確かに悪くは無いがレオンの着ている服も同じ素材なのか?」
「あぁ、そうだよ。ここは基本自給自足だからな、野生のものから頂くしかないんだ」
「へぇ、大変なんだな意外と」
「そうでもないさ、慣れれば苦には感じな・・・・・・」
「キュロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!」
ザルフと話をしていたその時、どこからか甲高い音が聞こえた。
「なんだ今の音は!?」
周囲を確認するが音の原因らしきものは見当たらない。森の中は相変わらず木に囲まれており、その影によりやや薄暗い。しかし今の音は、いや、音というよりは。
「鳴き声、か?」
「そうだ、今のがさっき話していたシブズの鳴き声だ。シブズは動きが素早く暗闇だと捉えられない動きをすることがある。充分気をつけろ、トシユキ、レオン」
「わかった」
「わかったよ」
三人がお互い背中合わせになり、周辺の様子を伺う。先程の大きな鳴き声は今は全く聞こえず、静けさに包まれていた。
ザルフは拳を固め、臨戦態勢を取っている。レオンも同様だ。しかし、レオンは目の前をひたすら注視し続けているにも拘らずザルフは両目を閉じ、ただ構えているだけだった。
「ザルフ何してるんだ!早く周囲の確認をしろ!」
「待て、今わかりそうなんだ・・・・・・」
そう言って目を閉じ続けるザルフ。その言葉には真剣さが宿っており、少し圧倒されてしまう。
「わ、わかりそうって何がわかりそうなのさ!」
レオンも困惑しており、俺に続いて目を開けるようにと言う。身の危険が迫っているにも関わらず、相変わらず目は閉じたままだ。
「・・・・・・・・・・・・・・ッ!トシユキッ!お前の方向だッ!」
しばらく黙っていたと思っていたザルフが突然叫んだ。
「キュロロロロロロロロロロロロ!」
その瞬間、俺の目の前の木々の隙間から突然青い『何か』が飛び出してきた。
「避けろ!トシユキ!」
ザルフのその声に従い、体を左に動かして向かってくる『何か』を回避する。すると、ザルフがその物体に向けて拳を放つ。
「おらあああああああああ!」
ザルフが『何か』に握った拳をぶつける。堅い物がぶつかり合うような音が響き、その衝撃で『何か』が10mほど吹き飛ぶ。
吹き飛んだ『何か』がゆっくりと体を起き上がらせる。その『何か』はとてもヤギに似ていた。
その生き物は曲がった大きな角を持っていて、足にはヒヅメがある。胴体は青い体毛に覆われ、四肢は白く染まっていた。
「こいつがシブズだ」
ザルフがゆっくりとした口調で言う。その声にはいつになく緊張の色が感じられた。
「キュロロロロロロロロロロロロロ!」
森の奥でシブズが大きく鳴いていた。




