25 狩りの準備!
日差しの暖かさが顔の表面に当たり、目を醒ます。
体を起こして周りを確認すると、木造の壁が見えた。上を見上げると小さめの証明があり、ようやくここがどこかを思い出す。
「あぁ・・・そういや白虎に来てたんだっけな」
しかし、毎度のことながら寝起きはいつも自分がどこに居るかわからなくなってしまう。俺が低血圧だからなのか、それともただ単にオレの記憶力が残念なのか、どちらかというと後者な気がしてならないのだがそこはまぁ置いておこう。
窓を見てみると明るさと暖かさを含んだ日差しが差し込んでいる。しかし、気温がまだ少し寒いということはまだ明け方なのだろう。
「アハハハ、何言ってんのさぁクローしゃぁ~」
聞いたことがある声が隣から聞こえ、その方向を見てみるとリーランが居た。まだ目を瞑っているということはこいつはまだ起きていないのだろう。昨日あれだけガバガバ酒を煽ったくせに気持ち良さそうな顔で寝ている。一体どんな肝機能をしてるんだ。
リーランの様子を見ていると、入り口からザルフが顔を出した。
「よお、昨日は眠れたか?」
入り口で目が合った途端にザルフは挨拶をしてくれた。正直俺も酒を飲んでいたら眠れていただろうが、そうするときっと昼間で寝過ごす可能性が大きいから昨日は控えた。
「まぁ、普通に眠れたとおもう」
「そうか、じゃあ良かった。それじゃ早速出発の準備をしてくれ」
出発?準備?何の話だ?やはり朝はまともに頭が働かない。きっと昨日の内に何か約束したんだろうが・・・・・・。
「おいおい、忘れたとか言うなよ?」
「悪い、忘れた」
「・・・・・・正直なのは良いことだと思うぞ、うん」
そんな事言われてもなぁ、思い出せないものは思い出せないし、仕方ないね。
「昨日トシユキ言ってたじゃんか、『狩りに連れて行ってくれ』って」
「・・・あっ、あれか。そうそう、言ってたな」
身体強化魔法を学んで来いって言われたんだ、すっかり忘れてしまうな。そうか、こんなに朝早くに行かないといけないんだな。
「まったく、忘れんなよ・・・ここから狩場まで少し歩くけどいいよな?」
「あぁ、別に構わんぞ。大体俺から言い出した事だし、そこで文句を言うわけにはいかないからな」
「あと狩場は森なんだがな、あまり深いところに行くと迷うから着いたらオレから離れないようにしろよ」
へぇ、森なのか。確かに狩りって言うぐらいだから動物とかを相手にするとは思っていたが、白虎といったら砂漠のイメージしかなかったから意外だな。
「森って、どんな奴がいるんだ?」
「日によって猛獣レベルの奴も居るけど、まぁ大した事は無いだろ」
いやいや、猛獣って言ってる時点で大した事あるだろ。なんでさらっと問題発言してんのこの人。猛獣とリアルファイトとか考えたくも無いよ俺。
「そんな凶暴な奴とか狙うわけじゃないよな?」
心によぎった不安をザルフにぶつけてみる。これで「別にそんなことは無いよ」とか言ってくれればすごく安心するんだけど、
「狙うに決まってんだろ?そういう奴らほど肉食って体デカくなってるんだからな」
ですよね。大方予想通りだね。てか、狩りを素手で行う奴らの理屈なんか俺に通じるわけ無いよね。うん、トシユキわかってた。
「どうした、トシユキ。顔色悪いぞ?」
「あぁ、大丈夫だ。先の未来に少し絶望してただけだから」
「・・・?大丈夫ならそれで良いけどな。無理はするなよ」
肉体的に化け物な奴と今から猛獣と殴り合いしに行くって聞いたら誰でも顔青くするだろ。気遣いは嬉しいけどさ。
「そもそも俺なんかが行っても大丈夫なのか?今の俺なら白虎にいるチビッ子とかにも負ける自信あるぞ」
「トシユキって闇勇者なんだろ?今までの歴代の人達だって相当強かったらしいから、トシユキも相当強いんじゃないのか?」
「いや、それは先代達が無茶苦茶に強いってだけでだな・・・・・・」
「そうなのか?じゃ最初は弱い奴から相手してみるか」
「そうしてくれると助かる」
そうでもしないと猛獣遭遇デッドエンドというパターンもありえるからな、異世界に来て一週間もせずに死亡は避けたい。というか、期間に関わらず死にたくない。
「さて、少し喋ったしそろそろ出発出来るようにしろよ」
小さく息を吐いて、ザルフが出発を促した。着替えとかも用意してないし、このままこの胴着を借りようか。
「ザルフ、この服着てていいか?」
「ん?それか、別にいいぞ。代えならいくらかあるし、しばらくそれ着てればいいぞ」
「ありがとう、それと・・・こいつどうするんだ?」
俺の座っている横で居眠りをしているリーランを指差す。リーランの運動能力なら相当の戦力を期待できそうだし、何より俺だけ仕事をするというのが気に食わん。
「リーランか。昨日散々飲んだし、二日酔いだろうからそっとしておいてやってくれ」
チッ、やはり連れ出すのは無理だったか。そもそも、二日酔いなら使い物にならんか。仕方無いな。
「胴着の他に用意するものとか無いか?無いならこのまま向かおうと思ってるけど」
「えっと、多分無いかな。だって狩りって素手なんだろ?」
「もちろん、無いんなら行くか」
会話を打ち切ると、ザルフが入り口へ歩いていって俺に向かって手招きした。恐らく早く来いと言う意味だろう。
その動作に従い、ザルフに着いていく。階段を下りて、村の方に歩いて向かう。その時、ふとある人物の事が頭によぎった。
「なぁ、ザルフ」
「ん?何だ、忘れ物か?」
「いや違うが、ここに来る時に俺の連れでリーランの他にあと一人ちっこい奴いたよな」
「あー・・・いたな、そういえば」
「そいつどこ行ったかわかるか?」
「うーん、レオンと話をしてるところなら見かけたけど、どこに行ったかまではなぁ」
「そうなのか、どこ行ったんだあいつ・・・・・・」
昨日からセルロの奴を見かけていない。純粋に心配なのもあるが、あいつなら何かやらかしそうで不安な気持ちがあるというのが本音だ。なにせ、魔王城で魔王とその側近をそそのかして俺を襲うという事件を起こした張本人だ。いつ、どこで、どんな事件を起こしてもなんら不思議ではない。そんな奴を昨日見かけていないとなると早急に発見を急がねば、大変な事になるかもしれない。
「なんかめちゃめちゃにメシ食う子だったな・・・一週間分のメシを一日で、それも一回で残らず完食したのにはビビったよ」
「・・・その辺はすまなかったな」
「何でお前が謝るんだ?それに謝る必要なんか無いよ、生きてりゃメシなんていくらでも食うんだから。あの子はその量が多いってだけだろ」
良い人や。狩りに出る理由を俺らが作ったようなもんなのにそれを笑って許すなんて、物凄く良い人だ。
「それに結局トシユキも早く魔法を学びたかったんだろ。それならちょうど良かったじゃないか」
「そう言ってくれると、気が楽になるよ。とりあえずこの分は仕事で返すようにする」
「うーん、別に気にする必要は無いんだけどな。そんなに気になるなら食事処の方見ていくか?」
「セルロならいそうだな・・・じゃ行ってみるか」
ザルフとレオンの家から徒歩数分ほどヤシの木の林を抜けていくと、昨日見た白虎の食事処に到着した。海の家のような外観の建物の中では白虎の女性達が慌しく動いていて、よく見るとその女性達の中にレオンも混ざり一緒になって働いていた。
「お、坊ちゃん。どうしたんだい?」
俺とザルフが近づいていくと、働いていた人達の中でも熟年の人がザルフに向かって手を振っていた。ザルフがそれに気づいて慌ててそこに向かって走る。
「おいおい、おばちゃん。俺はもう成人を迎えてるし、頭領にもなってるんだぞ?いい加減坊ちゃんはやめて欲しいぞ」
「何言ってんだい、私にとっちゃ坊ちゃんはいつまでも坊ちゃんなんだよ」
「まったく、おばちゃんも相変わらずだな。レオン探してるんだけど、今居るか?」
「今多分奥のほうで手伝いしてると思うからもう少し待ってな、その内出てくるだろうよ。それでお前さんは?」
ザルフと喋っている途中で急に俺の方を向き、疑わしい視線を投げかけてくる白虎のおばちゃん。
「あっ、俺はトシユキっていいます」
俺がトシユキと名乗った途端、おばちゃんの視線が変わった。先程まで疑わしいと視線で訴えていたが、打って変わって好奇の目で見てくる。
「ははーん。あんたが嬢ちゃんが言ってた『としゆきさん』かい。なるほどねぇ」
「レオンから俺の事聞いてたんですか?」
「そりゃあ聞いたさ、なんでも随分大胆な事したんだって聞いてるよ?」
どういうことだ?レオンに大胆なって・・・・・・・あっ。
「ちょ、ちょっと来て下さい」
おばちゃんの袖を掴み、部屋の隅へ引っ張る。
「なんだいなんだい、今度は私みたいなおばちゃんにもするのかい?困った子だよ、まったく」
「勝手に話進めないで下さいよ・・・それでどこまで聞きました?」
「あぁ、それで坊ちゃんに聞こえない所まで運んだってことか。さぁーてどこまでだろうね」
思わせぶりな態度を取るおばちゃん。このノリ、どこかで体験した事あると思ったら魔王城のおばちゃんだ。喋り方、態度、見た目、どれも似ている。
「いやいやいやいや、本気でこれは下手すればザルフに殺されかねないんですから」
「確かに坊ちゃんの妹大好きぶりは筋金入りだからねぇ。どこまでと言われれば、昨日の出来事丸々聞いたよ」
「ま、マジですか・・・・・・それならお願いがあるんですが頼めますか?」
「それは内容によるけど、大体予想はつくよ」
「でしたら話は早いです。この事を口外しないでくれませんか?もちろんザルフだけじゃなく、他の人達にもです」
「やっぱりそうくるのかい。ま、私は構わないけど他の子達に伝わってるよ?」
「それの口封じもお願いしたいんですけど・・・・・・」
「じゃ、私からもお願いがあるけど聞いてくれるかい?」
「えぇ、まぁ、俺に出来ることでしたら何でも」
「何でもか、じゃあこれから嬢ちゃんがあんたにお願いする時が来ると思う。そうなったら、あの子の願いを叶えてやってくれ」
おばちゃんからのお願いと聞いて少し警戒したが、どうやらさほど厳しいものではないらしい。レオンのお願いごとによるのだけども。
「それが俺に出来ることだったら、良いですよ」
「大丈夫、嫌でもやってもらうからね。それじゃ口封じのほうは任せときな」
何が大丈夫なんだ?と思ったが、そこでまた話が長くなってもしょうがない。おばちゃんとの会話を終わらせて、再びザルフの元へ戻る。
「何の話をしてたんだ?」
当然こんな質問がくるよな。結構立ち話にしちゃ長かったし、コソコソしてるっていう時点で怪しいと思われても仕方無い。
「いやぁ、ここでどんな仕事してるのかとか聞いてただけだよ」
「そんなのオレに聞けばいいだけだろ。わざわざおばちゃんに聞くことは無いと思うけどな」
「うっ、い、いやぁ、そこは現場の人間に聞いた方がいいじゃん?その方がより詳しく内容を聞けるし何より仕事の楽しさとかも聞けるじゃん?」
やべ、自分でも何言ってるかわかんなくなってきた。ま、いいや、雰囲気でごまかそ。
「そもそも、指揮的な立場から見た仕事なんてたかが知れてるじゃん?そうなるとやっぱ現場の人の聞いた方が良いっていう結論になるわけだ。それで・・・」
「も、もういい。わかった。ていうか、さっきからトシユキ同じ事しか言ってなくね?」
「そうか?じゃあ違いをわかりやすく説明して・・・・・・」
「あっ!ほら、レオン来たぞ!おーい、レオーン!」
こいつあからさまに話題変えやがった。その方が俺と助かるけどな。って、ホントにレオンいた。
「あれ、兄貴?何してるのここで」
「いや、トシユキが聞きたいことあるらしくてな。それで探してたんだ」
ザルフが俺の方を向く。それにつられて、レオンも俺の方を向いた。目が合った。
「い、いやぁ、聞きたい事あったんだけどいいか?」
「う、うん。いいけどあんまり時間無いよ」
なぜか互いに言葉が詰まってしまう。その理由は昨日の出来事だろう。しかし、なぜ詰まっているのかは両方理由が違う。レオンはきっと恥ずかしいからだろう。だが、俺はザルフにバレないか、心底ドキドキしているからだ。同じ心臓の高鳴りでもこうも違うとは皮肉なものだ。
「セルロっていうちっこい子見かけなかったか?」
「あ、それなら奥の座敷の方で寝てたよ」
寝てた?うーん、それなら一応害は無いように見えるが、ここで信用しきるのも少し危ない気がする。
「そうなのか、あいつってここで寝泊りしてるのか?」
「そうみたいだね、なんでもご飯の匂いがしてるからって」
あいつらしいっちゃらしんだが・・・・・・まさか、今回は特に何かを仕掛けてくるつもりは無いのか?
「そうか、じゃあ起きたら俺の所に来てくれって伝えてくれないか」
「うん、わかった。・・・どこか行くの?」
「ん、あぁ、俺とザルフでちょっと狩りにな」
「ふーん・・・・・・」
レオンが頷き、少し考えている素振りを見せた。数秒経って、頭上げたと思った瞬間。
「あたしも行く!」
・・・・・・は?




