23 悪酔いリーラン!
ふと目が覚めると、近くで男女の声が聞こえた。女の方は聞き覚えのある声で恐らく、リーランだろう。しかし、いつもの凛々しい声とは違って、酒が入っているのようで随分とろれつが回っていない。もう片方の男の声は、聞き覚えは無いが俺の知っている声といったらザルフという青年しかいない。酔っているリーランを必死になだめている。
会話を聞いていながらボーっとしていると次第に意識が目覚めてきた。悪酔いしているリーランにバレない様に静かに動いて、周囲を確認する。どうやらここはザルフの家らしい。屋根は藁のような材質で出来ていて、床と壁は堅い材木で作られているようで、軋む音一つ無い。天井からは照明のような物がぶら下がっており、辺りを薄く照らしていた。壁に付けられた簡易式の窓の奥を見てみると、外は暗く夜になっている事がわかった。
「あのれぇ~わらひがいいらいのはらよ?なんれひさひぶりにあっらっいうのにれ?あんらはそんらそっけないろってころらんらよ?」(訳:あのねーわたしが言いたいのはだよ?なんで久しぶりに会ったっていうのにあんたはそんなにそっけないのって事なんだよ?)
「いや、別にそっけないとかそういうわけじゃなくてだな。というか飲みすぎだぞお前」
「あ~、まらそうやっれ~。のみしゅぎのみしゅぎっれさぁ~そんらのんれないっつ~のぉ!」(訳:あーまたそうやってー。飲みすぎ飲みすぎってさーそんな飲んでないっつーの!)
明らかに飲みすぎだろ。思わず心の中でツッコまざるをえないほど飲みすぎだよ。下戸の俺でもあんなになったことはないぞ。
「わかったから、もう寝ろよ。ベロンベロンじゃねぇか」
「いいのぉ~!ろうせあしらのしごろらって、としゆきしゃまがすればいいんだも~ん」
おい、ふざけんな。なんでお前明日働かない宣言してんだよ。しかも、俺に丸投げっておかしいだろ。頼むからセルロだけっていうのはやめてくれ、そっちの方が仕事にならん。
「誰も仕事の話はしてないって・・・お、あんた起きたのか」
「ふぇ?」
あんたってまさかだよな?俺じゃないよな?
「なんてったっけ、えーとたしか・・・トシユキ?だっけ?」
気づいてーら。
「としゆきしゃまぁ?」
「あ、あぁ。今しがた起きてな」
「そうなのか、そういえばオレ村に仕事残してきたんだった!だから後頼んだ!」
わざとらしく大声で言い、家の玄関に向かうザルフ。しかし嘘だというのが見え見えなので、逃げようとするザルフの服を引っ張って小声で主張した。
(おい!こいつと二人っきりにするな!)
(オレだって嫌だよ!さっきまで付き合ってやったんだから後はあんたが相手してやってくれ!そんじゃ!)
そう言い放ち、そそくさと部屋を後にするザルフ。しばらくして、ゆっくりとこちらを見るリーラン。
「としゆきしゃまぁ~。きいてくらさいよぉ~」
「あ、あぁ、また今度な。俺も用事が出来た気がする。うん、多分用事出来てるわこれ」
捕まったことにより多少テンパり、なんとか吐き出した苦しい言い訳だが通用するだろう。きっと。多分。
「なにいってんれすかぁ~?ようじようじってざるふもとしゆきしゃまもぉ~」
俺の服に捕まりながら、目に涙を溜め始めたリーラン。いかん、このままではいずれ来る奴らに勘違いをさせてしまう。主にセルロに。女を泣かせる最低野郎という汚名だけは避けなくてはいけない。恐らくこのまま席を立つとリーランはほぼ確実に泣くだろう。それを避けるためにはこのままだらだらと話を聞いて、つぶれるのを待つしかない・・・っ!
「としゆきしゃまもどっかいくんれすか?」
「い、いや、大丈夫だったわ。予定とか微塵も無くなったわ」
「・・・?そうなんれすか?」
「あぁ、だから話し続けていいよ。俺ちゃんと聞くから。聞くのだけ上手いって言われるから」
「そうれすか?それじゃあいいますけろねぇ~・・・・・・」
さて、あとは適当に聞き流しながらつぶれるのを待つだけ、と。しかし、リーランがこんなに酒癖が悪いとはな、予想もしていなかった。正気に戻ったら文句言っておこう。
「というわけれすねぇ~あいつはいっつもそうなんれすよぉ~」
そういえばいつの間にか着ている物が変わっている。今まで着ていた青いジャージの代わりにザルフの着ていたものと色違いの青い胴着を身に着けていた。しかし、でも、うん・・・意外と着心地は悪くないな。もっとゴワゴワしていたものかと思っていたんだが。
「それれれすよぉ?きいれますぅ?」
冷えると思ったら高床式の家なんだな、ここ。道理で冷えるわけだ。元の世界でも砂漠地域は夜寒いらしいが、こんな感じなのだろうか。
「としゆきしゃまぁ!」
「うおっ!?何!?聞いてたよ俺!?」
「うしょつかないれくらさぃ!そうやっれ~ざるふもとしゆきしゃまもきいてらいじゃら・・・」
怒ってる途中で突然静かになったリーラン。さっきまでの騒がしさがまるで無く、カクンカクンと小刻みに首を動かしている。
「おい・・・?リーラン?」
「・・・・・・・・・・・ぐぅ」
「ぐぅ?」
まさか、こいつ・・・。
「ぐぅ~・・・zzZ」
「寝やがった・・・」
騒ぐだけ騒いで寝るとは迷惑な奴だ。ま、つぶれたなら当初の目的を達成しているから問題無いがな。
「さて、こいつをどうしようか」
このまま寝かしておくと、この気温だ。恐らく次の日に風邪を引くだろう。そうなってしまったら元の木阿弥、明日は結局セルロと二人で仕事する事になるだろう。
「はぁ・・・仕方無いから何か布団のような肌掛けを持ってきてもらうか」
もたれ掛かるリーランをひとまず床に寝せて、外に居る誰かに声をかけようとして玄関に向かう。
玄関の扉を目指していると、開ける直前で扉が開いた。
「あ、起きたんだね」
ドアの奥にはコップを持ったレオンがいた。手に持ったコップを俺に手渡し、後ろのリーランに目をやる。
「はい、これ。それともう一つコップが必要かな?」
「あぁ、頼む。今誰かに声を掛けて、何か肌に掛けるものを持ってきてもらおうかと思ってんだが・・・」
「なるほどね、わかった。今もって来るよ」
そう言い終ると、急ぐように玄関から飛び出していった。
閉められた扉をしばらくボーっと見ていると、窓が近くにある壁からノック音のようなものが聞こえた。その音が一回のものなら気にしないだろう。しかし、ノック音は繰り返し聞こえて、とても気のせいとは思えない現象だった。
しばらく悩んだが、意を決して窓際に近づいた。窓に近づいても音は止む気配は無い。それどころか、何かを主張するかのように回数を増やしていった。少しその変化に躊躇ったが、最早警戒心よりも好奇心の方が大きくなってしまっていて、窓の外がどうなっているのかが気になってしまい、結局窓の外を覗き込んだ。
「おーい、もう寝たかー?」
窓枠の少し下から声がした。その声に反応して、下の家の壁を見てみるとそこには壁にぶら下がったザルフがいた。
「何してんのお前?」
「いや、様子を見ようと思ったんだが予想以上に壁が高くてな」
「そういう意味じゃなくてだな・・・まぁいい。とりあえず上がって来い」
「無理だ。引っ張り上げてくれないか?」
「は?ふざけた事言ってないで早く来い」
「いや、ホント無理だって。腕プルプルしてんじゃん、ほら見てくれよ」
壁に捕まっている腕を見てみると本当に痙攣していた。
「登っておいて自分で降りれないって・・・猫かよ」
「ん?何か言ったか?」
「何でもない。いいから早く掴め」
「あ、ああ。悪い」
伸ばした腕に掴まり、何とか這い上がるザルフ。
「はぁ、助かったよ。いくらオレでもあの高さから落ちるとなれば、捻挫はするだろうからな」
「あの高さで捻挫?下手すりゃ大怪我だろ」
先程ザルフの様子見たとき外の窓から下を伺ったが、ざっと見ても5mはあっただろう。その高さから落ちて捻挫で済むわけがない。
「もしかして、身体強化魔法か?」
「おお、知ってたか。落ちる瞬間にそれを使うだけで大怪我がその程度で済むんだぜ。便利だろ?」
「確かに便利だな。というか普通に凄いな」
そういえばクローサから身体強化魔法を使えるようになれって言われたんだっけな。
「良ければ俺にその魔法を教えてくれないか?」
「え?うーん・・・教えるも何もこればっかりは素質だからな」
「そうなのか?」
「ああ。だから白虎の連中は狩りをする過程で勝手に覚えていくんだよ」
体が自然に覚える。つまりはそういうことか。クローサも『白虎の人は身体強化魔法が得意』って言っていた意味がようやくわかったぞ。
「そうだな、じゃあ明日オレの狩りに付いて来るか?」
考えているとザルフが問いかけてきた。確かに狩りをしながらだと、覚えも早いかもしれない。
「狩りって何使うんだ?剣とかか?」
「何言ってんだ、男なら素手だろ」
真顔でそう言い返された。さすが、野生的だな。こいつなら本当に素手で倒しているだろう。
「なるほど、さすが頭領だな。じゃ俺も明日連れて行ってもらおうかな」
「わかった、それじゃ決定だ。それじゃ明日に備えて早く寝ろよー」
「そうさせてもらうよ。あ、その前に風呂貸してくれないか?来る途中で滅茶苦茶汗掻いたせいか体がすげー汗臭い」
「ここまで来るのに凄い気温だもんな。外に一人用のがあるから入ってこい」
そう言ってザルフは玄関を指差した。恐らく玄関を出てすぐにあるという意味だろう。
「風呂から上がったら俺はここに泊まればいいのか?」
「とりあえず泊めるところなんてここぐらいしかないしな。仕方無い、が」
が?
「妹もここに住んでる・・・手を出すなよ?」
「出すわけ無いだろ、昼間も組み伏せられたんだぞ?」
「はは、それもそうだな」
会話が終わると玄関の扉に手を掛けて手前に引いた。その奥には螺旋階段があって下の地面に繋がっている。
地面に降りて辺りを見回すと、家の横に小さな木造建築を見つけた。一人用と言っていたし、きっとここで合っているだろう。しかっし、汗で全身ベタベタだ。寝ている間に寝汗も掻いていたんだろう。
早く寝汗を流して寝たいなぁと考えながら風呂の戸を一気に開いた。
風呂イベは王道。




