22 まさかの餓死エンド!?
リーランが城門から走りだしてしばらく経った。今、俺は砂漠の真ん中で黙々と砂の上を歩いていた。
「ハァ・・・ハァ・・・暑ぃ・・・あいつら・・・置いていきやがって・・・」
今の魔界は夏。そうは聞いていたがこの日光と気温は異常だ。比較的住みやすい日本に居たからわからないが、恐らく前の世界の南国でもこんなに暑くは無いだろう。それにしても、空には雲ひとつ無い。故に直射日光がガンガン俺の全身を焼いてくる。こんなところに対策も無しに来るのは最早自殺行為だろう。あの二人もだから早めに白虎へ目指したのだろう。
そう、今俺の居る砂漠は白虎への道だ。青龍といい白虎といい、なぜこんなに道のりが険しいのだろう。正直、うんざりだ。
「確か、西にまっすぐ向かえば着くって言ってたがまったくそれらしきものが見えないぞ・・・」
辺りを見回すが、周囲には乾いた砂があるだけで景色が変わることなんてまったく無い。青龍と同じく種族で暮らす集落があるらしいのだが、その場所の特徴も聞いてない上にリーランら付き添いが居ないから下手をすると殺されかねない気がする。暑さで少し頭痛がしてきた、早く着かないものか。
ぼんやりとそんなことを思っていると、ふと目の前が陽炎のように揺らめきだした。
「なんだ?暑さで陽炎が出来たのか?」
しかし、普通の陽炎とはどこか違う。景色が目の前で不自然に揺らめき、まるで何かを誘うようなそんな動きだ。
勇気を出してその陽炎に手をかざしてみる。すると、陽炎の隙間から手が伸びてきた。
「うおっ!?」
かざしていた手ごと腕をつかまれ、そのまま勢い良く引っ張られる。手を引かれた拍子に、盛大に前方へこけてしまった。
腕に捕まれ飛び込んだ先は、湖が目の前に広がる場所だった。そこはまるでオアシスと呼ばれる光景にひどく似ていた。
「お前、何者だ」
背後から声が聞こえ、一瞬の間に腕をとられ関節技をきめられた。その声のした方を横目で確認すると口元を布で覆った人物がいた。
地面に押さえつけられた状態のまま今の状況を確認する。どうやら女性のようだが、少し声が低いところをみると自分より少し年が上のように思える。白を基調としたインディアンのような服装で露出が多い。実質、身にまとっている部分は胸部と腰部分のみで、その箇所には布を巻いており、足に白いタイツのような物を履いている。まるで某ゲームのキ〇ン装備を思わせるような見た目だ。短めの白い髪をかき上げて、こちらを鋭い視線で射抜く。
「もう一度聞く、二度は無い。お前は何者だ」
静かに問いかけたその声には冷徹さが含まれており、俺の体を萎縮させるには充分なほどだった。
「い、いや、俺は怪しいものでは・・・」
「それは怪しい奴が言う台詞だ。では、お前の目的はなんだ?」
迂闊に口にした一言により、より警戒を強めてしまった。そもそも、ここはどこかわからないのだから目的も何も無いだろうに。仕方無い、ここは素直に聞いてみよう。
「あの、ここはどこですか?」
「お前に教える義理は無い。知らずに来たわけでは・・・」
「あっ!トシユキ様!」
見知らぬ女性と対峙していると、聞いたことのある声が聞こえた。
「何してるんだ?」
こちらへ走ってきた声の主はリーランだった。ここにリーランが居るということは恐らくここが白虎なのだろう。セルロの姿は見えないがあいつの事だからきっと追いついているだろう。
「知り合いなの?」
先程までの殺気を含んだ言い方は既に消えており、どこか緩そうな声が白い衣装の女性の口から漏れた。
「そうだけど、この人何かしたのか?」
「いや、この近くをうろうろしてたから、怪しいなーって思って軽く質問してただけだよ」
あの殺気を含んだ尋問が軽く質問しただけ・・・?それは些か語弊を含んでいるぞ。てか、この人大分口調変わったな。
「なんだ、リーランさんの知り合いだったんだ。それならそうと言ってくれないと、勘違いしちゃうじゃん」
弁解しようとしたら強制的にねじ伏せたじゃん・・・。全然そんな余地無かったぞ。まぁ、誤解が解けたなら問題無いな。
「客人に失礼したね。あたしはレオンっていうんだけど、あなた誰?」
間接技の拘束を解き、スッと立ち上がるレオンという女性。口元のマスクを下にずらし、爽やかな笑顔を見せながらはにかんでいる。数秒前の威圧が嘘のように思えるな。
「いや、気にしてない。それに怪しかったのも事実だしな。俺はトシユキという者で六代目闇勇者だ」
痛む腕を抑えながらゆっくりと立ち上がる。リーランはやれやれといった表情でこちらを見ている。
「まったく、トシユキ様って普通に四部族のところにお邪魔できないの?」
「置いていった奴がよく言うな。それに今回は俺から仕掛けたわけじゃないぞ」
「あはは、さっきはごめんね?」
話を聞いていたレオンが失笑しながら謝る。これは別に彼女が悪いわけではない。彼女は自分の職務を全うしただけだろう。悪いとしたら、俺を置いていった二人が悪いのだ。
「そうだ、セルロはどこ行った?あいつにも一言言わんと気がすまない」
「セルロなら村の方で昼食食べてるんじゃないか?」
「あー、もしかしてさっきの小さい女の子のこと?」
「多分そいつだ。どこに居るかわかるのか?」
「ウチの食事処で滅茶苦茶に食べてた気がするなぁ・・・すごいペースで食べてたけどお腹の中どうなってんだろ」
なんだと?あいつは確かスピードもすごいがその分かなりの量を食うはずだ。
「レオン、ここの食料って多いほうか?」
「え?いや、今の時期はそんな収穫も出来ないし、狩りも暑いからあんまり出来ないから多くは無いかな」
やばい。俺の予想だと多分物凄くやばい事になりそうな予感がする。そうだ、リーラン・・・
「リーラン、お前もうメシ食ったか?」
「残念な事にもう食べちゃったんだよね」
くっそ!こうしちゃいられん!早くセルロの場所へ案内してもらわないと・・・!
「レオン!そいつが居るところに案内してくれないか!?」
「えっ?別にいいけど・・・」
とにかく一刻も早くセルロの所に行かねば!うおおおおおおおおお!間に合えええええええええええええええ!
俺が白虎の食事処に着いた頃には、セルロのアホに全ての食料を食われていた。
「なぁ・・・お前俺の分残しておくとか考えなかったのか?」
「・・・美味しい食事だった・・・」
「聞いてねぇよ!てか、そう思ったなら俺に残しておけよ!」
セルロの近くにはいくつもの大皿が散らかっており、どれほどの量を平らげたのかを物語っている。
「・・・そんな怒るくらいなら早く来れば良かったのに・・・」
「お前ら二人が置いてったんだろうが!?どの口が言うんだよ!?」
「・・・この口・・・」
そう言って食事の汚れがたっぷり付いた口元を指差した。こいつ・・・喧嘩売ってるのか?
「ハァ・・・昼飯どうすればいいんだよ・・・」
「・・・過ぎた事は気にしないほうがいい・・・」
「いい加減にしないと俺キレるよ?」
「・・・了解・・・」
再び深いため息をつく。そんな悲壮な気持ちと共に来る空腹感が更に切なさを醸し出す。このままメシ抜きの状態でここに滞在しないといけないのか・・・。
「帰りてぇ・・・」
「そ、そう言わずにさぁ!ここもいい所だから少しでいいから見てきなって!」
レオンが必死に呼び止めるが、今は見所なんかより充分な食事が欲しいんだよ。だから早く白虎の頭領に会って帰りたい。
「あ、トシユキ様」
リーランが何か思い出したかのように声をかける。もしかして食料がまだあるとかか?そんな展開あるとは思えないけどな。
「クローサの命令なんだけど、ある程度身体強化魔法を身につけないと城内に入れませんよ、だってさ」
予想以上に酷な問題が起きたんだけど。これもう無理じゃね?俺が飢死して終了っていうエンドルートしか見えないんだけど?
「・・・俺、死んだな・・・」
「ま、まだ諦めちゃダメだって!もしかすると兄貴が狩りから帰ってくるかも・・・」
「ん?皆食事処に集まってどうした?オレの収獲がそんなに楽しみだったのか?なんつってな!ハッハッハッ!」
膝から崩れ落ち、死を悟ったその瞬間に、俺の背後から声が聞こえた。この村に来てから一度も聞いたことの無い声に反応し後ろを振り向くと、胴着のような服を着た青年が歩いてきていた。
「お、リーランじゃないか。久しぶりだなぁ、元気でやってたか?」
隣にいたリーランに気づいた青年は気さくに声をかける。見た目からしてもリーランやランロンと同じくらいの歳だ。恐らく昔からの知り合いなのだろう。
「お、お前まさか・・・ザルフ、か?」
「そうさ。久しぶりだな」
相変わらず軽い様子で受け答える青年、ザルフ。
「大きくなったなぁ!レオンのときも思ったけど、二人ともいつの間にか成長してるんだな」
「ハハハッ!ま、頭領なんてやってりゃ体なんて自然と大きくなるもんさ」
このザルフという青年が白虎の頭領らしい。青龍の時は渋いおっさん・・・もといイーロンだったがずいぶんと若いんだな。
「なっ!?お前が頭領!?親父さんはどうしたんだ!?」
「それが・・・少し前に狩りに行くって言って以来帰ってきてないんだよ」
「そ、そうなのか・・・いや、でも二人が元気そうで良かったよ」
「そう言ってもらえると助かるよ。たった今獲物を狩ってきたからご馳走するぜ。それと、こっちの人は誰だ?」
不思議そうな表情でこちらを指差す。それよりも、今ごちそうと言ったか?
「お、俺はトシユキというものだ。無礼を承知で言うが、腹が減って仕方がない。少しで良いから食料を分けてくれないか?」
「えっ?食料ならまだ食料庫にまだまだあるはずだ。今回の収獲だって保存用にするつもりだし・・・」
「ウチの馬鹿がたらふく食ったおかげで全て消えたらしい」
「は、はぁ!?あ、あれだって恐らく一週間は持つぐらいの量だったんだぞ!?」
「な、なんかスマンな・・・。そういった訳だから少しで良いから分けてくれないか。空腹で死にそうだ・・・」
「あ、あぁ!今から適当に何か作るから待っててくれ!」
「あぁ・・・助かった・・・。これで飢死エンドは免れた・・・ぞ・・・」
その言葉をほとんど言い終わると同時に俺の意識は暗闇へ沈んでいった。
もちろん餓死エンドはありません




