21 出発の準備!
次の目的地、白虎へ旅立つ準備を終えた俺たちは魔王城の門の入り口でセルロを待っていた。
「セルロ、ずいぶん遅いな」
先程、食堂で朝食を済ませたとき「・・・少し休んでくる・・・」と言ったきりまだ集合場所に現れない。
「確かに遅いな。どうする?一旦図書館に様子見に行ってこようか?」
「そうだな、俺も気になるから一緒に行こう」
「わかった」
結局、セルロがいつまで経っても来ないので、俺とリーランで図書館まで様子を見に行く事にした。・・・・・・大体オチが読めるのは気のせいだろうか。とりあえず、図書館に向かうとしよう。
図書館に向かいながら、リーランと雑談をしながら今後の事について聞いてみた。
「リーラン、俺って具体的に何をすればいいんだろうか」
「いやー、そこはくろー・・・魔王様じゃないとわかんないからなぁ」
「別に今は誰も居ないし、クローサでもいい気がするけどな。まあいいか。それより、今までの闇勇者って何してたんだ?」
「んーと、初代闇勇者様と二代目様と三代目様は、主に魔界統治の時にご活躍したみたい」
「それって確かクローサの婆ちゃんの話だよな?」
「そうなるけど、その時は私のひいひいお婆ちゃんか?そのぐらい前の話らしい」
「ん?お前の家族ってそんなに前からクローサの婆ちゃんに仕えてたのか?」
「一応、これでも直属の部下だからな。歴史は古いよ」
「ふーん。四代目と五代目の闇勇者は?」
「ふーんて。まぁ、そのお二人は生きてた期間ほど短いけど、人間界に大ダメージを与えた闇勇者様だね」
その時、少しリーランの表情に笑みが浮かんだ。きっとその二人は魔族にとって誇りのような人達なんだろう。
(あぁ、そういえば人間界とも対立してるんだっけな)
人間界。魔界とは逆に位置する経緯度の場所にあるとされる大陸。そこに棲む人間族は魔族と古くから対立、互いにいがみ合っており、その溝は深いとされる。らしい。
「それも俺の今後の課題なのかねぇ」
「何が?」
「何でもないさ。それよりセルロは何してるんだろうな」
「寝てたりして」
「それはさっき俺も思った」
そう言うとリーランと俺は互いに見つめ合った数秒後、同時に笑い出した。
「あははっ!やっぱりそう思うんだな!」
「あいつの場合ほとんどの問題の原因が睡眠だからな」
「確かに言えてるよ」
しばらく二人で笑いあった後に、図書館がもうすぐそこにあるということに気がついた。
「はぁ、本当に寝てたりしてな」
「実際ありえない話じゃないと俺は思う」
未だに笑っているリーランが図書館のドアに手を掛けたその瞬間に、中から急にゴソゴソと物音が聞こえてきた。
「・・・・・・何の音?」
「わからんが中から聞こえている気がする」
「そういえばそんな気もする。一旦図書館の中を見てみるか?」
「そうしてみよう」
未だ物音がする図書館の中を見ようと、リーランが扉をゆっくりと開けて中の様子を見てみると、そこには急いで準備に取り掛かるセルロの姿があった。
「何してるんだあいつ」
「多分今まで寝てたら私達の足音が聞こえて、慌てて準備ってとこか?」
「何故かその説で納得出来るんだよなぁ・・・・・・」
また二人で失笑していると、図書館のドアがひとりでに開いた。ドアの奥には息切れをしながら荷物を抱えるセルロの姿があった。
「・・・どうしたの?二人とも・・・」
「いや、お前がどうした」
「なんでそんな息切らしてるんだ?」
当然の疑問をぶつけると、セルロには珍しく挙動不審な様子で苦しげな弁明をし始めた。
「・・・・・・つまり寝てた訳ではなく準備の途中で疲れてしまい、自分のベッドで休憩をしていただけだと?」
「・・・・・・そういうこと・・・・・・」
「いや、セルロ絶対嘘ついてるでしょ」
「嘘というか、まず言い訳にすらなってないだろ・・・・・・」
結局、セルロの行動の予想は大方当たっていた。厳密に言うと、予想よりひどかった。恐らくうたた寝の途中で廊下の足音に気づいて慌てて準備といったところだろう。やれやれだ。
とにかく予定より出発が少し遅れている。早めに白虎へ向かったほうがいいだろう。俺が城の入り口の方を向いて出発を促すと、それを察したようにリーランが歩き出した。
「やっと出発できるな」
「誰かさんのせいで著しく出発が遅れたからね」
「・・・・・・そんな人が居るなんて、許せない・・・・・・」
最早ツッコミを入れるのも面倒だ。よって放置。しかし、出発が遅れたのも事実だ。なるべく早めに出るようにしよう。
「ここから白虎っていったらどのくらいかかるんだ?」
図書館の通りの廊下を歩きながら、出遅れた分の時間を心配する。これで青龍より遠いなんて言い出したら絶望的だぞ。そこをもう少し早めに聞いておけば良かったな。
「さぁ、どうだろ。セルロわかる?」
「・・・・・・大体、青龍の三分の二ぐらいだったはず・・・・・・」
「今から向かうとなると日が沈む前に着きそうかな」
「あんまりギリギリに着くのは嫌だな」
「それを防ぐために予定より早めに集合時間を設定したんだがな・・・・・・」
少し嫌味を込めて愚痴をこぼしながら俺たちは城の正面入り口へと駆け足で向かった。
「まだ出発してなかったんですね・・・」
「いらん心配を掛けさせないでくれ・・・」
城の入り口に辿り着くとそこにクローサとランロンの姿があった。出発した時間を過ぎても俺たちの声が聞こえると部下から報告を聞いたらしい。それで何事かと思った二人は城の入り口まで様子を見にきたとのこと。
「いやー、悪いな。本当だったら時間どおり出発するはずだったんだけど」
「俺とリーランは集合時間に間に合ったんだが、セルロがまぁ、その、なんというか寝過ごしたらしくてな。それで迎えに行ってたんだ」
「・・・ごめんなさい・・・」
瞳に涙をためながら上目遣いで謝るセルロ。普段の態度を見る限り、恐らく本人はまったく悪いと思っていないだろう。だが、涙目上目遣いはある特定の人物に多大なる影響を与える。
「いや、生きていれば失敗なんて何度でもするものさ。今回はその何度の中の一つだったという事だ。気にすることは無いと思うよ、セルロちゃん」
ものの見事に引っかかったランロンがスラスラと詭弁を吐く。きっと喋っている本人も何とも思わずにこの言葉を喋っているのだろう。
今回城に帰ってきた時に、クローサから一つ頼まれたことがある。それはセルロのわがままを出来れば治して欲しい、という内容だった。俺としては別に構わないが、わがままって治るものなのだろうか。
「ランロン、少し話がある」
「なんだ。ワタシは忙しいから手短に頼むぞ」
セルロを見ながらニヤニヤニタニタしていたランロンが、こちらを振り返ると同時に表情が一気に変わった。
「そんな時間がかかる話じゃない。とりあえずこっちに来い」
ランロンに向かって軽く手招きをして、他の三人と距離をとる。この状態で小声で話せばきっと聞こえないだろう。
「話っていうのはだな、あんまりセルロを甘やかさないで欲しいってことだ」
「甘やかしているつもりは無いんだがな。まあいい。しかし急になんでだ?」
ここはクローサから言われたとは言わない方がいいだろうな。
「いや、あんまり甘やかしたまま成長すると将来が大変だろ?だから早めの内に世間の厳しさってものをだな」
「成長ってなぁ。あの子は『あの事情』で永遠に育つことなんて無いはずだ。それをわかって言ってるのなら笑えんな」
『ある事情』。それはきっと父親から死霊術を受け甦った過去の事を言っているのだろう。なぜランロンが知っているのかはわからないが今の口ぶりからするときっと把握はしているだろう。
「それは・・・悪い、不用意に口にした。忘れてくれ」
「むしろ謝るべき相手はワタシではないんだろうけど、変わりに私が許そう」
「すまん、さっきのは建前でだな。実はクローサに頼まれたんだ」
すると、ランロンはさっきまでの不機嫌そうな顔を一気に青ざめさせ、口を開いた。
「なっ!?魔王ちゃんの頼みだったのか!?」
「あ、ああ。それがどうしたんだ?」
「いや、魔王ちゃんの命とあらばそれに従おう。セルロちゃんもかわいいけど、今は我が身がかわいいからな」
虚ろな目をしたまま歯をガチガチと鳴らし、体ごと震えるランロン。
「トシユキ・・・」
「なんだ」
「やっぱり魔王は魔王なんだな・・・」
そう言うとランロンは体の震えを無理やり押さえ込んでいた。お前、一晩の内に何を見たんだよ・・・。
「そ、そうか。ま、話というのはこれで以上だ。今後は甘やかしを控えてくれよ」
「あ、あぁ、善処する」
話が終わり、再び皆のところへ二人で戻った。
「何の話をしてたのですか?」
「この間の頼み事の話をしておいたんだ。ランロンに話を通さないと話しが進まなそうだったからな」
「それで・・・なるほど、わかりました」
どうやら納得してくれたようで、それ以降、クローサは深くは聞いてこようとしなかった。そのほうが助かるからいいけど。
「なぁ、トシユキ様。まだ出発出来ないのか?」
セルロとリーランが不満げな顔をしながら俺を待っていてくれた。
「あぁ、すまんな。話が意外と入り組んでしまって」
「でも、もう済んだんでしょ?じゃあ早速行こう!」
その言葉と同時に城の城門をくぐり、西の方角へリーランは走っていった。
「・・・私は魔法で進むけど、早くしないとリーランに追いつけないよ・・・?」
挑発的な態度で、俺にも走行を薦めるセルロ。
「だな。じゃ、クローサ、ランロン!行ってくる!」
「行ってらっしゃい。無事に帰ってきて下さいね」
「早めにセルロちゃんを連れて帰ってくるんだぞー!」
二人の声が少し遠くなる感覚を覚えながら、先に行ってしまったリーランに追いつくために足に一層強い力を込めて俺は走り出した。




