20 魔法について!
説明回です。
まだ弱い朝日に瞼を照らされ、安眠から目覚めた。目の前に広がるのは茶色の木目の天井ではなく、西洋風の模様が描かれた白い天井だ。そこでようやく以前の世界ではなく、今の異世界に居るという事を把握できた。
ゆっくりと起き上がり辺りを見渡す。白に統一されたシンプルな部屋だ。クローサが俺のために用意してくれた部屋で、最初は何も無い退屈な部屋だと思ったが、今となってはとてもすごしやすく感じている。
「さて、朝食でも食いに行くか」
少し早いが食堂のおばちゃんならもう起きているだろう。
大きくアクビをしながらベッドからとび降りて、入り口のドアに向かう。白のドアノブに手を掛け、ゆっくりと回し、廊下へと進む。この城の廊下はとても長く、直線的なつくりが多い。故に食堂への道もわかりやすく、方向音痴の俺も難なく辿り着ける程だ。
廊下を歩いていくとクローサの私室、通称王の間が見えてきた。その前を通ろうとするとなにやら中からゴソゴソと音がする。その音に気を取られていたら、クローサの部屋からクローサとランロンが出てきた。
「お、クローサにランロンじゃないか。おはよう」
「ふぇ・・・おふぁようございまふ・・・」
「・・・おはよう」
二人ともかなり眠そうで、クローサは若干言葉が喋れていないレベルになっていた。かわいい。
「眠いのか?」
「あ、ふぁい。きにょう結局朝になるまで仕事してて・・・」
「大変だったぞ・・・」
クローサは眠たげに瞼を懸命に擦っているが、ランロンは単純に疲れてる様子だった。そこは恐らく大人と子供の寝不足の違いだろう。
「今から食堂に行くけど一緒に行くか?」
「ふぁい!いきます!」
「ワタシは遠慮しておこう、邪魔するわけにも行かんしな」
結局ランロンはもう少し睡眠を取ってから行くとのことで、俺とクローサの二人で、食堂を目指す事になった。
「もう目は醒めたか?」
「お、おかげさまで・・・」
寝起きのところを俺に見られたのが少し恥ずかしかったらしく、しばらくの間クローサは顔を赤くしていた。
「そういえばクローサに聞きたいことがあったんだ」
「・・・?なんでしょうか?」
「この世界の魔法について教えて欲しいんだ」
「魔法、ですか?それならわたしよりセルロのほうが詳しいと思いますが・・・」
「あいつが俺に説明できると思うか?」
「あー・・・多分途中で飽きちゃいそうですね」
「そういうことだ」
この間のワーム討伐の件で、セルロが魔法を駆使してワームと戦っていた。リーランから話を聞いていたが、いざ実物を見てみるとあまりの美しさに感動を覚えた。そしてその日から俺は思っていた。俺も使えるようになりたい、と。
「という訳で教えてくれ」
「どんな訳か知りませんけど、取り合えず教えましょうか。えっと・・・どこから説明するべきなんでしょう。そうですね、やはり最初は基本の六魔法から教えましょうか」
「六魔法?」
「はい、この魔法は代表的な魔法ですね。火、水、風、土、そして人間族のみが使える光、それにわたし達魔族だけが扱える闇、の六つに分類されます。恐らくトシユキ様の権能は闇魔法ですね」
「『引力』と『斥力』か」
「この魔法はあんまり説明は要らないでしょうけど、その属性の性質が魔力を使って発現させる原始的な魔法です。これはセルロが得意な魔法ですね」
「なるほど、だから魔法が得意なんて言ってたんだな」
「そうですね、でも彼女にも扱えない魔法もあるんです。それは身体強化魔法、と呼ばれるものと憑依魔法と呼ばれるものです」
「あ、憑依魔法は聞いたことがあるぞ。確かランロンが使っていたはずだ」
それも対ワーム戦で見た魔法だが、セルロの魔法に負けず劣らず綺麗な魔法だった。
「へぇ、憑依魔法は限られた魔族にしか扱えないと聞いたのですが・・・それはいい事を聞きました」
クローサが怪しい笑みを浮かべ、何かを企んでいる。なんかスマン、ランロン。地雷踏んだかも。
「直接見たなら話は早いです。憑依魔法は大きな力を持った精霊の名を唱えることで発動する事が出来ます。しかし、それはその精霊に認められた者だけが使える魔法ですので使える人は少ないんです」
「なるほど。じゃあ身体強化魔法というのは?」
「そうですね、それについても説明しておきましょうか。えっとですね、まず一旦先程の六魔法の話に戻るのですが、六属性のいずれを使うにも魔力が必要なんです」
「それは俺たち魔族もなのか?」
「もちろんです。それで、その魔力の量が多ければ多いほど魔法を多く使えます。そして魔力の質が良ければ良いほど魔法の効果が上がります」
「へぇ、量と質も関係あるのか」
「そうですが、大抵は生まれ持ったものに依存するんですよ。量にしろ質にしろ、です。ここから話を戻しますね。身体強化魔法。これは質に関係無く、量をただ消費する魔法です」
「じゃあその分、他の魔法より扱いづらいのか?」
「そんなことは無いと思いますが、それも人によって意見が違いますね。これから向かってもらう予定の白虎の人達は潜在魔力が物凄く多いので、この魔法に長けていると聞きます」
「身体強化って例えば筋力増加とかか?」
「それもありますが、他にも新陳代謝が上がるとか肺活量が上がる等ですね。この魔法を極めている人だと瞬時に体の傷を治す事だって出来るそうですよ」
「すごいな、それって俺でも使えるのか?」
「さぁ、どうでしょう・・・未だにトシユキ様の潜在魔力は計り知れませんから」
「それは良い事なのか?」
「いや、良くも悪くもですけどね」
「何たる事だ・・・」
魔法の講釈を受けている内にいつの間にか食堂の入り口にまで辿り着いていた。やはり話をしながらだと時間が流れるのは早く感じるな。良い事だけど。
「あれ、着いちゃいましたね。それでは一旦話は終わって、朝食を食べましょうか」
「そうするか」
ガラス戸のようなつくりの食堂入り口の引き戸に手を掛けて、食堂の中でクローサが大きな声で挨拶をする。
「おはようございまーす」
その声に気づいた、やたらガタイのいい食堂のおばちゃんが、負けじと大きな声でクローサに挨拶を返す。
「あら、クローサじゃないか、おはよう。早起きできるようになったのかい?」
「いえ、昨日は結局朝まで仕事しちゃってて・・・」
「ダメだよ、夜更かしは。乙女の大敵さ。あんたはまだ若いんだからそこのところ気を使いなよ。気になる子も最近出来たんだろう?」
「お、おばちゃん!なんで知って・・・じゃなくて、そんな事言わないで下さいよ!」
「おや、なんでだい?・・・ってあんた居たのかい?えっと、トシユキだっけ?」
クローサの後ろに居た俺の存在に気づいたおばちゃんはまるで品定めするかのようにじっくりと俺を見た。
「そうです。ここでも何回かお世話になってます」
「へぇ、意外と礼儀はわかってるんだねぇ。知ってるよ、闇勇者ってやつなんだろ?」
「一応そうなってますね」
「男が一応なんて言葉使うんじゃないよ。もっと自信もって喋りな。そうすりゃもっと男前になれるよ」
「そういうもんなんですかね。そういえば、なんで俺が居る前でだと話ができないんです?」
「お、おばちゃん!」
「わかってるよ。あんた考えてもみな、年頃の乙女が自分の色恋沙汰を異性に聞かれたいとでも思うのかい?」
「あぁ、そういうことですね。納得しました」
「そういうことだよ」
クローサの恥ずかしがる顔を見て大体予想はついていたが、やはりそんな感じか。それにしても、クローサもちゃんと女の子してるようでなんか安心した。兄妹的な目線でどうしても見てしまうからな、素直に嬉しい気もする。
「さて、あんたたち、今日は何にするんだい?」
「そうですね・・・今日の日替わりのメインは何ですか?」
「今日はフューム貝で煮物でも作ろうかと思ってね」
「本当ですか!わたしあれ大好物なんです!」
「そうだったね。今新鮮なやつが来たから一番に食べさせてあげるよ、楽しみに待ってな。あんたはどうするんだい?」
「俺もクローサと同じものを」
「あいよ」
俺の言葉に返答したおばちゃんは厨房に駆け足で戻り、調理を始めた。しばらくすると、醤油のような香ばしい匂いとグツグツと煮込む音が聞こえた。きっと美味しい料理が運ばれてくるのだろう。楽しみだ。
その後、クローサと俺は運ばれてきた料理を食べて満足していた。そのまま腹休めをしていると、眠い眠いといいながら引きづられてるランロンと、そのランロンを引きずりながら歩いているリーランが食堂に訪れた。その背後にはフラフラとリーランの後を着いてきたセルロもいた。
「お、クローサにトシユキ様じゃないか。今日は二人とも早いね」
「俺は普通に早起きだけど、クローサは朝まで仕事だったらしい」
「へぇ、大変だねぇ」
「くっ、リーラン!いい加減放してくれ!」
「お前そろそろ仕事に慣れないといけないんだろ?ここでは睡眠時間はほとんど無いと思え」
「何を言っている!セルロちゃんは今まで眠っていたじゃないか!これは差別だ!」
「じゃあお前はぐっすり寝てもいいだろう。その分の仕事をセルロに寝ずにやってもらうがな」
「な!?そんな事セルロちゃんにやらせるな!それだったらワタシがやる!」
「じゃ万事解決だな。さて、メシ食うぞメシ」
「ぐぅ・・・まぁ確かに腹も減ったし頂こうか」
「あんた達、仲良いねぇ。今日は何にするんだい?」
「私はシブルドの塩焼きとフミルマのサラダを」
「ワタシはとりあえず日替わりをもらおうか」
「あいよ、ちょっとまってな。セルロちゃんは何にするんだい?」
「・・・いつもの・・・」
「セルロスペシャルだね、わかったよ」
そして、しばらくするとまたあの巨大なカレーが登場し、俺達は戦慄の眼差しでセルロの食事を見守った。その後、出発の準備に備えるため俺は自室に再び戻った。




