19 クローサ、キレる!
夕食を終えた俺たちは王の間へ辿り着いていた。王の間のドアを軽くノックする。
「・・・どうぞ」
少しの間があった後にクローサの返事が聞こえた。しかし、その声はどこと無く怒っているように聞こえる。皆の前で胸揉まれた発言なんてすれば普通はへこむだろう。
「おじゃまします」
軽く入室の挨拶をして、ドアノブに手を掛け捻る。ドアの向こうには食事を終えたクローサが書類の整理をしていた。
「これ何の書類なんだ?」
「これは基本的な必要経費や食事代、それと大浴場の運営費をまとめたものです」
この魔王城は相当な敷地面積であり、確かにそれらの経費をまとめる必要は感じられた。しかし、それを魔王自らがやるという点に人員不足というのがありありと感じられる。
「大変だな」
「いえ、いつもの事ですので」
どうにもクローサの態度がそっけない。さっきから会話をしているが言葉の中に冷たさが混じっている。やはり、さっきの事が原因なのだろうか。
「クローサ、まだ怒っているのか?」
「何の事ですか?」
やはり怒っている。いつもの優しさがまるで無く、無機質な返事ばかりが返ってくるだけで本当に悲しい。少しやりすぎたかもしれない。
「失礼します」
そこに軽いノック音と共に部屋に入ってきたのはリーランだった。完全に表情は仕事モードで、引き締まった顔が凛々しい顔をより一層そう感じさせる。
「書類整理のお手伝いをと、思ったのですが・・・」
「えぇ、今ちょうど皆さん揃っているのでここで次の指令を話しますね」
次なる目的地、白虎にての指令。それはどんなものなのか。
「と、言っても前回とほぼ同じです。優秀な部下の引き抜き、頭領との顔合わせ、それと追加でその頭領に伝言をお伝えして欲しいのです」
「伝言?」
もしや上の立場同士のお話でもあるんだろうか。まぁ内容までは聞かないけど。
「はい。伝言です。その役目はリーランにしてもらうのでトシユキ様とセルロは前回と同じ感じですね」
そうなのか。じゃあ今回も特別何かをするというわけではないんだな、よかったよかった。ん?そういえば。
「おい、セルロ」
「・・・ん、何・・・?」
「お前青龍で俺の事、交換決闘で差し出したよな」
「・・・・・・何の事・・・?」
「お前なぁ・・・」
「ちょっと待って下さい。どういうことですか?」
俺たちの会話を不自然な会話だと思ったクローサが目を光らせる。これでセルロが叱られるぞ。ざまあみろ。
「そんな勝負相手に不利じゃないですか!」
「はぁ!?」
予想もしていなかった答えがクローサの口から飛び出し、思わず驚きの声が出てしまった。しかし、どういうことだ?
「何で相手に不利なんだ?」
「トシユキ様に勝てる人などそうそういるとは思えませんが」
うっ、真顔で言われると反論しづらい・・・しかし、反論しないと自分が最強だと思ってる痛いナルシスト野郎だと思われてしまう。ここは無理にでも反論しておこう。
「俺だってそんな絶対の存在じゃないんだ。俺が勝つとも限らないだろ」
「それなら今、戦ってみるか?」
俺とクローサの会話に割って入ってきたのは、少し不機嫌になっているランロンだった。
「お前とワタシどちらが強いのかハッキリさせとこうじゃないか」
「おい、ランロン!」
「わかっている、リーラン。これに勝ったからといって青龍に戻るわけではない」
「しかし・・・」
リーランが不安げな表情で、こちらを見てくる。恐らくリーランはランロンの実力を加味した上で、こう言っているのだろう。確かに、ランロンは強い。ワーム戦でも見たがあの憑依魔法、それに身体能力、どれも俺が持っていないものだ。そこだけ見ると確かに俺はランロンに勝てないだろう。しかし、俺には『引力』『斥力』がある。不意打ちならいけるかもしれない。
「もしお前が勝ったとしたら様付けしてもいいぞ?」
何か前にもこんな展開あったな。まぁ結局その時は勇者が来てうやむやになったんだけど。
「もしかして今戦うんですか?」
クローサが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「もちろん。元々こいつは気に入らないんだ」
「ダメです」
きっぱりと言い切り、断言する。大体予想は付くが。
「今、闘いを始めたらまず大勢の皆さんに迷惑をかけます。理由としてはまず、第一に闘技場運営の関係者皆さんとかに迷惑がかかるからです。その他にはとりあえずランロンさんにはここの一員として来て貰ったのですからまず働いていたただかないと。それに、トシユキ様を付き合わせるなど言語道断です。明らかに無駄しかありません」
スラスラとなぜダメなのかを述べるクローサ。やはりこの娘は根が真面目なのだろう。委員長タイプの娘だ。ギャルゲやエロゲなら俺が一番攻略しないタイプだけどね。
「という訳だ。また今度暇があったらしようか」
「ぐっ・・・ここは魔王ちゃんに免じて許してやるか・・・」
心底悔しそうな顔をして歯を食いしばるランロン。そんなに俺を負かしたかったのか。
「あ、あとランロンさんは一応、と言ってはなんですが貴方はトシユキ様の配下なのでちゃんと様呼びして下さいね」
「なっ、なんだと!?」
いや、前からそう言ってるじゃん。何で、聞いてないぞそんな事!みたいな顔が出来るのか不思議なんだけど。
「くっ、こいつに様呼びするなんぞ・・・」
「では、予定より三倍の作業をして貰いますね。トシユキ様直属の配下では無いのなら遠慮は要りませんね?」
「なっ!?それはダメだ!」
「では選んで下さい。様呼びするか、それを断り過労死するか」
もう過労死は確定なのか。どれだけの作業をさせるつもりなのだろう、あの笑顔が恐い。
「・・・!わかった!様呼びすればいいんだな?」
何かを思いついたように顔を上げ、目を輝かせるランロン。
「・・・? えぇ、そうですよ?」
「じゃあそうするから労働三倍は勘弁してくれ!」
「それなら構いませんが・・・」
「よし、そうとなれば決まりだな!おい、貴様!」
そう言って俺の方角に指を刺す。まさかこいつの言ってる様って貴様って事か?なんつーとんちだ、一休さんかよ。
「・・・まさかトシユキ様にそんな無礼な態度を取るわけではないですよね?」
静かな怒りの声が聞こえた方向を見ると、クローサが怒りの表情で佇んでいた。これマジギレのやつじゃないですか。クローサさんめっちゃ顔恐いです。
「取るわけでは、無いですよね?」
リーランに詰め寄るように聞き、更に表情を憤怒に染めていく。
「い、いやっ!これはほんの冗談と言うか、何と言うかだな・・・」
クローサの予想外の怒りに戸惑い、ろくな言い訳が出てこないようだ。しかし、そんな粗末な言い訳でクローサの怒りが鎮まるわけが無く、結局俺に謝罪をしてきた。
「す、すまん・・・」
「すまんじゃなくて、すいませんでした、ですよ?」
「ひっ・・・!す、すいませんでした!」
「トシユキ様、彼女もここまで謝っているんですから許してくださいますよね?」
え、俺?俺は別に怒ってないんだが。まぁここでとやかく言っても仕方ない。ここは素直に受け入れておこう。
「まぁ良いだろう」
「良かったですね」
「う、嬉しいなぁ」
ランロンが半ば涙目なんだけど。自分より年下の子に泣かされるって結構悲惨だな。可哀想だから許してあげよう。
そんな話をしていたらセルロはいつの間にか寝ていた。リーランも半分寝かけている。かわいい。
「さて、クローサもう話す事はないのか?」
「あっ、はい。もうこんな時間だったんですか。すいません、時間を取らせてしまって」
「俺は別に構わないが、この二人はもう限界なようだぞ」
「フフッ、そうですね。セルロも寝顔だけ見るとかわいいんですけどね」
「普段からかわいいけどな」
真顔で言うランロン。またもスルーする。
「さて、では解散ということでいいか?」
「そうですね、伝える事は伝えましたしもう大丈夫でしょう」
「そうか、じゃあこの二人を連れて行くよ。ランロン手伝ってくれ」
「あ、あぁ。ちょっとワタシは魔王ちゃんと話があるから先に行っててくれ。そんな長くなる話ではない」
「そうか。わかった」
リーラン、セルロを背負って王の間を後にする。しかし二人とも軽いな、二人抱えているというのにまるで重みを感じない。恐らくだが一人は背丈のおかげで、もう一人は平坦なおかげだろう。二人目は本人の前で絶対言えないけどな。
さて、セルロは図書館だとしてリーランの部屋はどこだろう。とりあえず、セルロを送ってから聞いておこう。
「で、話ってなんですか?」
「まぁ直球で聞こう。魔王ちゃん、君はあいつに惚れてるな?」
「えっ!?あ、あのあいつって・・・?」
「先程まで我々と話をしていた奴だよ」
「と、トシユキ様ですか?」
「そうだ。惚れているのだろう?」
「ちがっ!そんなわけ無いじゃないですか!」
「じゃあ嫌いなのか?」
「そうではないですけど・・・わたしは魅力が無いですから・・・」
「は?何を言っているんだ君は。そんな大きなものを備え付けておきながらよく言うな」
「べ、別にこれは大きくなりたくてなったわけじゃっ!」
「あんな奴よりワタシと一緒にならないか?」
「・・・はい?」
「ワタシは女の子が好きだ。ワタシは女の子が大好きだ」
「そ、そうなんですか?」
「小さい女の子を見ると性的な興奮すら覚える」
「・・・話を終えていいですか」
「いや、ダメだ。ワタシはまだ主張し足りない」
王の間で長々と話を続けていたランロンは、話の途中をブチギレしたクローサによって途中で話を打ち切られ、その後、朝が明けるまで仕事を手伝わされた・・・らしい。




