18 大食漢現る!
大浴場を後にしてた俺はクローサ、セルロ、ランロンと四人で食堂に向かっていた。
「次に行く所って白虎なんだろ?」
青龍へ向かった次は白虎に向かう、といった予定らしい。青龍は山岳地帯というか、とにかく山道坂道登りっぱなしだったからな。あんまり疲れないところに行きたいところなんだが。
「ええ、そうですよ。どうかしましたか?」
俺の質問に律儀に答えてくれるクローサ。風呂上りなのでわずかに頬に赤みがあり、なんとも色っぽい。
「いや、どんなところかなと思って」
「そうですね、一言で言うならばものすごく暑いですね」
「そういえば他のやつらも言っていたな。そんなにか?」
今の魔界の季節は元の世界で言うところの夏らしいが青龍ではさほど暑さを感じられなかった。
「はい、二度と行きたくはないと思いましたね。仕事でも行きたくないです」
まぁ、確かにクローサって病弱そうに見えるというか、そんなに体が強いようには見えないしな。
「そ、そうなのか。じゃあ朱雀、玄武はどんな環境なんだ?」
「朱雀は比較的過ごしやすいですよ。主にリゾート地として旅行に行く方が多いですが、どうにも天災が多くて台風、地震、大豪雨なんてのもついこの間発生していましたね。それを除けば非常に棲みやすい環境です」
なんか日本の良いところと悪いところを一箇所にまとめましたみたいな場所だな。気になる気もするが天災に出くわすなんて事になったら大変だしやっぱり不安だな。
「それじゃあ玄武はどのような感じなんだ?」
クローサは少し考え、困った表情で口を開いた。
「玄武はなんと言いましょうか、少し変わった所なんです」
「変わった?」
「はい、玄武は科学が発達していて中央にもとても貢献してくれる所なんですが・・・」
クローサは小さく口を動かしてはいるのだが肝心の言葉が出ていない。まるで、何と言っていいのか分からないといった様子だ。
「科学ね、もしかして怪しい兵器でも造ってるとかか?」
笑いながら冗談を言ったつもりがその一言でクローサの表情をより曇らせてしまった。
「その可能性も、無いわけではないんです。むしろ、そう考えてもいいぐらいの怪しさがあの地域にはあるんです・・・」
玄武が何かよからぬことを考えていないか。そういった不安な気持ちがクローサにはあるらしい。
「最近どの地域も近況報告にも来ないのですが、他の地域と違って玄武は報告をしに来ないというよりは何か隠しているような素振りが見受けられるんです」
玄武が何か隠しているのではないか、隠し事をして何をするつもりなのか、それら全てが杞憂にすめばいいとクローサは言ったが不安な気持ちは隠しきれず、表情に出てしまっていた。
「そう不安そうな表情をするなよ」
「え?」
「どうせ俺が全部見て周るんだからそん時に隠し事があるなら暴いてやるさ」
「そ、そうですよね!すみません、こんな話をしてしまって・・・」
余計な事を話したと言ってクローサは謝罪し、この場の空気を変えようと笑顔を作った。
「で、では早く向かいましょうかトシユキ様!」
そう言うと俺の手を取って食堂に向かい駆け出した。
「お、おい!そんな急がなくてもいいだろ!」
しかし、クローサの耳には届いていないようだ。こちらの言葉に何も反応していない。
食堂に駆け足で向かっている俺達を見てランロンとセルロが何か言っていたが距離はどんどん離れていき二人の声が聞こえなくなった。
「いやー甘酸っぱいねー。あんな時期がお姉さんにもあったんだよ?」
「・・・別に聞いてない・・・」
「そう言わずにさー。でもあれって魔王ちゃん絶対あいつの事好きだよね?」
「・・・それは城内では有名・・・」
「そうなんだ。でも、それに気づかないあいつもあいつだよねー」
「・・・鈍感な人だから・・・」
「確かにそうだね。よし、ワタシたちも食堂に向かおうか」
「・・・そうする・・・」
クローサが駆け足ーーーというかもはや全力疾走だったのだが、他の二人を置いて先に二人で食堂に着いてしまった。
「ハァ、ハァ、おまっ、早っ、ぎて、ちょ、後で言うわ、ハァ」
「だらしないですねー。この位付いてこれないとこの先どうするんですか?」
疲れた俺を半ば引きずるようにつれて来たクローサは、何も無かったかのように会話をしていた。
食堂には人が誰もおらず、カウンターにおばちゃんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「おばちゃん、まだ夕飯あります?」
「あるよ。日替わり定食だけどね」
「じゃあそれを二つお願いしますね」
「あいよー。しかし、もう二人がそんな仲になっていたとはねぇ、おばちゃん驚きだよ」
ニヤニヤしながら俺たちのほうを見ていうおばちゃん。それを聞いたクローサが顔を真っ赤にさせ慌てて否定している。
「そ、そそそ、そんな仲な訳無いじゃないですか!だ、大体そんな仲ってどんな仲なんですか!?」
「男女で特別な仲って言ったらそれはもうあれしかないだろ?」
「あ、あれって?」
「恋人関係しかないじゃないか、まったく。二人っきりで行動してればそういう風に見られちまうよ」
「そんな事あるはず無いじゃないですか!そ、そもそもこんな人タイプでも何でも無いんですからねっ!」
「そこまで言われると普通にヘコむわ・・・」
「あっ!いえ、そのっ、違うんです!これは何というかあくまで例え話で・・・」
「あんたは好みじゃないんだとさ。冷たいねぇ」
「おばちゃん!もう余計な事言わなくていいからっ!」
アハハ、ごめんよと豪快に笑いながら謝るおばちゃん。クローサは耳まで赤くしながらしばらくおばちゃんを睨んでいたが、しばらくして怒りが治まったのかコホンと咳払いをして深呼吸をしていた。
「あの、すいません。その、いつもこうやって皆にからかわれるんです」
「まぁ、それはリーランの件もあったからそうなんだろうなとは思ったんだがな」
「リーランの件?」
「あの最初の風呂の日だよ」
いまいち思い出せなかったクローサだが最初の風呂に入ったとき何をされたかを思い出し、再び顔を赤くした。
「ナンノコトデスカ?」
「え、言っちゃっていいの?おばちゃんがいる前で?」
「だっ、ダメです!絶対言わないで下さい!あの人、口がすごく軽いんです!誰に言いふらすか分かったもんじゃありません!」
「でも何されたか覚えてないんでしょ?じゃあこの場で言って思い出したほうが良いんじゃない?」
「良いです!もう思い出しました!もう結構です!」
「じゃあ何されたんだっけ?」
「・・・・・・揉まれました」
「何を?」
「それは・・・・・・です」
「ごめん聞こえなかった。もう一回言って?」
「・・・・・っぱいです」
「声が小さくて聞こえないよ。もっと大きい声で言ってくれないと」
「おっぱいを貴方におもいっきり揉まれました!!」
クローサが食堂ホール内に反響するくらいの大声でそう言った途端、おばちゃんがわざとらしく食器を落とす音が聞こえた。
「あ、あんたたちやっぱりそういう関係だったのかい」
「そうです!わたしはこの人に揉まれました!権限を使ってわたしの人権を奪い胸を揉んだんです!」
おばちゃんの小芝居をもはや認め、大声のまま発言するクローサ。
「・・・そんな関係だったんだ・・・」
「まぁ、好みは人それぞれだしね・・・」
そこに食堂に到着した二人が現れた。クローサの悲痛な叫びはどうやらこの二人にも聞こえていたらしい。
「・・・廊下まで聞こえてきたよ・・・」
だそうです。
「なんでこんな事に・・・」
クローサが目の光を失い、ひざから崩れ落ちる。というか、最後のは自爆じゃないか?
「はい、日替わり定食一人前できたよ」
そんなクローサを気にしない様子で完成した食事を差し出すおばちゃん。あんたも関わったんだから何かしら声掛けてあげてもいいじゃん。何で完全スルーなの?
「ありがとう、おばちゃん・・・わたし自室で食べますね・・・」
おぼんを持ってフラフラとした様子で食堂から出て行く。大丈夫かあれ。
「あんたも出来たからアツアツのうちに食べな。それが一番美味いんだからね」
「クローサあれ良いんですか?フラフラしてましたけど」
「良いんだよ。大体毎日あんなもんなんだよ」
毎日こんな事されるなんて大変だな、俺もした事あるけど。そもそもあの子魔王なんだよね?部下からの扱いひどくね?俺が言うのもなんだけど。
「・・・むしろ、いつもどおり・・・」
「そうなのか。大変だなクローサも」
「お前が言うのか」
ランロンにツッコミを入れられた。なんかこいつにつっこまれるのは釈然としないが言ってる事は大体合ってるからいいとしよう。
「・・・私いつもの・・・」
「あいよ。そっちの嬢ちゃんは何にするんだい?」
「え、えっとなにがあるんだ?」
「セルロちゃんは取っておいた食材があるから作れたけど、その他に作れるものって言ったら日替わり定食だけだね」
「そうか、じゃあそれを頼む」
「あいよ」
リーランが頼むと軽く返事をして再び厨房へ調理に入っていった。恐らく俺の料理がそろそろ出来上がるのだろう。ほのかに肉を焼いたような良い香りが漂ってきた。
「夕飯を食べ終わったら魔王ちゃんのところへ行くのだろう?」
「そうらしいな。今後の事を詳しく決めるらしい」
「・・・食べたら眠くなる・・・」
「お前はいつでも眠そうにしてるだろ」
三人でくだらない雑談をしているとおばちゃんが俺たちのいるテーブルに料理を運んできた。
「あいよ、日替わり定食二人前とセルロスペシャルね」
そう言って運ばれてきたのは、一つは魚のような生き物を焼いたわかりやすい典型的な定食だった。しかし、もう一つセルロスペシャルといって運ばれてきたのはパッと見て大体四人前ほどはある大きなカレーだった。
「・・・ありがと、おばちゃん・・・」
「いや~、セルロちゃんの食べっぷりは見てて気持ちがいいからね。おばちゃんいつでも作ってあげるよ」
「な、なんだこれは・・・」
「セルロちゃん見た目によらず結構食べるんだな・・・」
どう考えても結構の度を越えている。その小さい体にその量をどう収める気なのか疑問だ。しかし、その大量のカレーを大きめのスプーンで掬いあげて次々と口に放り込んでいる。
「・・・おいしい・・・」
「何でこの量をくえるんだこいつ・・・」
「さ、さすがセルロちゃん・・・」
その食いっぷりに若干俺たちは引きつつ、その様子を見ていたおばちゃんは満面の笑みで眺めていた。
セルロはその大量のカレーを五分もしないうちに平らげていた。俺たちが定食を食べ終わるったのはその約10分後でセルロは待っている間にほとんどウトウトしてしまっていた。その後、眠たげなセルロを引きずりながら俺たちはクローサの元へ向かった。




