16 中央部に帰還!
なんだかんだ言って一週間経たず、二日目にもう一話出来上がりました。
眩しい光を瞼に感じ、それを朝日と理解して俺は目をゆっくりと開けた。
「もう朝か、見張りの途中で寝ていたのか」
自分から見張りを申し出ておきながら途中で寝てしまうとはなんとも不甲斐ない。意識の覚醒に伴い、次第にぼやけていた視界がくっきりと浮かび上がってきた。そこには、ワームをせわしなくほお張る三人の女性の姿があった。しかし、その食い方には女性の品性とは程遠いものが感じられた。
「ふぁ、ふぉひゆひさま。ふぉはほうほはいはふ」
こちらに気づいたリーランがもはや人の言語ではない言葉を口にしながら語りかけてきた。
「口に物を入れながら喋るな、早く飲み込め」
「ふぁい」
なんともいえない返事をしながら咀嚼を続け、口内の食べ物を徐々に喉の奥に通し飲み込んでいた。
「で、お前ら何を食ってるんだ?」
「昨日ランロンに討伐してもらったワーム」
「・・・うまい・・・」
「いやーセルロちゃんが喜んでくれてよかったよー。お姉さん頑張った甲斐があったなぁ」
昨日のワームといえば確かかなり巨大なやつだったはず。しかし、三人の目の前にはおよそ一人前程度の肉の残骸しかない。
「・・・お前らもしかして、ほとんど食ったの?」
「いやぁ、美味かったもんでつい」
「・・・まだあるから大丈夫・・・」
「ま、育ち盛りだから気にする事ないよ。セルロちゃん」
こいつら・・・俺が寝てる隙にほとんど食いやがったな・・・かなり楽しみにしてたのに・・・
「ま、残してるだけでもよしとするか。それじゃ、いただきます」
目の前にある焼けたワームの肉をつかみ、口の中に運ぶ。味はあっさりしており、油や脂肪分を感じさせない舌触り。全身を使って動いているからなのか程よく引き締まり、鶏のササミのような歯ごたえ。血合い肉なので若干緑色は残っているがそれを気にさせない充分な旨味。
「あーやっぱり美味いなぁ」
「だよねー」
「・・・飽きない美味しさ・・・」
「確かに美味だ」
その美味をもっと味わいたかったが、一人前程度の量しかないのですぐに食べ終わってしまった。
「さて、朝飯も済ませたしそろそろ出発の準備するか」
「だね。今から出たとしたら夜になる前には着くと思う」
「・・・休みたい・・・」
「少し腹休めしてから行こう。食後に急に動くのは良くないと聞いたことがあるからな」
「本音は?」
「セルロちゃんが休みたいと言っているからだ」
本音を隠そうともせず、断言するランロン。しかし、これ以上セルロを甘やかすのは本人にとっても良くない。そうじゃなくても最近わがままが増えているのだからな。
「ダメだ、今日中に出ないとまた野営することになる。早く中央に向かわないと間に合わない」
すると、珍しく怒った表情でセルロに向かってリーランが言う。
「・・・別に私は構わない・・・」
「今は団体で動いているんだ、お前の意思は聞いていない」
「・・・それは、貴方の都合じゃないの・・・?」
「トシユキ様は行こうと言ったんだ、私たちはそれに合わせる必要がある」
「・・・それは彼の意思で、全体の意思じゃない・・・」
お互いの意見を静かに述べる。だが、言葉に宿る意思は激しく、お互い譲らずぶつかり合っていた。いつもはあんなに仲が良い二人がこんな風に喧嘩をするとは思えなかった。セルロを増長させたある意味原因とも言えるランロンは展開についていけずひたすらにオロオロしていた。
「お、おい二人とも喧嘩するな」
「ランロンは黙ってて、こいつには一言言わなきゃいけないんだ」
「・・・それはこっちのセリフ・・・」
ランロンの意見をまるで聞かずひたすら言い合いを続ける二人。二人とも段々とヒートアップしていき、リーランは大声を出し始めた。
「お前はいつもそうだっ!自分本位で話を進め、それでいいと思っている!」
「・・・話がすり替わりすぎ、都合が悪くなると自分に有利な話をしたがる。どっちが自分本位なの・・・?」
「このっ!」
セルロの挑発的な物言いに怒り、己の右腕を振り上げた瞬間。
「やめろっ!」
俺は自然に二人の間に割って入り、リーランの平手打ちを受けた。
「二人とも何をしてるんだ!こんな事してる場合じゃないだろ!」
そう言うとハッと我に返る二人。自分達が今まで何をしていたか気づいたようだ。
「ご、ごめんトシユキ様・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」
無駄な言い合いに俺を巻き込み、さらに傷つけてしまった事を詫びるリーラン。それに気づいたセルロも続いて謝る。
「俺に謝るより、相手に謝れ」
ヒリヒリする頬を気にしない様子のように装い、お互いの謝罪を促す。
「セルロごめん、言い過ぎたよ」
「・・・私も。ごめん・・・」
「じゃ仲直りの握手をして、元通りだな」
申し訳なさそうな顔をする二人に喧嘩の後の対処を教え、仲直りをさせる。
「これで元通り、だろ?」
「そうだな」
「・・・うん・・・」
「よし、じゃ出発の準備するか」
そういって二手に分かれ、出発の準備をセルロとリーランに、テントの片付けを俺とランロンでするという事になってしテントの片付けに動こうとするとランロンが唖然とした表情で口を開いた。
「す、すごいな。あの二人をよく止めれたな・・・」
「いや、なんというか体が自然に動いたというか」
「それでもすごいぞ・・・」
喧嘩を止める際のダメージは軽くなかったけどな。リーランどれほどの力こめてビンタしたんだ。
「おーい、こっちは片付けたぞー」
遠くからリーランの声が聞こえる、どうやら出発の準備はできたようだな。あとはテントの片付けだけだ。
「ランロンそっち終わったか?」
「もう少しで終わるぞ」
こちらでも作業を二つに分け、ようやく終わりの兆しが見えてきた。二人が喧嘩していた時間の分を取り戻そうと急いで取り掛かった。
「よし、あとは骨組みを集めて終わりか」
「布のやつそこにまとめて置いといたぞ」
「お、ありがと」
ふう、骨組みも結構な数だったな。だが、これで終了だ。荷物をまとめてあっちと合流するか。
「トシユキ様、片付け終わった?」
「終わったよ、じゃ出発するか」
色々問題が起きたものの何とか出発できた。だが、ここからの道のりの大変さを思い出して再び俺は頭を抱えた。
「な、なんとか夜になる前に着いたな・・・」
「途中急いだからね、てか大丈夫?」
「・・・体力無い・・・」
「何でこんなに疲れてるんだ?こいつ」
俺たちがようやく着いたのは中央部の所謂城下町にあたる市民街だった。その頃には夕方が過ぎあたりが薄暗くなり夜になりかけていた。ギリギリ着いたのはいいがここから更に城を目指さないといけないということに憂鬱な気分を隠せない。
「ここまで来たんだし、あと少し頑張ろう」
リーランが疲れきった俺の体に励ましをくれた。前の世界で女の子なんてまったく縁の無かった俺には強壮薬以上にやる気と力をくれた。
「ありがとう、リーラン。しかし、ここの街ってこんなに賑わっていたか?」
以前青龍に向かった時は活気がまるで無く、閑散とした様子でここまでの賑わいや人が居なかったはずだ。
「あー、あの時は朝っていうのもあったけど、そろそろあの子の誕生日が近いからね」
「あの子?」
「クローサだよ」
なるほど、領主の生誕祭となれば活気があってもおかしくない。なにより、商人にとっては儲け時以外の何でもないからな。
「クローサって誰の事だ?」
街の様子をキョロキョロとした様子で伺いながら、質問するランロン。きっと青龍ではこのような祭りごとは無かったのだろう、物珍しそうに周りを見ている。
「クローサっていうのは私の上司の魔王様のことさ」
「へぇー、って魔王!?」
魔王と聞いた途端、ランロンの体がビクリと跳ねた。
「ま、まま、魔王ってまさかあの恐ろしい人じゃないよな・・・」
「もしかしてお前先代魔王様の事言ってるのか?」
「え?先代?」
どうやら聞くところによると、ランロンは以前青龍に視察に来た先代魔王のことを言っているらしかった。そこで父親をボコボコにされているところを目の当たりにした幼いランロンはそれ以来魔王というのは恐怖の象徴でしかない存在になった。
「その時の恐ろしさといったら、もう・・・」
「確かにあの人は厳しい人だったけど、優しいところもあったよな?」
「・・・あの人は恐い・・・」
セルロもどうやらランロンと同じように感じていたらしい。まぁ、普通親がボコボコにされているところを見たら恐怖するよな。それにランロンのお父さん厳格そうだったし、そんな父がボコボコにされてたらそりゃ恐いだろう。
「・・・ま、今代の魔王様は恐くもなんとも無いから大丈夫だろ」
「確かにな、むしろ愛らしさのほうが上回っていると俺は思う」
「そ、それでも不安だ・・」
賑わった市民街と逆にどんどん気分が沈んでいくランロン。こんな状態でクローサに会わせるわけにもいかないし、なによりこっちの気分も落ち込んでしまうような気がする。
「・・・リーランどうにか不安を晴らせないか?」
「うーん、あ、そうだ」
何か思いついたようで、ランロンの耳元に一言つぶやいた途端。
「本当かっ!?」
「うん、お前の好みはわからないけど恐らく範囲内だと思う」
「よし、行こう!今すぐにでも!」
一体何を吹き込んだんだリーラン・・・なんかこっちのほうが不安になっきたぞ。
「おい、あいつになんて言ったんだ?」
「特別な事は何も。ただ、魔王様はお前好みの女の子かもしれないぞって言ったら元気になった」
「なるほどね・・・」
確かにあの見た目は健全な俺から見てもかわいいと思うし幼い印象もややある。なによりあのお胸様が俺としては最大のウィークポイントだ。
「おい!早く行くぞ!」
ウキウキとした様子でせわしなく動き回るランロン。こいつはこいつで欲望に忠実すぎるんだよな、普段の凛とした態度がまるで無い。それがなければこいつも充分かわいいのに、もったいない。
「・・・行くなら早く行こう・・・」
「あぁ!セルロちゃん!案内してくれ!」
興奮状態のままセルロと二人で城に向かって走り去ってしまった。市民街に二人残された俺たちは、ゆっくりと城に向かい歩を進めた。
次話こそ来週金曜日、6月20日予定です




