12 勇者来襲!
物置のような部屋に放置されてしばらく経った。縛られているのもあるし固い床のせいでまったく寝付けない。こんな状態で決闘してはたして大丈夫なのか、それにあの二人も仲間である俺を白々しくも見捨てていった。
「はぁ、どうしてこうなったんだ・・・」
どうしてと言われると恐らく、「風呂を覗いた挙句、胸を揉んだからだ」と正当な理由が帰ってきそうだがそれにしたって一晩中はつらい。
最悪の環境で眠気など起きるはずもなく、しばらく横になってぼーっとしていると――――――扉の奥から悲鳴のようなものが聞こえた。
「なんだ今の悲鳴は!?」
その直後、部屋の戸が乱暴に開け放たれ息を荒くしたランロンがそこにいた。
「お、おいっ!勇者がこの村を襲撃している!この土地はどうしても人手が足りない!お前も戦いに協力しろ!」
勇者?勇者ってあの人間側の?
「勇者ってあんまり魔界に来ないんじゃないのか?」
「青龍は東側だから人間界に一番近いんだ。だから狙われやすいんだよ!」
なるほど、人間界ってそういえば魔界の東側にあるんだっけか。
「難しい顔してないで早く来い!死人は出したくないんだ!」
「わ、わかった。わかったから怒るな。」
「じゃ早く来い!みんなも戦ってるんだからな!」
そう言ってランロンは外の方へ向かって走っていった。確かに奥のほうから色々な金属音や悲鳴などが聞こえる。早く他の人たちを助けに行かないと。
「ここの屋敷金目のものがありそうだな。」
いざ向かおうとした瞬間、知らない若い男の声がした。玄関の方に目をやると金髪にピアスといったどう見てもチャラ男の外見の男が玄関を物色している。
「あ?誰だお前、ここの奴か?」
目を合わせてしまった・・・いや、絶対こいつ雑魚だって。見た目から雑魚臭ハンパなくするし、どう良く見積もっても噛ませがいいとこじゃん。
「なんだその舐めくさった目は?お前俺が勇者パーティの一員だって知らないのか?死にたくなかったら命乞いをしろ。」
なんでこいつわざわざ自分から小物フラグ建てたんだよ。馬鹿か?
「おい、黙ってないで何とか言ってみろよ!」
「うるせぇぞ雑魚。口ばっか動かさないでかかってこいや。それとも、俺が恐いのか?」
「んだとてめぇ!劣等種がイキガってんじゃねぇぞ!ファイヤーボール!死ね!」
俺の挑発にキレた金髪が拳サイズの炎の魔法を撃ってきた。ちょっと煽っただけでこのキレよう、かなり扱いやすい馬鹿だな。
「【斥力】」
俺の能力で相手の顔面にお返ししてやった。まぁ恐らく何をされたかわからんだろうな。
「て、てめぇいま何しやがった!?」
「やっぱりわからないか。所詮『劣等種』だな、理解も遅い。」
「れ、劣等種だとぉ!お前ら魔人に言われたくないっつの!」
「じゃお前ら人間が上だと証明してみろよ。もう一発撃ったら何かわかるかもよ、『劣等種』君?」
「てめぇぇぇぇ!ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅ!ふぁいやああああぼおおおおおおる!」
今度はバランスボールほどの大きさの炎を生み出し、俺に向かって放る。だが、俺の【斥力】は質量など関係なく弾く。
「【火の玉に斥力】と、【あいつの体に引力】」
それぞれ対象の物体を指名し、『火の玉』に当たりながら『あいつの体』がこちらに向かう形になった。
「ぐぁぁぁ!熱いいいいいい!」
「うるせぇぞ、静かにしろ。死にたいのか?」
焼けながら近くまで来た金髪の胸倉をつかんでドスをきかせた声で話すと、焼け焦げたその体をビクッと跳ねさせ大人しくなった。
「とりあえず、お前らのパーティの数とその攻撃方法を教えろ。」
「あ、ああ。俺の他に後四人いる。全員で五人のパーティだ。」
「攻撃方法は?」
「一人が近接、二人が魔法、勇者が剣での攻撃だ。た、頼む殺さないでくれ!」
「近接と魔法はいいとして勇者がどう出るか、だな。」
「なぁ、教えたんだから見逃してくれよ!」
「ん?確かに死にたいかなんて脅したが、殺さないとは言ってないぞ?」
「な、なんだと!話が違うじゃねぇか!」
「そもそもそんな話はしていない。だが、殺しはしない。今はな・・・」
そう言って頭を思いっきり殴り、気絶させた。後は俺を縛ってた縄で拘束してこの部屋に幽閉しておこう。
「よし、勇者パーティをぶっ潰しに行くか。」
そう言って俺はみんなが戦っている場所に向かった。
「くそっ!こいつ早過ぎる!剣があたりもしない!」
「・・・こっちも二人相手はキツい・・・」
「こちらは勇者を相手にしてるんだ。グダグダ言わず戦ってくれ。」
屋敷の前でそれぞれが勇者パーティの相手をしていた。
リーランが近接の拳闘士、セルロが魔法使いの二人、ランロンが勇者をそれぞれ相手していた。
「誰だお前?」
「「なんか地味なのが来ましたわね。」」
「ほう、新しい奴か。こいつが終わったら相手してやる。」
勇者パーティが俺を見て喋りだす。拳闘士の奴は坊主で男ってのはわかる、魔法使いは二人の緑髪の女だ・・・双子か?あと勇者だが、こいつ気持ち悪いな。笑いながら戦ってやがる。
「トシユキ様!」
「・・・今まで寝てたの・・・?」
「!遅いぞ、何をしていた!」
「あー、あいつらの仲間を相手してた。とりあえず無力化はしといたぞ。」
俺がそう言った瞬間、勇者パーティの目の色が変わった。
「・・・まさかトモノリがやられたのか?」
「「そんなこと彼に限ってありえませんわ。」」
「油断していれば誰だってそうなる。あいつはそういう面も多かった。」
あの金髪、トモノリって名前だったんだ。確かに油断してたにはしてたけどそれが原因ではないんだけどな。
「とりあえず俺が勇者の相手をする。ランロンは魔法使いの方に行ってくれ。」
「わかった!死ぬなよ!」
乱暴に言い放つとセルロの方に加勢しに行った。
「お前が僕の相手をする?随分と大きく出たじゃないか、勇者であるこの僕に勝てるのか?」
「俺も闇勇者なんでね、お前こそ勝てるのか?闇勇者に。」
「闇勇者だと?嘘をつけ、そんなものは御伽話でしか聞いたことがない。恐ろしい魔人だと聞いたがお前がそれなら余裕で勝てるな。」
「ま、そう思うならそう思ってな。」
「そうするさ、僕がお前を殺すことには変わりがないんだからなっ!」
そう言うと勢い良く俺の懐に飛び込んで剣を振る勇者。あ、あぶねー、ギリギリで避けれて良かった。
「おい!トシユキ!これを使え!」
ランロンが魔法使いの片割れを相手しながら、一本の剣を放り投げた。
「うちで造った特製の剣だ!頑丈だから多少雑に扱っても構わん!」
「なるほど、鍛冶場の部分で造っていたのはこれか・・・サンキューな。」
日本刀のようなデザインの剣・・・いや、刀って感じだな。武器があるだけで大分マシに戦えるだろう。素人だけど。
「随分貧弱そうな刀剣だな、ひ弱そうなお前にはお似合いだ。」
そんな安い挑発を言いながら剣を打ち込んでくる。今まで穀つぶしやら親泣かせやらくそニートなどと呼ばれていた俺に死角はない。
「【斥力】」
とりあえず距離をとっておかないといずれ押し負ける、徐々に近づいて一気に【引力】で詰める!
「!?なんだ今のは!な、何をした!」
おーおーさっきまで自信満々で攻撃してたのに、予想外のことが起きて慌ててやがる。
「不可思議な術を使うな、お前。上位風魔法か?いや、土魔法の可能性もあるな。」
「あーそうそう、風だよ風。俺の得意魔法だからなー。」
「ふんっ!やはりそうか。芸の無い事だ、以前にもそんな輩を見たが他愛ない者だった。」
失いかけていた自信を再び取り戻したようだが、正解は風でも土でもないんだよな。ま、気づいてないならそれでいいか。
「そうとわかれば対策などいくらでも出来るんだっ!僕に勝てる奴なんて居ないんだよ!」
またも剣を激しく打ち込み叫ぶ勇者。この距離なら、剣をずらして引っ張ればこいつ倒せるんじゃないか?ふむ、意外といい案かもしれないな。とりあえずやってみよう。
「どうした?手も足も出ないのか?このままだと負けてしまうぞ!いいのか!?」
「あー、うるせぇな。」
そう言って剣の軌道をずらし、勇者の胸に向けて一直線上に構える。
「【引力】」
その言葉を切っ掛けに勇者の体がこちらに近づき、刀に勇者の体が突き刺さった。
「ガハッ!」
大量の吐血と共に嗚咽を漏らす勇者。恐らく致命傷だろう、血が胸から際限なく溢れてくる。銀色の鎧が口内から出続ける出血により朱に染まっていく。
「な、何が風、魔法だ、そんなもんじゃ、ねぇじゃ、ねぇか。」
「お前その怪我でよく喋れるな、素直に感心するよ。そんじゃ、トドメ刺しとくか。」
俺は手にある日本刀を思いっきり振りかぶり、首めがけて刀を振った。
どすっ、と物体が落ちる音を聞き、初めて人を殺したという実感が沸いた。
「それじゃあっちの様子も見てきますか。」
だが、殺人を気にするそぶりを見せぬまま彼は仲間の元へと向かった。闇勇者として。
今回遅くなりました。学生の身分なので更新が遅くなることもありますが、ご了承下さい。




