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02 Revolution Calling-1

■6月5日


 日曜日の午後3時。

 ニコはパメラと二人で、型落ちのトヨタ・カローラで買い物に来ていた。

 礼拝帰りの客もとっくに引けて、マーケットが落ち着いてくる時間だ。

「だいぶ運転も慣れてきたんじゃない?」

「ありがとう」


 パメラはちょくちょくニコの助手席に座りたがった。運転についても、周りの親よりも丁寧に教えているほうだろう。

 ニコはパメラのことを少し過保護過ぎると思っていたけれど、しっかりと愛情も感じている。


 二人が車を降りると、マーケットの西側の入口で、若い男女がもめていた。

「だから、やだっつってんじゃん!」 女がヒステリックに叫ぶ。革ジャンの男がゴミ箱を蹴飛ばす。

 男は落ち着きなく、肩を何度もしゃくっていた。

 それを見たパメラは、まるで水たまりでも避けるように、歩調を変えず遠回りする。さりげなくニコの左手側に移り、視線を切る。


「大丈夫よ、すぐに警察(シェリフ)が来るわ」

「わかってるよ」

 ああいう輩がうろついているのは初めてのことではないけれど、やはり緊張はしてしまう。

 ニコは母の慣れた態度に感心しながら、そのとき初めて、これからは自分が逆に母を守らなければいけない年齢になったことを意識した。


 久しぶりの買い物だ、買うものは色々あるが、あれのせいで手早く済ませようという気持ちがある。どうせ内容はいつもと大差ない。冷凍のブロック肉とシリアル、そしてリンゴとオレンジ、ナッツ。安ワインとテキーラ。

「もう少し慣れたら、一人で運転してきていいかな?」

「ええ。もしそうしてくれるのなら、楽になるわね」

 山盛りのカートを押してカローラに戻る。


 駐車場でカローラに乗ろうとすると、陰に一人の女がしゃがんでいた。

 ジーンズに薄手のパーカーを羽織り、走ってきたのか、肩で息をしている。

 こちらの足音に気付いたのか顔をあげると、何かに迷ったような目つきで二人を見つめる。


「あのさ――」

 パメラが声をかけようとすると、女は首を振って焦ったように「黙って(ハッシュ)」と言った。

 それだけでパメラもニコも面倒ごとだとすぐに察した。


 タイミング悪く、さっきの男がマーケットの入口から出てくるのが見えた。


 パメラは素早くキーを開けると、「乗って」と一言。

 女は一瞬だけ躊躇したが、すぐにカローラの後部座席に乗り込む。


「そうじゃないわ、こっちよ」

 パメラは後部座席のフットウェルに彼女を押し込むと、カートの買い物袋をどかどかとその上に置いた。オレンジがこぼれるのも気にせずに。

 エンジンをかける。窓をあけ、だるそうに肘をかける。


「ニコ、カートを戻してきてくれる? もしそれまでに揉めてるのが見えたなら、買い忘れがあったふりをして、店に戻りなさい」

「わかったよ」


 男は駐車場に止まっていた車を順に覗き込んでいた。パメラのカローラにも近づいていたが、女には気づかずにそのまま去っていった。

 ニコが助手席に戻ると、パメラはのろのろと走り出す。



 荒野に伸びる一本道。追ってくるような車はない。

 10分も走ると、「もういいわよ」とパメラは言った。

 オレンジの山が動き出す。


「ありがとう、助かったわ」

「気にしないで。でも痴話ゲンカなら、他人を巻き込まないところでやって欲しいわね」

「ごめんって、もうしないわ」

 言葉では謝っているものの、悪びれた様子はない。


「で、どこで降ろせばいい?」

「それ、マジで言ってる? こんなところでほっぽり出されたら、干からびちゃうじゃん!」


 少女は、自分が厄介ごとだと理解している。

 パメラの言うこともわかるし、言い返すこともしない。とはいえ、窓の外の荒野を見ると、絶望しかない。


「このあたり、バス停とかないわよね?」

「あったとしても、数時間待ちだよ」


「ごめん、お姉さん、助けついでに二、三日泊めてくれないかなあ。皿洗いでもなんでもするから、ね?」

「泊りなら前払いよ、バイトは募集していないわ」


 失言だった。

 パメラはまずったことに気付き目を細め、逆に少女は目を輝かせる。


「もしかしてお姉さん、モーテルやってる?」

「”ダイナー”よ。――あなた、もしかして財布も持たずに飛び出したの?」


「ええ。しょうがないじゃない、ジェフの奴、――ああ、あのマーケットで騒いでたカレのことね。あいつ、私の財布もノートもトランクに入れたまま、カギかけてんのよ。でも大丈夫、オンラインバンクならアクセスできるから、時間をくれればちゃんと払えるわ」


 ふう、とパメラはため息をつく。

 パメラは少し考え、少女に尋ねる。


「あなたが乗ってきたのはどんな車か、教えてもらえる?」


「フォードのヴィクトリアよ」

「ナンバーは言える? 色は?」

「ネイビー。ナンバーまでは覚えてないわよ」


「ニコ、わかる?」

「たぶんそれなら、5BCX982。カリフォルニア。大丈夫、見かけたらすぐに教えるよ」

「は? すっご、覚えてんの?」


「はあ。だから面倒ごとは嫌いなのよ、まったく。あなた、名前は?」

「アシュリーよ。アシュリー・パーカー」

「私はパメラ。この子はニコ。いい? 変な事したら砂漠(モハーヴェ)の真ん中にほっぽりだすわよ」


「わかってるって」

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